第32話 誇り高きアスガルドの騎士
始祖鳥は巨大な翼を広げて呪文を唱えた。すると空から光の粒子が降ってきてブエルの身体に吸収されていった。苦しそうにしていたブエルの顔が少しずつ穏やかになっていく・・・。
「これで一先ずは命にかかわることは無いじゃろう・・・」
カエデはほっと胸を撫でおろした。
「じゃが、しばらくは目覚めんじゃろうなあ」
「・・・ど、どのくらいですか?」
「少なく見積もっても・・・ざっと100年」
カエデとフェンは互いに見合わせた。
「始祖鳥様・・・俺たち、どうしたら」
始祖鳥はじっとカエデの目を見つめた。
「カエデ・・・。目覚めさせる方法がないわけじゃない」
「お、教えてください。始祖鳥様」
「ふむ・・・カエデ。この世界には神であるわしら三鳥を生んだ『創造神』がおる。ただし、その方がいるのはアスガルド大陸でもこのロンダリア大陸でもない。人間の住む場所にはおらんのだ」
カエデはうなずいた。
「バスケア山のさらに上、天界と呼ばれる場所にその方はおる。遥か天空に浮かぶ島『ロドア』・・・バハムートの里じゃ」
「天界にバハムートの里? 始祖鳥様。も、もしかしてブエルって・・・」
「ふむ・・・。この世界を創った神の一族じゃ。バハムートとは創造神の別名なんじゃよ」
「村長の名も『ロドア』。そのロドア様こそがこの世界の『創造神』じゃ。お主らはその方に会いに行け。さすればカエデの本は真に世界最強の召喚本となる。ブエルを目覚めさせることもロドア様なら可能じゃろうて」
フェンは顔を伏せた。カエデがフェンとユピに顔を向ける。
「フェン、ユピ・・・。俺、どうしたら・・・」
フェンが黙っている。ロンダリアにはローゼがいる。王妃に呪いをかけたエキドナがいる。今すぐにでもロンダリアに向いたいはずだ・・・。
するとユピが腕組みを解いて二人に言った。
「姫、カエデ。これから二人はブエルを連れて竜の里へ向かえ。ロドア様に会いブエルを助けるんだ。ロンダリア城へは・・・わたし一人で行く」
しばらくしてフェンはゆっくりとうなずき顔を上げて言った。
「ユピ・・・あたし。あなたを・・・カムサムを信じてる! あたし達が行くまで、必ずロンダリアを守っていて!」
ユピは「フッ」と笑みをこぼしデュランダルを抜き、空に向かって突き上げた。そして剣先をフェンの頭上に向ってゆっくりと降ろす。
「姫・・・宣誓を」
フェンがうなずきエクスカリバーを抜く。そしてユピと同じ動作をして、青いエクスカリバーが金色のデュランダルと交差した。フェンとユピが声をそろえて宣誓する。
「我ら! 誇り高きアスガルドの騎士! 『勇者』の名において宣誓する。生きて再び共に剣を交えんことを!」
こうしてユピはバスケア山麓の深い森の中に一人消えていった。エキドナが言っていた開戦まであとわずか。首都ロンダリアの状況を知る術は何もない。もしかしたら、すでに火の手はあがっているかもしれない。
カムサムとユピ・・・たった二人にローゼとロンダリアの民の命運がかかっているのだ。
フェンが不安そうな顔をしているとカエデは言った。
「・・・フェン。俺やっと分かったんだ。何で俺がこの世界に転生してきたのか・・・。そしてこの世界で俺がすべきこと」
そう言ってカエデはフェンに手を差し出した。フェンがカエデの手を握り返す・・・。
「始祖鳥様。あたし達、一刻も早くロドア様に会いに行かなくちゃ・・・。バハムートの里に行くにはどうしたらいいの?」
始祖鳥は背中をフェンたちに向けた。そして身体が地面につくほどに体勢を低くした。
「・・・さあ。のるんじゃ。わしが連れていく」
始祖鳥の巨大な背中に乗ったフェンたちは天界を目指して上空を飛んでいた。ロンダリア大陸のはるか遠方まで見渡せる。首都ロンダリアがわずかに見える高さまで上昇すると、始祖鳥はバスケア山の方角に旋回した。
「カエデ・・・。まだ、ロンダリアはだぶん無事・・・」
「うん・・・。カムサムたちがきっと何とかしてくれる。信じよう」
フェンとカエデは何度もロンダリアの方角を振り向いた。雲の中に入り、いよいよ首都ロンダリアが見えなくなると、二人は少し冷静さを取り戻した・・・。
(・・・! あっ!)
(・・・! ふぇ!?)
フェンとカエデがお互いそっと目線を自分の手先に向けると・・・。
二人はずっと手を握ったままだった。
突然真っ赤になったフェンがカエデの手を咄嗟に離す。
「ごごごごご・・・」
「ごめ―――ん!」
カエデが先に誤った。フェンが口をもごもごさせている。カエデの真っ赤な顔をみて、フェンにやっと笑顔が戻った。
「あははっ! カエデ。タコみた―――い」
カエデは真っ赤な顔をしたまま、バスケア山の上空をずっと眺めていた・・・。
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