第30話 初代王国騎士団団長
― 7年前 アスガルド城
9歳を迎えたフェンは王妃の寝室をおとずれていた。
「お母さま、今日あたしね~、ユピから一本とったのよ。すっごいでしょ」
フェンは小さな木刀を振り回しながらベッドの上の母に自慢した。隣にいるユピが王妃に笑顔をこぼす。当時17歳のユピは、この時すでにガスパード・ハインリヒを一騎打ちで破り、王国騎士団団長の座を務めていた。
「リディア様・・・。姫は筋がいい。負けず嫌いなところはわたしの幼い頃にそっくりです・・・フフッ」
「フェン・・・。ユピに一太刀あびせる者なんてこの広い世界でもほとんどいないわ。すごいすごい。偉いな~」
フェンはリディアに頭を撫でられ、照れくさくなって頭をかいた。
アスガルド王国王妃リディアは若かりし頃、この時のユピに勝るとも劣らない剣技でアスガルドを守護してきた初代王国騎士団団長である。
彼女の愛刀『聖剣 エクスカリバー』はアスガルド王家に伝承される宝剣である。だが、その聖剣を扱えたものはこの国の歴史において唯一彼女だけだった。
「ゴホッ・・・ゴホッ・・・」
「お母さま!」
「リディア様!」
「・・・大丈夫よ、フェン。少し休むわ。ユピ・・・これからもフェンをお願いね」
フェンとユピはリディアの主治医に頭を下げ、寝室を後にした・・・。
リディアは不治の病に侵されていた。アスガルドの医療技術ではその病を治す術がなかったのだ。
その為、フェンの姉ローゼは遠いロンダリアの地、グランフォーゼ大学医学部への留学を決めていたのだった。
それから数週間後、アスガルド王国全土に衝撃が走ることになる。
首都アスガルドが魔王軍の襲来を受けて陥落寸前となったのだ。
魔王軍は当時三大悪魔と呼ばれていた悪魔のうち、二体をアスガルドに放った。
魔女エキドナと悪魔騎士ケンタウロスである。この二体の悪魔によって数えきれないほどの人間が殺されていた。
「お前が『勇者』ユピか。子どもじゃないか。ククク。笑わせやがる。このケンタウロス様がお前を葬ってくれるわ」
上半身が人間、下半身が馬の姿をしたその凶悪な悪魔は、鉄仮面の奥から不気味な声を発した。
一騎打ちが始まった!
ケンタウロスの燃え上がる槍がユピの豪剣をことごとく払う!
一瞬の隙を狙い、ケンタウロスがユピの心臓をめがけて槍を突き出したその時、真っ黒な雨雲からデュランダルに雷が落ちた。ケンタウロスがあわてて槍を止める。
『勇者』ユピの代名詞ともいえる剣技。魔法剣『雷神』。・・・敵を圧倒する神のごとき剣技は、この時に誕生したのである。
覚醒したユピの力にケンタウロスは成すすべがなかった。勝負は一瞬で決したのだ。ユピはこの圧倒的勝利により、長きにわたり悪魔にとって恐怖の対象となる。
・・・ユピがアスガルド城に到着すると、ちょうど魔女エキドナが国王の命を奪おうとしているところだった。
そのすぐ側には、エクスカリバーを携えたリディア。そして幼いフェン。
「エキドナ! 国王から手を放しなさい!」
リディアが叫ぶ。フェンはリディアの後ろに隠れるように構えていた。リディアが体勢を落とすとエキドナに一瞬の油断ができた。
「飛竜一閃!」
リディアの放った青い一閃が、瞬く間にエキドナの腕を切り裂いた!
「キャアアァァァァァァァ!」
エキドナが膝をつき、国王が隙をみて離れる。エキドナは苦しんでいた。だが、攻撃を与えたはずのリディアの方がより苦しそうにして・・・その場に倒れた。
「ゴホッ・・・、ゴホッ・・・」
「よ、よくもわたしの身体を傷つけたわね! アハハ・・・覚悟なさい・・・。呪詛『眠りの監獄』」
エキドナの手から禍々しい闇が放たれた。そして・・・その闇がリディアを呑み込んだ!
「お、お母さま――――――!!」
フェンは力いっぱい叫んだ。聖剣がフェンの声に反応したようにぼんやりと呼応する・・・。
エキドナが不敵な笑みをうかべた。
(アハハ、邪魔なリディアはこれでしばらく手出しができないわ・・・)
そして聖剣に目を向ける。
(・・・! せ、聖剣が呼応している・・・。ま、まさかこの娘!?・・・これじゃリディアを始末した意味が・・・クッ・・・この場で殺さなくては! )
エキドナは呪文を唱えた。上空に禍々しい球体ができる。エキドナが腕を振り下ろし、フェンに向って放とうとした・・・その瞬間!
― バチ、バチ、バチ、ド―――――――ン!!
「魔法剣『雷神』!」
ユピの剣がエキドナの攻撃からフェンを守った。
球体はきれいさっぱり消えている・・・。
「・・・な、何!? その途方もない魔力・・・あ、貴方、あのケンタウロスを倒したのね・・・。ク・・・恐ろしい女・・・ア、アハハ」
「魔女エキドナ! リディア様に何をした!?」
「永遠の眠りにつかせたのよ・・・わたしの呪いを解かない限りはね。ア、アハハ」
「貴様ッ!!」
ユピが突きの構えをとる。エキドナはふわりと宙に浮いた。
「魔王様・・・。申し訳ございません。アスガルド襲撃は失敗で御座います・・・。勇者ユピが覚醒しました・・・わたし一人でこの女には・・・撤退・・・いたします・・・」
エキドナはフェンに向かって不気味な笑みをこぼした。
「またね・・・お嬢さま・・・ククク」
― 魔空間転移・・・・
エキドナは呪文を唱えると、空間を歪めてその中に消えていった・・・。
・・・アスガルド王がリディアを抱きかかえている。そしてフェンはリディアの胸に突っ伏して大泣きしていた。・・・それを見ていたユピが冷静な声で言った。
「姫・・・。涙は見せるな。リディア様はまだ生きている」
フェンが顔をあげる・・・。
「姫・・・。リディア様の・・・聖剣を取れ・・・」
ユピが指を差す。フェンは涙をぬぐいその方向を見た。
― 『聖剣 エクスカリバー』
聖剣は誰も目にしたことないほどに青く光り輝いていた。真の持ち主を歓迎するかのように・・・。フェンがエクスカリバーに向かって歩いてゆく。真っすぐ前を見据えて。
エクスカリバーを取り、幼い彼女は胸に誓った。
「必ずこの手でエキドナを倒し母にかけられた呪いを解く」・・・と!
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