第21話 魔王
― 半年前 ギルティア 魔王城
怪鳥が飛び回り、死者の怨念が立ち込めているかような不気味な古城。
玉座にいるのは、まるで人間と見分けがつかない若い男性だった。銀色の長い髪に額には魔族の紋章。黒いロングコート風の装束に身をつつんだ彼の横には、禍々しい刀が立てかけてあった。
魔王『アークシュタイン』、全ての魔族を統率する者である・・・。
「ゲエーロ・・・。エクスレイアを呼べ」
「ハ・・・ハイ。しかし、アークシュタイン様・・・エクスレイア様は今ロンダリア襲撃の真最中ですが・・・」
「構わない。それとお前の部隊にはいったカエデ・イチノセ・・・。彼の出来はどうだ」
「あ奴は出来損ないかと・・・。アークシュタイン様が気にされるような器ではございません・・・」
アークシュタインは黙っていた。ゲエーロが息をのむ・・・。
「エクスレイアが魔王城に到着次第、俺は単独でビスカに向かう。お前はエクスレイアの指示に従え」
「ぎょ・・・御意・・・」
フェンたちは小船でジュラ島に渡り、武器工場の裏手まで来ていた。フェンたちもまさか魔王がこの工場にいるとは思えなかったが「念のため」というカムサムの提案を受け、秘密裏に上陸している。
「悪魔の気配は感じないわよね・・・ユピ」
「ああ。感じないな。中に居るのは人間だ。ビスカの民だろう・・・」
工場の入り口には守衛が二人。と・・・その時。
― ドクン、ドクン、ドクン
カエデの鼓動が大きく音を立てた。胸を強く抑えている。フェンはカエデの様子がおかしいことに気がついた。フェンが声をかけようとした時、カエデの真剣な声が響いた。
「いる・・・。魔王が・・・ここにいる・・・」
― ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
轟音をたてて工場の扉が一斉に開いた。そこでフェンたちが目にしたのは数千体にも及ぶ動かない鎧悪魔。武器工場が製造していたもの・・・それは悪魔兵だったのだ!
― グアァァァァァァァァァァァァ!
突然、空から悲鳴が聞こえた!
「不死鳥様!」
「魔王か!」
フェンとユピがほぼ同時に叫んだ。不死鳥が巨大な龍に乗った銀髪の男から攻撃をうけている! 男の周囲だけ闇が覆っていて空間が歪んで見える。
カエデは本を開きブエルを召喚した。だが、上空へ飛ぼうにも、あまりに距離がありすぎる。
「ブエル、不死鳥様を・・・」
カエデが言いかけた時、不死鳥から眩い光が降り注ぎカエデの目をくらませた。
視界が戻り空を見上げると魔王が不死鳥に剣を突き刺していた!
そしてその瞬間、不死鳥の光を浴びた鎧悪魔がカエデたちに向って動き出したのだ!
不死鳥が真っ逆さまに地面に落下していく。
「ブエル! 不死鳥様を助けるんだ!」
ブエルが猛スピードで不死鳥に向って飛んで行った。
フェンとユピは数千体もの鎧悪魔を相手に戦闘を始めていた。
「ハァ・・・ハァ・・・ッ。きりがないな・・・。フゥー。一気に決めてやる」
ユピが呪文を唱えると、デュランダルの刀身に無数の風の刃が渦を巻いた。
「魔法剣『那由多』!」
鎧悪魔は次々と消えていった。・・・50・・・100・・・200! ユピは限界がくるまで続けるつもりだった。1秒間に百の斬撃。世界最速の剣技を。
その時!
カエデの目の前に銀髪の男、魔王『アークシュタイン』があらわれた。空中に浮かびカエデを見下ろしている。
それに気づき、フェンとユピが一瞬でカエデの側に移動して構えをとった。
「召喚士カエデ・・・やはり成ったか・・・」
カエデは動けない。鎧悪魔がじりじりとカエデたちを取り囲んだ。アークシュタインがユピに目を向ける。
「ユピか・・・。お前とはいずれ決着をつけなければならない・・・。だが、今はお前たちに構っている暇はない」
魔王『アークシュタイン』はそういうと、片手を突き上げて呪文を唱えた。
「魔空間転移・・・」
― キ――――――――――――ン
強烈な高音が鳴り響きカエデたちは耳を塞いだ。音鳴りが止み上空を見上げると、そこにアークシュタインの姿は無かった。
鎧悪魔がまるで号令がかかったかのように一斉に後ろを振り返り退却していく・・・。
ジュラ島の伝統ある建物や自然。あらゆるものを破壊し、数千体もの鎧悪魔は通り過ぎていった。後に残ったのは見るも無残な風景・・・。悪魔の大群はそのまま海へと消えていった。
その方角は『ロンダリア王国』。フェンの二人の姉が暮らすアスガルドの友好国。だが、こうしてビスカ王国の危機は去っていった・・・。
フェンは戦場と化すであろうロンダリアの地と民を想った。強く握った聖剣がぼんやりと光る。心に影を落とし・・・フェンは声を殺して静かに泣いた。
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