第19話 太陽の国ビスカ~火と太陽の神
青海原の向こうに微かに白い浜辺が見える。フェン一行を乗せた船は間もなく目的地ジャジャ島に到着しようとしていた。
『海の秘宝』の不思議な力によって悪魔サメとの遭遇は無く航海は順調だった。カエデは初めて見る南国の島に気持ちが踊っていた。
火と太陽の神、炎鳥。
一たび羽ばたけば命が芽吹き、二たび羽ばたけば果実が実り、三たび羽ばたけば万物が燃え尽きる。この世界の人々はその神の鳥を恐れ、そして敬いこう呼んだ。
『不死鳥』と。
「ガルム。何か緊張するね」
カエデがそう言うとガルムは身震いした。ガルムのおしりに生えた5本の尻尾が可愛く揺れている。カエデはエルドラの言葉を思い出した。
― 不死鳥にはわしからも本の装飾を頼んでおくわい。じゃが、奴はわし以上に曲者じゃぞ。心せえよ、カエデ。
それとガルム。わしは『地獄の支配者』フェンリルに古い仲間がおったんじゃ。もうとっくに死んだがの・・。
あ奴は強かった・・・。お主の尾はまだ五本じゃが奴は八本。お主に奴が超せるかのう・・・。
ガルムは「俺、ブエルに負けたくないもん」といってジャジャ島を見つめていた。
ジャジャ島は太陽の国と呼ばれるビスカ王国の領地である。ビスカ王国は5つの島からなり、経済の中心地ビスカ島を囲うように各島が点在していた。
ジャジャ島に上陸したフェン一行は港町に宿をとり、不死鳥の情報を集めた。宿屋の店主が地図をもってきて詳しく道を教えてくれている。観光客によく聞かれるのだろう。
「『火と太陽の神』が祀られているのはこのメイラの丘よ。不死鳥様は普段は雲の上にいるわ。今はここにいらっしゃるから、会いたければ空を飛べる仲間を連れて来なさい」
翌日、フェンたちはメイラの丘に到着し『火と太陽の神』の祭壇の前で空を見上げていた。
店主の言葉通りであればこの上に雲があり不死鳥がいるはず。カエデがブエルを召喚すれば空を飛んでそこに行くのは造作もないことだった。
だが、空は雲一つない晴天。一同はしばらく祭壇の前で待つことにした。
「フェン・・・雲、全然でないね」
「・・・そうね。せっかく宿屋の店主さんが親切に教えてくれたのに・・・」
フェンがそう言うと、草むらに寝っ転がっていたカムサムが突然「ガバッ」と起き上がった。
「・・・。そうか。そういう意味か・・・ははっ。いたずら好きな神さまだ」
― 不死鳥様は普段は雲の上にいるわ。今はここにいらっしゃるから、会いたければ空を飛べる仲間を連れて来なさい。
「姫。港町の宿屋に戻ろう。店主・・・彼女が不死鳥だ!」
「わっはっは。すまんのう。趣味なんじゃ。エルドラから聞いておるよ。・・・お主がブエルか・・・」
ブエルはきょとんとしてうなずいた。不死鳥は若い女性の姿でブエルの目をじっと見た。
「おお。これは、これは。エルドラの言った通りじゃ。凄まじい器じゃのう。これは本の装飾は必須じゃな。・・・あい分かった。カエデ。知恵あるお主たちへの褒美じゃ。装飾してやろう」
カエデとフェンはハイタッチしてよろこんだ。ユピとカムサムも笑みをこぼしている。カエデはお礼を言いかけた・・・。
「じゃが! その前にお主たちを見込んで頼みがある。・・・当然、受けてくれるよな?」
カエデたちはブエルの背中に乗り、不死鳥の後をついて空を飛んだ。炎のような赤に黄金が混ざった翼。優雅に羽ばたくその神々しい姿にフェンは惚れ惚れした。
ビスカの島々が一望できる高さまで上昇すると、不死鳥はそこに留まった。
コバルトブルーの海に浮かぶ緑豊かな島々。真ん中の島は山から川が流れていて、周りに建物が密集していた。上空から人は見えないが、そこがこの国の中心地であることがすぐにわかる。
だが、そこから南に位置する島。そこだけはこの島に似つかわしくない風景が広がっていた。上空に黒い煙があがっている。色褪せた森林に焼野原。異彩を放つ工場がいくつも建っている。
不死鳥はフェンを見て言った。
「気づいたかフェン? あれはジュラ島。人間の手によって汚染されている土地じゃ・・・」
不死鳥は少し元気を無くして続けた。
「わしは『火と太陽』を司る神じゃ。みすみす汚染されていく島を見逃すわけにはいかん。じゃが、わしを慕う人間たちを傷つけるわけにもいかん。だから様子を探ってきて欲しいんじゃ・・・」
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