第18話 人間のフェンと悪魔のカエデ
カムサムはエルザの側から一晩中離れずにいた。エルザはまだ眠ったままだ。魔王軍襲撃から一夜明け、クリシュナは朝から王国騎士団のもと復興にあたっていた。
ユピはいま、迎賓館で市長やマグナカンパニーの社長であるカムサムの父と今後の対応について話し合っている。
ユピの大活躍によって被害は最小限に抑えられた。一週間もすればクリシュナは活気あふれる街にもどることだろう。
「カエデ。さっきからあの子ずっといるけど・・・なに?」
フェンはカエデに尋ねた。まるで『雨と雷の神エルドラ』をデフォルメしたような小さくて黄色い鳥。部屋の隅っこでカエデを見ながらずっとニコニコしている。
それは雷鳥の子どもだった。ムシャプ山での修行中ずっとカエデを見ていたひな鳥だ。
「なんだか、すごく懐かれちゃったみたい。エルドラ様の子だよ」
「カエデもしかして・・・」
「うん。契約成立。俺たちの新しい仲間だよ。名前は『ミトラ』」
フェンが「よろしく」というとミトラは「チチチ」と鳴いてフェンの頭に飛び乗った。
雷鳥は500歳を超えると天候を操る神となる。カエデたちが生きてる間は神格化しないが、カエデはまた凄まじい力を秘めた種との契約を成立させたのである。
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契約No.:004
契約名 :ミトラ
種 族 :神族
個体名 :雷鳥
L V :10
体 力 :20
魔 力 :10
特 徴 :雷を自在に操ることが出来る。
成長すると雨を降らせる神となる。
固有技 :白雷
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カムサムはずっとエルザの手を握っていた。そっとエルザの頬に片手をあてる。
「エルザ・・・ボクが間違ってた・・・。君と離れるなんてボクには考えられない・・・。ごめんよ・・・。ずっと辛い思いをさせてしまって・・・」
すると眠っていたエルザの目からひとすじの涙が流れた。そして小さな声で言った。
「・・・カムサム。・・・隠しててごめんなさい・・・」
カムサムは首を横に振った。
「かまわないよ。君が人魚でも悪魔でも・・・。ボクにとってはたった一人の愛する人さ・・・」
(キャー、キャー、キャー! カムサムゥ~)
フェンは真っ赤になってカエデの脇腹を繰り返しつついた。カエデはよろけている。
「わたし、あなたたち人間の・・・敵なのよ・・・」
カムサムは笑みをこぼして振り向いた。フェンとカエデに笑いかける。
「ごらん、エルザ。な~んも・・・関係ないさ」
そう言ってカムサムはエルザをゆっくり起こすと・・・。
(・・・!)
フェンとカエデはお互い真っ赤になって、あわてて後ろを向いた。
フェンが目線だけをカエデに向ける。すると二人はしっかり目が合った。お互い気づかないふりをして視線をずらす・・・。
・・・ミトラが「チチチ」と鳴き部屋の中をくるくると飛び回っていた・・・。
― クリシュナ迎賓館
「フェン王女様、この度はこの街を救っていただき感謝の言葉もございません」
クリシュナ市長は最敬礼をもって第三王女フェンを迎えた。隣にはカムサムの父。ガレス。
「ええ。みなもご苦労さまでした。クリシュナの復興と強化はあなた達の手腕にかかっています。民を苦しませることの無いよう全力で職務に励みなさい」
フェンは珍しく尊大に構えている。普段はアレだが、王女であり王国騎士団副団長であるフェンは民の間ではまさしく英雄の一人なのだ。
ユピの英才教育を受けて育ったフェンは公式の場で放つ風格を自然と身につけている。カエデは心の中で拍手した。
「それと・・・ガレス・マグナ」
「は、はい。フェン王女様」
「こちらへ来なさい・・・」
「それじゃあ・・・。行ってくるよ。エルザ」
ジャジャ島行きの船の前で、カムサムは陽気な声で言った。そんなカムサムを見てフェンは思った。
(エルザさんの前だと、なかなか男前なんだけどな~。また変態おやじに戻るのか・・・)
エルザは満面の笑みを浮かべ左手の薬指を見た。
クリシュナの海と同じ瑠璃色の石・・・決して立派ではない安物の指輪。それでもカムサムの優しさと想いがたくさん詰まっている。
「カムサム。行ってらっしゃい。あなたが一番年上なんだから、王女様たちを守るのはあなたの仕事よ。絶対に負けないで。わたしはずっとここで待ってるから」
カムサムは大きく手を振った。大賢者カムサム・マグナ。彼のずば抜けた頭脳は、この先幾度もフェンたちの窮地を救うことになる。
こうしてフェン一行はアスガルド王国を後にしたのだった。
次なる目的地は南国の孤島『ジャジャ』。カエデはそこで『勇者』と並び称される唯一の職業『召喚士』の真の力を知ることとなる。
前世からの相棒、火属性最強種フェンリルのガルムとともに。
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