第17話 聖剣に選ばれし者
「飛ばすよフェン! みんなしっかりつかまって!」
ブエルがそう言って加速すると、みるみるうちにセイレーンとの距離が縮まっていった。カエデたちは振り落とされないように必死で背中に抱きついている。
離島まで飛ぶとセイレーンは逃げるのをあきらめて草原に降り立った。少し前に振り始めた雨はいつの間にか本格的になっている。
セイレーンの青い髪からは雨水が滴っていた。両翼も水を吸い込み重みで地面についている。その姿をみてフェンとカエデは言葉を失った・・・。
「・・・エルザ・・・君はエルザだろう?」
セイレーンは・・・涙を流していた・・・。
カムサムが近寄ろうとするとセイレーンは首を横に振った。
「・・・竜巻」
突如、突風が吹き荒れ魔力が凝縮された竜巻が地面の石を吸い上げる。そして巨大化した竜巻が一気にカムサムに襲いかかった!
「カムサム! 危ない!」
フェンが叫ぶと同時にカエデは本を開いた。
「いでよ! リリス!」
カエデはリリスを召喚した。リリスは白猫から少女の姿に変化すると、カムサムの方向に指をくるくる回しながらブツブツと呪文を唱えはじめた。
「リリス! 絶対零度 『氷結盾』!」
― パキ、パキ、パキ、パキ、パキ―――ン
竜巻とカムサムの間に分厚い氷の壁があらわれた! 竜巻に飲まれた小石が弾丸となり猛烈な勢いで氷の壁に激突する!
― ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
音が鳴り止むと氷の壁は粉々に砕け散り、竜巻はきれいさっぱり消え去った。
「へへー。どうじゃ、見たかフェン」
リリスがフェンに笑いかける。フェンは胸を撫でおろした。
そしてすぐさまカエデとリリスはブエルに乗って上空に飛びセイレーンと間合いをとった。
「フェン! エルザさんは『強制召喚』の契約を結ばれてる!何者かに操られてるんだ!」
カエデがそう叫ぶと、フェンはうなずいて体勢を低く構えた。ユピとの一騎打ちで繰り返し磨いてきた居合の構え。
「姫・・・。頼む・・・エルザを傷つけないでくれ!」
フェンは型を崩さず目を閉じてカムサムに言った。
「大丈夫・・・。あたしと聖剣を信じてカムサム」
『聖剣エクスカリバー』その力の神髄は『浄化の力』にある。選ばれし者のみが使える最強の剣。ユピから何度も言われた言葉だ。
フェンは目を開くと溜めていた魔力を一気に解放した。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
フェンの魔力がエクスカリバーに流れ込み刀身が青く輝く。
「剣に宿りし浄化の光よ・・・我が一閃に聖なる力を!」
― キュイ――――――ン
「 真・ 飛竜一閃!! 」
フェンがカエデの視界から「パッ」と消えた!
「・・・・・・・・・・・!!!」
カエデが刀身を鞘に納めたフェンの姿をとらえた時・・・
エクスカリバーの青い閃光はセイレーンの心臓を貫いていた。
点から点を結ぶ一直線の青い閃光。その閃光はしだいに青から白へと色を変え雨に溶けるように消えていった。
「エ・・・エルザ・・・」
セイレーンは翼を下敷きにして倒れた。カムサムが側に駆けつける。そして彼女を抱きかかえ、すぐに回復魔法を唱えた。白い光が二人をつつむ・・・。
するとセイレーンの翼がすっと消えて、元の姿へと戻っていった。
エルザは全くの無傷だった。ゲエーロとの『強制召喚契約』はフェンの一閃で解除されたのだ。
「姫・・・。ありがとう・・・」
その声を聞き軽く笑みをこぼすと、フェンはその場に倒れた。
「まだだカムサム! うえ!」
カエデは叫んだ。
空に稲妻が走る!
カムサムが見上げると、そこには薄気味悪い黒装束に身をつつみ禍々しい顔でカムサムを見下ろす悪魔の姿があった。
「お前は! ゲエーロ!」
カエデは叫んだ。魔王軍二大悪魔、大召喚士ゲエーロ。黒い霧に覆われた本がパラパラとめくれている。
「使えない女だ・・・裏切者カエデ・・・。キサマも後で葬り去ってやる・・・」
ゲエーロが杖をかざすと上空に黒い球ができた。瘴気を帯びながら巨大化していく。そしてエルザに向かって落下した。
「ブエル! 破滅の閃光!」
ブエルの口から高熱の閃光が放たれた! 巨大な黒い球と衝突し爆音が鳴り響く。
― ドゴゴゴゴゴ、ゴガ――――――ン!!
爆風がフェンたちに襲いかかった。咄嗟にカムサムが魔法陣を敷きフェンとエルザを守った。
「・・・貴様! クズ召喚士の分際で・・・。ではこれならどうだ?」
「いでよ・・・悪魔蛇」
「ま、まずい! まだ準備ができ・・・」
その時! ゲエーロの目の前に黄色い閃光が走った!
ゲエーロが召喚したとほぼ同時。雄叫びをあげる間もなく悪魔蛇は地面に落下した。一瞬の出来事だった・・・。そこには金色のマントをなびかせる英雄の姿があった。
「二人ともよくやった・・・」
「ユピ―――――――――!!」
・・・ゲエーロはユピの出現にうろたえていた。
「ユ、ユピ・・・ロゼリア・・・。貴様がここにいるということは魔王軍は全滅。く・・・覚えていろ・・・クズどもめ」
こうしてゲエーロは捨て台詞を残し去っていったのだった・・・。
ー クリシュナ湾 上空
ゲエーロを撃退したカエデたちは、ブエルの背中に乗りクリシュナへと向かっていた。フェンとエルザはまだ眠ったままだ。
「ユピ、離島へはどうやって来たの? まさか泳いで?」
「そんなワケないだろう。わたしはカナヅチだ。あいつだよ、カエデ」
カエデはユピが指さす方向に目をやった。ブエルの後方を黄色い鳥が追いかけてくる・・・。
「サ、雷鳥!?」
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