第16話 海の怪物セイレーン
― 二年前 クリシュナ港
カムサム33才当時。国防大臣となった彼は浮かれていた。
すでに千を超える戦績を収めていたユピは、カムサムの傍若無人ぶりに怒り心頭していた。
「カムサム! 貴様、自覚があるのか!」
ユピの怒りは最もだった。この時、クリシュナは海から魔王軍の侵攻を受けていたのだ。
王国騎士団が結界を張っているため街中は無事だが、このままではジリ貧になるのは目に見えている。
「固ったいな~お嬢さん。あと一週間。時期が来たら攻めるって言ってるでしょうよ・・・。それまで王国騎士団は結界のみに集中。いいね団長。ヒック」
それからピッタリ一週間後。その日は明け方から強い雨と風に見舞われた。
魔王軍にとってもクリシュナを攻撃する余裕など無い。それほど海は荒れていた。
「さて、ユピ。ここにいる王国騎士団の精鋭10名。全員が雷の魔法を極めた者たち、ということで間違いないよな」
「ああ・・・。貴様のいう通りにした」
「ヨシ。じゃあ全員で雷魔法を思いきり海に向けて撃ってくれ。魔力が底を尽きるまで撃ち続けるんだ」
ユピは「ふっ」と言って団員に指示をした。そして右手を振り上げ号令をかける。
ユピが腕を振り下ろすと、精鋭たちの強力な雷魔法が海に向って放たれた!
ユピの『雷神』が放たれた時、海は大きく荒れ狂い悪魔の気配の一切が消え去った。
こうしてカムサムは襲撃から二か月、誰一人犠牲者を出すことなく魔王軍を退けたのである・・・。
その翌日、カムサムは浜辺で若い女性が倒れているのを見つけた。
「あなたは誰ですか? わたしは誰ですか?」
カムサムは記憶の無い彼女を介抱した。彼女はカムサムに対し特別な感情をもっていった。そして二人は互いを想い合い、やがて結ばれることとなる・・・。
しかし、運命は皮肉だった。彼女は記憶を取り戻したのだ。
彼女の正体。それはカムサムの敵。悪魔だったのだ。そして彼女は嘘をついてしまった。「自分は人魚だ」と・・・。
だが、その嘘もここまで。エルザは観念した。ついにカムサムが『海の秘宝』を見つけてしまったのだ。悪魔である彼女は『海の秘宝』に触れることはできない。
悪魔の姿などカムサムにさらす気は無かった。このまま消えてしまおうと外に逃げ出した時。
彼女の前に悪魔があらわれたのだ。魔王軍二大悪魔、大召喚士ゲエーロ。
エルザの魔力では抗うことができなかった。
上級召喚士のみが使える『強制召喚契約』によって、エルザはゲエーロに支配された・・・。
「いでよ! ブエル!」
カエデたちの前にブエルが姿をあらわした。銀色に近い身体から青いオーラが漂っている。
バハムートは成長とともにその色を黒に変化させていき、やがて漆黒となるのだ。
「ブエル! セイレーンは遠くに行ってない! 追うんだ!」
カエデたち四人はブエルの背中にまたがった。
ブエルは両翼を目一杯広げて、一気に上空へと飛びあがった。クリシュナ港を一望できる高さまで昇りきると、カムサムは湾岸の離島に向かうセイレーンの姿を見つけた。
「ブエル! あそこだ!」
ブエルが旋回してセイレーンを視界にとらえたその時!
― ボカーーーーーーーーーン!
クリシュナ港から火の手があがった! 魔王軍の襲撃だ!
すでに甚大な被害が及んでいる。敵の数は100・・・200・・・いや300体! ユピはデュランダルを抜いた。
「姫。セイレーンは任せた。奴らはわたし一人で始末する・・・」
ユピはそう言うと、「シュン」とブエルから飛び降りた。
落下するユピの身体から雷が放出されて、悪魔めがけて地面に降り注ぐ。クリシュナは戦場と化していった・・・。
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