第15話 人魚と海の秘宝
「ユピ~。半年前に悪魔イカを倒した時、奴が吐き出した赤い宝石を覚えているかい?・・・ヒック!」
ユピは宿屋の店主がいれたコーヒーをひと口飲みカップを置いた。フェンたちは今、港近くに宿をとりカムサムの身の上話につき合わされていた・・・。
「ああ、覚えている。確かそのまま海の藻屑と消えたな」
「・・・あれは『海の秘宝』。持っているだけで悪魔を寄せつけないのさ・・・」
酔いのまわったカムサムが続ける。
「あれはエルザのものなんだぁ。『海の秘宝』を無くした彼女は、人魚たちの元へ帰れなくなってしまった・・・ヒック」
窓から見える街灯にはすでにあかりがともっている。
「実は彼女、街の人達からひどい差別を受けてるんだよ。裏で手をまわしているのは会ったこともないボクの許嫁さ。マグナカンパニーの御曹司なんて・・・ろくなもんじゃない!」
カムサムはグラスを叩きつけ深いため息をついた。
「もう・・・これ以上、彼女を苦しめたくないんだ・・・」
「・・・うーん・・・。まあ事情はわかったけど元気出してよ。『海の秘宝』一緒に探してあげるから。ね?」
フェンは腕組みをしながら眉間にしわを寄せた。それをみてカムサムが少しだけ笑う。
「ホント・・・ヒック。姫は優しいねぇ・・・。でも海の底に沈んでるからさすがに無理だよぉ」
するとユピが言った。
「ジャジャ島行きの船着き場から南に半マイル。悪魔の気配を一切感じない場所があった。その円の中心。海の底に『海の秘宝』とやらは沈んでいる。恐らくな」
フェンと焦点の合わないカムサムは互いに顔を合わせた・・・。カエデはじっと腕組みしているユピをみて、あらためて思う。
(すっごいなユピ・・・)
船着き場で小型船を借りたカエデたちは、『海の秘宝』が沈んでいる場所までやって来た。つがいのカモメが空を飛んでいる。カムサムはしばらく海をのぞき込んでいた。
「お客さん。ここの水深は50フィートだよ。ホントに飛び込むの?」
そう言って船長は錨を豪快に海に投げた。
意を決したカムサムは装束を脱ぎ捨て、下着姿で準備体操を始めた。それを見たフェンとユピが咳払いをして目をつぶる。二人とも少し顔が赤い。
― バッシャ――――――-ン!!
カムサムが海に飛び込むと、大量の水しぶきがあがった。
と、その時、大きく船が揺れた!
― ゴガガガガガガガガガア
「ほう。ついにこのレベルの悪魔が出てきたか」
悪魔蛇だ。ユピはデュランダルを抜いた。バチバチと音を立て刀身に電気が発生する。水族系の敵と最も相性の良い魔法剣『雷神』。
悪魔蛇は大きく口を開けて鋭い牙をユピに向けた。牙から滴り落ちた紫の液体が、甲板に触れて蒸気と化す。甲板には焼け跡がついている。
「わたしが片付ける。みな毒に気をつけろ!」
(・・・!)
カエデが何かに気づいた。ユピに伝えようとした時、ユピの剣が先に動いた!
「ユピ―――!! スト―――ップ!!」
間一髪。ユピの『雷神』が悪魔蛇の頭上で停止した。『雷神』のエネルギーがわずかに放出し海へと流れた。悪魔蛇は動かない。ユピの眼光に威圧されていたのだ。
すると悪魔蛇はガタガタ震えだし、踵を返して海へと消えていった。
(・・・。あっ!)
フェンも気がついた。ここは海上。ユピに『雷神』なんて使われたらこちら側が全滅だ・・・。
ユピがデュランダルを鞘に納める。カエデはほっと胸を撫でおろした。
フェンが海をのぞき込む。すると・・・。海の底から何かが浮かんできた。
・・・それは下着姿のカムサムだった。手には『海の秘宝』。彼はぷかぷかと波に揺れていた。
「カ、カ、カムサム―――――――――!!」
無事(?)に悪魔が嫌う『海の秘宝』を手に入れたカムサムたちは、エルザに渡すために酒場におとずれていた。
「うぅぅぅぅ。キツイ。それ仕舞ってくれない? フェン・・」
カエデは目頭を強く抑えた。涙が止まらない。ガルムはくしゃみを連発している。
「ホントにさよならするの? カムサム・・・」
カムサムが軽くうなずき『準備中』のドアを開ける。
「・・・! カムサム」
エルザはほうきを床に落とした。それを拾い上げ、カムサムは『海の秘宝』と一緒にエルザに渡した。そしてカムサムは・・・エルザに別れの言葉を伝えた。
エルザの目には涙がにじんでいた。しばらくして大粒の涙があふれると・・・。
エルザの強烈な平手打ちがカムサムの顔面にヒットした。
「あなた何にもわかってない! 馬鹿!」
エルザは『海の秘宝』をカムサムに投げつけ店を出ていった・・・。カムサムは肩をがっくりと落とし膝をつく。
その時!
「キャ――――――!」
エルザの悲鳴が聞こえた!
カムサムは飛び起きた。カエデとフェンは互いの目を合わせると、急いでドアの方へ駆けて行った。カエデがドアを開ける。
フェンの目の前には悪魔が待ち構えていた。
大鷲の羽を生やした女性の姿。クリシュナに伝わる海の怪物『セイレーン』だ。
フェンはエクスカリバーを抜いて叫んだ。
「セイレーン! エルザさんをどうしたの!?」
セイレーンは赤く光った目をカムサムに向けると、何かを訴えかけるように口だけを動かし、大きな羽を広げて空に飛び立っていった・・・。
カムサムは大声で叫んだ!
「エルザ――――――!!」
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