第14話 貿易港クリシュナ〜大人の恋の物語
― 貿易都市クリシュナ
瑠璃色の海と赤い屋根の街並みが鮮やかに彩るその街は、アスガルドと世界を結ぶこの国唯一の貿易港を擁する大都市である。
今日も大型船からたくさんの積み荷を降ろし、多くの観光客で賑わっていた。
この国におとずれた人の多くは、まずはクリシュナの美味しい魚介料理と軽快な音楽に心を弾ませる。アスガルド城を経って50日目。フェン一行はアスガルド最南端の街までやってきたのだった。
カエデはガルムに魚介料理をおねだりされて、旅のお小遣いのほとんどを使い切ってしまった。
「ガルム~、もう勘弁してよ。お金もうないよ」
カエデがそう言うと、ガルムはカムサムに近寄り肩にポンっと乗った。
「カムサム〜。グミホタテ買ってよ」
犬ちゃん大好きカムサムは当然この要求に応えた。懐かれたと勘違いしたカムサムがはしゃいでいる。
「カムサム楽しそうね。元気なかったから心配してたんだけど・・・」
カエデはクリシュナに到着する前のカムサムの独り言を思い出した。
ー はあ。クリシュナか・・・。はあ。帰りたくねぇ。
カエデがボーッとしているので、フェンはカエデのグミホタテをそーっとつまみ食いした。
(ウシシ・・・もぐもぐ。・・・美味っ。何これ!?)
火と太陽の神、炎鳥の住処とされるジャジャ島は港から南に80マイルほど進んだ場所にある。フェンたちは船着き場で目的の船を探していた。
― ジャジャ島行きは海域に悪魔サメが大量発生しているため当面の間運休します
「ああ・・・。そう来たか。カエデ君。やっぱり行きたい? ジャジャ島」
クリシュナには100を超える貿易会社がある。そのうち最も大きな会社が『マグナカンパニー』、世界有数の大企業だ。
社長はガレス・マグナ。カムサムの実父であり、この街一番の実力者である。
「家帰りたくないんだよなあ~。親父がさあ。勝手に決めた許嫁と結婚しろってうるさいんだよねえ・・・」
「い、許嫁!? ・・・そ、それはいっそのこと・・・結婚しちゃえばいいじゃない・・・の?」
カムサムは店員にウィスキーを注文した。すでにやけ酒モードになっている。
「わかってないな~姫は。まだ子供だからなあ。・・・クソ! ヒック・・・」
ほんの2杯でベロンベロンに酔っぱらったカムサムを見て、ユピはため息をついた。
(カエデ・・・、ねえ、カエデ)
フェンがカエデの脇腹を肘で突っついた。カエデがフェンに耳を傾ける。
(もしかして、カムサム好きな人いるのかしら・・・。まさか・・・ユピ!?)
ユピの地獄耳はフェンの声を聞き逃さなかった。フェンをにらむ。
フェンが肩をすくめて舌をだすと、ユピは「ない、ない」と言って手をふった。「絶対にやめてくれ」という意思表示だ。
その時、ゆったりとしたメロディが店内に流れた。
そして美しい歌声が響きわたる・・・。ステージには青い髪の美しい女性。
・・・フェンは聴き入っていた。カエデとユピもメロディに合わせて気持ち良さそうに揺れている・・・。
「はっ!」
フェンはカムサムの異変に気がついた。
(カムサムが・・・あのド変態のカムサムが・・・めちゃくちゃ渋い顔してる!)
その女性は名前をエルザといった。この酒場の店員だ。エルザはカムサムを見つけて近寄ってくると、美しい声で「おかえり」と言った。
カムサムは寂しそうな笑顔をした。そして何も言わずに一人で店をでていってしまった。
エルザはフェンに苦笑いをした。フェンが戸惑いながら笑みを返すと、彼女は少し目を落して店の奥に戻っていった。
「ねえ、ねえ、カエデ・・・。これってけっこう気まずいやつだよね・・・」
フェンは目を輝かせていた・・・。
カエデたちが店をでるとカムサムはちゃんと外で待っていた。
酒代を払わずにでていったせいでユピがお金をだすことになったため、当然、怒られている。
フェンはユピの怒りがおさまるのを見計らってカムサムに事情を尋ねた。カムサムは黙っていたが、ついにフェンが「王女がどうだ」とかいって王族を主張してきたため、カムサムは観念した。
「・・・ホントしつこいな姫も。エルザはボクの恋人さ」
フェンは「キャー」と言って手のひらをあわせた。
「彼女・・・人魚なんだ・・・」
カエデとフェンは互いの顔を見合った。
「・・・は?」
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