第12話 王女様の隠し味
「ぐえぇぇぇぇぇぇ。ま、まっずぅ!!」
フェンはそう言って水を一気に飲み干した。横でエプロン姿のユピが不機嫌な顔をして瓶のふたを開けた。ぺろり。
(塩・・・)
ウルヌラが持ちかけてきた勝負。それは『お料理対決』だった!
ルールは単純だ。二人一組で3品作り、味、見た目、独創性を判定し、よりポイントの多かったチームが勝利する。相手はウルヌラとバイトの娘チーム。審判は工房の常連客であるメイ、パム、ポッコというおばさん三人組だった。
フェンとユピの前にはおびただしい数の残飯があった。黒焦げになった肉のかたまりや野菜、卵の殻や調味料。食材は至る所に飛び散っていた。ユピのほっぺたには小麦粉がべっとりくっついている・・・。
フェンは料理の腕に自信があった。小さい頃から作っていたのでフェンが作る料理は普通に美味しいのだ。
・・・だが、問題はユピである。
「わざとか!」とフェンが怒鳴るほど、高確率で調味料を間違える。味付けにミスがなかったとしても火加減を間違えて丸焦げにする。たまに美味しくできたと思ったら、転んで床にまきちらかす・・・。
二人一組の勝負である以上、ユピも何かしら手伝わなければならないルールだからユピのドジっ子ぶりは致命的だった。フェンは頭を抱えた・・・。
その時、フェンは何かに気がついた。
「・・・! そうか、この作戦なら・・・」
フェンは手をポンッとたたいた。
「さあ、はじまりました! ウルヌラ工房名物! お料理対決う~! フルゴラの皆さん。本日の相手は何と、フェン王女様とユピ様の『勇者』コンビだよ~! さあ、寄ってらっしゃい」
フルゴラの街にパンパンと花火があがった。フェンが思っていたよりずっと注目を集めた勝負だったのだ。
「制限時間は1時間! さあ、スタート!」
司会の合図で料理対決が始まった。
合図とともにウルヌラとバイトの娘は卵とひき肉をとりだした。手際よく玉ねぎをみじん切りにしてひき肉と合わせてこね始める。
フェンはそれを見てから、ユピに大鍋に火をかけるよう指示した。ユピがかまどに火をつける。当然、最大火力だ。彼女には火加減を調節することなど出来ない。
だが、それで問題ない。フェンはニヤリとした。
この料理対決において唯一ユピが相手に勝るものは何か。
それは・・・。世界最速かつ正確無比な包丁さばきだ!
フェンは野菜を手に取り、次々に上空へとほうり投げた。ユピがジャンプして具材を切り刻んでいく。ひと口大にカットされた野菜はほぼすべての大きさがそろっている。
そう。ユピはミリ単位で野菜の大きさを整えることが可能なのだ!
刻まれた野菜が大鍋の中に放り込まれていく。観客から大歓声があがった。相手がそれを見て地団駄を踏んでいる。
野菜の分量やゆで始めるタイミングは全てフェンが調整している。これならばしっかりと中に火が通るし、何より栄養バランスもばっちりだ。
しかも、空中で野菜を刻むため、ユピの力によってまな板まで切り刻まれ、料理に投入されるというリスクも回避できるのだ。
フェンの作戦。すなわちそれはユピにこれ以外何もさせないことだった!
全ての具材を大鍋に投入しフェンは味をつけた。いい匂いが会場に広がる・・・。
料理開始から1時間が経過し、司会者から終了を告げるアナウンスがされた。
メイ、パム、ポッコのおばさん三人組の席に3品が並ぶ。
ウルヌラとバイトの娘チームの品は、ハンバーグ、ポテトサラダ、コーンスープ。
「このハンバーグ、柔らかくておいしいわ。肉汁がジューシーでいいわね」
メイが言うと、他の二人もほめたたえた。
おばさんたちが全ての味を確認すると、いよいよフェンとユピチームの品が並んだ。
フェンは息をのんだ。ユピは腕組みしてじっとおばさんたちを見ている。野菜を切ること以外何もしていないが、あたかも自分が味付けをしたかのような態度だ。
オニオンサラダ、カボチャのスープ、そしてフェン会心の作品・・・。
― ビーフシチュー!
おばさんたちは、ビーフシチューの甘い香りに誘われて目がとろけていた。
「いやあ。約束通り錫杖はすぐに預からせてもらうよ。明後日にはできるだろうから、また取りに来てくれ」
フェンはニコリとして錫杖をウルヌラに渡した。
「それにしても完敗だったよ。あのビーフシチューは本当に美味しかった。王女様、あれの隠し味は一体何だったんだい?」
ウルヌラはフェンに尋ねた。ユピもうなずいている。
フェンの頭にはカエデの姿が思い浮かんでいた・・・。そして少し顔を赤くする。
「フッフ~。それはね・・・・秘密!」
フェンは人差し指を口に当て、ユピに向って目くばせをした・・・。
最後までみていただいて本当にありがとうございました。
ブックマークしていただいた皆さま励みになります☆
これからも頑張りますので応援していただけると幸いです。