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手繋ぎサンタ  作者: 幻中六花
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手が残っていてよかった

「でもアレですね、三之助さんが三男でよかったですね。私は三之助さんとでないと、結婚してもこんなに笑っては暮らせませんでしたから」

 タツがほうじ茶をすすって、幸せそうに目尻を下げて笑う。


 当時、恋愛結婚などする人の方が少なかったのだろう。決められた人と結婚していく友達がいる中で、三之助とタツは恋愛結婚で結ばれた数少ない夫婦なのだ。

 2人が出会い、お互いに好きだと自覚した頃は、相手が戦争で命を失わなくて本当によかったと、よく泣いた。


 命だけではない。こうして5体満足に生まれて、戦争でも失わなかったのは奇跡に近いのかもしれない。

 タツは、

「私に両手が残っていてよかったです。三之助さんに、ご飯を作って差し上げられますからねぇ」

と口癖のように言う。


 毎年夏になると、嫌でも終戦の日のことを思い出す。三之助が必ず、一太郎のことを話す日。

 三之助はいつも、

「戦争があったのはとても残念なことだけれども、なかったら、こうして毎年兄さんの話をすることもなかっただろうねぇ。まだ生きていたかもわからないし、毎年思い出せるからよかった、と思うようにしているよ」

と言う。


 ──人は生命を失った時と、忘れられた時に、合計2回死ぬ。


 三之助もタツも、そのことは身に沁みてわかる。戦争で亡くなった人のことは、思い出さないことはないから、2回目の死は子孫がこの世を去るまで訪れない、というのが、2人の考えだった。

 だから、子や孫にも、一太郎の話は聞かせていた。


「私達、あと何年、一緒にいられるんでしょうかねぇ……」

「よくまぁずっと一緒にやってきたなぁ」

 三之助がそう言って笑うと、タツは決まって

「お互い様ですよ」

と笑った。


 三之助とタツは、身内から見ても近所の人から見ても、とても仲のいい老夫婦に見えた。

 この年齢で、天気のいい日に手を繋いで散歩をしている夫婦は、なかなか見かけない。

 2人の時間の流れは、とてもゆっくりだった。

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