明るく輝く彼女と影の僕
「この17年間に意味はあったのだろうか。」
自嘲気味に笑う俺。もうこの世界に未練などない。なのに、あと1歩がどうしても踏み出せない。なんだかんだいてやっぱり俺は死ぬことが怖いのかもしれない。ここから飛び降りたら少しくらいみんな俺を見てくれるのかそんな甘い期待も抱いた。だがこれから死ぬ俺には関係ないことだとすぐその思いは消えた。
決心はついたつもりだった。
「よし、」
何故だろう今になって走馬灯のようにこの17年間の人生が思い出されていく。
僕には、同じ誕生日に同じ病院で生まれた幼なじみの女の子がいる。彼女の名前は、美園秋。家が隣のこともあり幼稚園ごろまでずっと遊んでいた。一緒に遊んでた秋とは小学校でも変わらずに一緒に遊べるとおもっていった。しかし、小学校に入ってから俺たちの関係は変わってしまった。いや僕が変えてしまったのが正しいのかもしれない。
小学校に入ってから秋は、輝いてた。幼稚園時代、僕が体操をしてたことをきっかけに、彼女も体操を始めた。最初は、僕の方が上手だったが、元々運動神経が良かった秋は僕を超えみるみると上達していった。そして小学3年生の時、全国小学生体操大会で金賞を手にした。それを学校で表彰されるや、彼女は人気者になった。当時の僕は、負けず嫌いだったため彼女に負けないよう努力を続けた。だが、彼女に追いつく事は無理だった。母親にはこう言われた
「あなたも秋ちゃんくらいすごかったらねよかったのに」と。
彼女は顔も美人で愛想もよくクラスの人気者だった。僕はそんな彼女にひっつく虫のような存在だった。クラスの子達によく馬鹿にされた。
「なんでお前みたいなのが秋ちゃんにくっついてんだよ離れろよ」
「お前と秋ちゃんとはつりあわねぇよ」
幼いながら僕には気づくことができた。美園秋と僕には、高い壁があることを。そんなことは薄々知ることができた。でも秋は毎回こう言葉をかけてくれる。
「気にする必要はないよ。私が一緒にいたくていてもらってるの君は気にしないで。」って。
彼女が中学受験をすることを聞いた。僕は彼女の期待に答えたく、僕も同じ学校を目指すことにした。彼女が目指す中学校は市内有数の進学校。僕にはあまりにも無謀すぎる挑戦。学校の昼休みにも勉強をし、友達と遊ぶこともなく勉強に打ち込んだ。僕には余裕がなかった。しかし、彼女はそれと対照的に余裕があった。友達とかなりの頻度で遊んでたし放課後も友達と遅くまで話している様子があった。
2月1日、秋と一緒に志望校に向かった。テストを受ける前こんな話をしたのを今でも覚えてる。
「今までの勉強成果見せてやろうぜ!絶対2人で合格しような!」
「うんもちろん一緒に合格だよ!約束」
結果俺だけ落ちてしまった。
「見て!私の番号あった合格だよ!ねぇ、」
彼女はきっと察してくれたのだろう。言葉に迷っていると僕はそれに耐えきれなくなり走って逃げ出してしまった。家に帰ると親に殴られた。
「この3年間あなたにどれだけのお金を費やしたと思っているの!塾にもいれて結局結果も残せないなんてなんなの!私たちの努力をお金を返て!」
そして最後にこう言われたーー
「なんであなたは秋ちゃんみたいにならないの私の子供が秋ちゃんだったらそれだけよかったことか」
と。。
そこから母親は家庭内暴力に走った。家計内序列が低かった父親は、それを止めることが出来ずただゴメンと謝ってくるだけだった。そして僕は、小学校の卒業式まで1ヶ月間自室に引き籠った。卒業式の日身体中のあざをうまく隠したつもりだった。こんなの見られたら警察沙汰になってまた母親に怒られてしまう。殴られてしまう。そんなことを考えてると秋が話しかけてきた。
「あ、あのさ久しぶり!こ、これからは違う学校だけどお互いの学校も近いしさまた一緒に登校しない?」
僕が傷つかないように言葉を選んでくれたのだろう。だが逆にそれが僕をイライラさせてた。
「もうお前と僕は関係ないだろう!僕は約束を守らなかったんだ。だから僕に構うなよ!志望校に落ちた僕を哀れむな!」
逃げようとする僕に秋が無理やり話を聞かせようとしてくる。その時不注意で身体中のあざを見られてしまう。彼女は驚いた様子で言ってきた。
「ど、ど、どうしたの!?」
今度こそ彼女の手を払い僕ら強引に逃げだした。
僕から俺になった。過去の自分とはおさらばするために。
中学に入っても他校である秋の噂は耳に入ってきた。いろどりみどりの男性から告白を受けてること。今度は陸上を始めてそれでも優秀な記録を残してること。勉学においても模試で全国トップ10をとったということ。彼女が雲の上の存在になってしまったと改めて思った。母親の暴力は日に日に増してきた。正直暴力を受けてしまっても仕方ないと思っていた。それほどの金と時間を俺は無駄にしてしまったのだから。中学3年間でまた勉強を重ねた。今度は独学でおこないまたあの志望校を志望した。淡い期待を胸にしながら受験に臨むと無事合格することができた。その時は母親も喜んでくれたのを今でも覚えている。
これでやっと彼女に並べる。小学校の罪滅ぼしができる。そう思っていたがそんなのは夢のまた夢の話だった。高校登校初日、秋に挨拶をしようとクラスに訪れると中学からの内部進学生たちにに呼び出され暴力を振るわれた。
「高校入学生のお前が秋様に話しかけるなんて100年早いんだよ身の程を弁えろ。」
「お前みたいな奴が馴れ馴れしくするんじゃない」
そこから俺へのいじめは激化した。最初は秋がいるところで暴力が振るわれることはなかったが、今では秋の前でも行われるようになった。秋は止めようとするそぶりを見せるが、うろたえすぐに何処かに行ってしまった。わかってた。だが少し期待をしてしまった自分がいた。そもそも秋と俺の関係は小学校で終わってしまったんだから。
ある時俺は頭に血が上り、暴れてしまった。そしていじめてきた奴らの骨を折ってしまった。そこからおれは、完全に悪役になった。学校にもいじめの事実を伝えようとしたが、それは言い訳だと言われ説教をされた。母親の暴力もまた再熱してきた。その時にいつもこう言われる。
「あなたが秋ちゃんみたいに優秀だったら良かったのに」
学校の奴らにも悪い噂を流され、家にも居場所をなくした俺は非行に走った。昼は街にいるヤンキーと喧嘩をして夜はそこらへんにいる女をナンパしてHする。そんな生活。何も快楽もなくそこにあったのは、自分のことをわかって欲しかった気持ちだった。
そして、俺はこんな日々に嫌気がさして自殺を考えた。この世界はあまりにも自分に厳しかった。逃げたかった。そして今に至る。
「こんなこと思い出しても何もないのに」
強すぎる光は、影を強めていく。その影が濃くなっていくことも光は気づかない。いや気づけないのだ。光が美園秋で影俺か。影になれてるのかすら怪しいけど。懐かしいな。今になってはいい思い出だ。
僕は、だれかに認めて欲しかったのだろう。体操も、勉強も頑張った。結果はダメでも、努力を続けたつもりだった。受験に落ちた日も、家族は慰めてくれるだろうという希望はどこかにあった。誰よりも努力を見てくれていたから。
「あーこんなおれでも少しは努力を、悲しみを、思いを認めてもらいたかったなw」
そんな声が夕焼け色の空のした響く。
やっと決心がついた。もうこうして1時間が経っている。あたりは暗くなり栄えていた街の光も無くなっていた。きっと最後に後悔があるとするならそれは美園秋への謝罪だ。そんなこと考えても無駄だと考えるのやめ、暗闇に体を投げ出した。
そのつもりだった。だが実際には死んでない、なんで。後ろから男性と女性の嗚咽声が聞こえる。俺はこの人たちに止められたのか。余計なことをしてくれたなと思い2人の顔を見るとそこにはーー
父親と美園秋がいた。
「ど、どうして、、」
おれは動揺を隠さずにいられなかった。どうしてここにいるの?なんでよりにもよってこの2人なんだ。母親の暴力を止めてくれなかった父親。僕の未練の相手美園秋。すると2人は泣きながら俺に抱きついてきた。
「お前が辛かったのを何もわかってあげれなくて。お前が暴力を振られているところを守ってあげれなくてごめん。父親失格のは重々承知だ。でもお願いだから自分の命を投げ出すようなことはしないでくれ!お願いだから死のうとしないでくれ!」
頭がはたらなかった。何を言われてるのか理解することができなかった。いや、理解したくなかった。俯いてる俺の顔を秋が無理やり挙げ、くしゃくしゃな顔で言ってきた。
「私はなにもすることができなかった!小学校からそう。あなたが、私の背中を追って頑張ってる姿がかっこよくて嬉しかった!自分のことばかりであなたの気持ち全然考えてあげることができなかった。身勝手な約束してあなたに重荷を背負わせていた。卒業式の日も、なんで声かけてあげればいいんだろうって迷って声かけたけど、空気読めなくてあなたにイライラさせちゃって、、。あのあざのことも心配することができなくてそのまま、どうにもすることができなかった。中学に入ってお母さんの暴力が激しくなってその中でも私と同じ高校を目指そうとしてくれたの聞いたよ!とても嬉しかったの。だから高校に入って話しかけてくれようとしてたのも知ってたし私準備してた。でも私のせいであなたはいじめられて、学年からハブられてしまってた。殴られているところを見たいのに何もしてあげれなくてごめんなさい。あなたが私のために17年間頑張ってきてくれたのにそれを誰よりも近くにいたのに理解してあげれなくてごめんなさい、、。本当にごめんなさい。だから自殺だけは、、死ぬことだけはしないで!!」
涙ながらに語られるその言葉に俺は胸を締め付けられていた。父さんも秋も悪くない本当に悪いのは俺だけ。誰も理解してくれないと思ってた。誰も信じてくれないと思ってた。誰も俺を見てくれないそう思っていたから。でも、でも、本当はいたじゃないか。気づいてくれてる人たちが。俺はそれを信じれなかった。それも2人は察してくれていたのだろうだから、遠くから様子をずっと伺っていたんだ。そしたら自殺しようとして焦ってとめにきていまに至るんだろう。
「俺は、、、生きていていいのかな?」
うまく声に出せたかわからないがそんな言葉が自然に口から出ていた。
「そんなの、、いいにきまってるよ!!私も一緒に手伝うから君が前を向けるように。自分のことをしっかり好きになれるようにだから一緒に生きて行こう!今度は絶対あなたを守るから」
おれはこの言葉が何よりも欲しかった。嬉しかった。生きてきた中で1番嬉しかった。溢れ出す涙を止めることができず俺は暗闇の中声を上げて泣き叫んだ。