第五話 これからの事
それから話はトントン拍子に進んでいった。
ミオが雇ったベテラン冒険者達は、ミオやベルフが村に付くまでの間に魔物の問題を全て片付けてしまっていた。
さすがはベテランと言った所で、魔物を狩り尽くしただけではなく、その後の対策や魔物に狙われない為の対処や幾つかの防御策も村民達に教えていった。
他にも、ミオを見捨てて逃げた新人PTに対する事実もギルドに報告して対処するなども約束してくれている。
こうして、魔物退治のために冒険者を雇うと言うミオのミッションは終わった。
結果としては村民大満足、魔物も撃退、村の中でのミオの評価もうなぎ登りである。
魔物の脅威がなくなった事に村の中では宴会が繰り広げられていた。凄腕の冒険者達を呼んできたミオはその主賓として参加しており、周りからやいのやいのと褒められたり、ちょっとした嫉妬も受けたりもしつつ、夜も更けていった。
そうして、ミオが宴会からほろ酔い気分で家に帰ると、現実がそこに待っていた。そう、ベルフという現実である。
「さて、ではこれより俺たちの今後の目標を設定する。良いなミオ、サプライズ」
『了解ですベルフ様!!』
「……了解です」
ミオの家には現在ベルフがいた。ベルフはラズ村にたどり着くと、そのままミオの家に勝手に上がりこんで、こうして我が物顔で家の主を気取っていたのだ。その光景にミオは文句を言いたかったが、ベルフとの不平等条約を締結してしまった以上、彼女は文句を言える立場ではない。
「当面の目標であった第一目標、ミオに雇われて骨までしゃぶり尽くすは達成寸前だ。では次の目標に移ろう」
『了解ですベルフ様!!』
「今なんて言いました?」
ミオがそこで待ったを掛けた。ベルフの掲げた第一目標に無視できないワードが複数含まれているからだ。
「だからミオに雇われて骨までしゃぶろう作戦が成功したと言ってるんだが?」
『そうですよ、まずはベルフ様の獲物になれた事を神に感謝しなさい』
そう、ベルフ達は当初からミオに狙いを定めていたのだ。こいつ使えそうだなと思ったベルフは、ミオの弱みを握ってカタにはめようとしていたのだ。そして、それはすでに完遂されている。
「……いつから私を狙っていたので?」
「まあ、初めて出会った時かな。お、こいつ使えそーじゃんって思ったから、とりあえず隙ができるまで待ってた」
『あの冒険者共には感謝しないといけませんね、アイツラがいなかったらもう少し手こずってましたよ』
街に行かなきゃよかった、他の人に行ってもらえばよかった。依頼達成に関して村人達から褒められた事で、先程までちょっと心地よかったミオだが、今現在は後悔の念しかない。
「さて、そういうわけでサプライズ、まずは俺たちが調べた資料をミオにも見せてやれ」
『わっかりましたー』
ベルフが嵌めている腕輪が光りだすと、空中に映像のようなものが映し出された。サプライズの機能の一つである。
「凄い、これは一体……使い魔とはこのような事もできるのですか」
『まあ私は特別性でしてね、色々なことができるのですよ。さて、更に続けますよ』
サプライズがそう言うと、さらに映像が流れる。何かの地図のような物から、文書の類い、他には商人や町人との会話まで記録されており、それらが次々と音声を伴いながら映像として空中に映し出されている。
だが特にミオの目を引いたのが、酒場で大騒ぎしている冒険者四人組の映像だった。その四人にミオは見覚えがある、こいつらは自身を置いて逃げ出したあの新人冒険者達だ。
その新人冒険者達は、楽しく話が盛り上がっていた。何をそんなに楽しく盛り上がっているのかと言うと、人通りの少ない道に入ったらミオを拐おうぜと言う話で盛り上がっているのだ。ここで聞いている当人にとっては中々精神がえぐれるような話であった。
特に、女性二人の話している内容は同性相手にするには少々過激なものであり、男性側の話している内容よりか、女性達が話す内容のほうがミオの精神を大きく削り取っていた。
「すいません、これはなんでしょうか?」
「これか? これはミオを拐ってどうするのかと言う話だな。これを俺達が偶然聞いたから、ミオを助けるために、あの峠道までやってきたんだ」
『いやーあの場所まで来てびっくりしましたよね。こいつらに襲われてるかと思ったら、まさかの魔物に襲われてましたから。危なかったですよ危機一髪ってところです』
ベルフ達が和やかに話している横で、映像の中の冒険者達の話は佳境に入ってきた。ミオを拐ってからの数日間をどうするのかから、数週間先までのスケジュールまで話が入り始め、どの程度の状態まで追い詰めたら人買いに売り飛ばすかのとこでミオがギブアップした。
「これ以上は私の精神が持たないので、すぐにこの映像と音声を止めて下さい、お願いします」
『それは勿体ない。こんな場面、一生の内に一度あるかないかですよ? じっくり見聞きする権利が貴女にはあると言うのに』
こんな場面、中々ありませんよ、瞼の裏に焼き付けときなみたいな感じでサプライズは諭すが、ミオの方は心臓の鼓動がはち切れるほどに限界だ。
「もしかしてサプライズさんは私のことを嫌ってます?」
『まさか、貴女がベルフ様の下僕になった以上、貴女のことも大切に扱いますよ。最初に出会った時にベルフ様を雇わなかった事など根に持ってなどおりません。幸運でしたね小娘、もしもあのままベルフ様を雇わなかったら、この程度では済ませませんでしたよ』
サプライズからの熱意100%が込められた有り難いお言葉がミオの心に突き刺さった。
ベルフがそこで、仕切り直しとばかりに両手を叩く。
「さて、それはともかく話を戻すぞ。ミオの家という拠点を手に入れた以上、目標は次の段階、そう、この地方に眠るおもしろ宝物達の発掘に移る」
『アイアイサー』
そこで今度は地図のようなものが空中に映し出される。その地図には、ミオのいるこの村や、他の近隣地域の村々が、地図の上に名前とアイコンで書き込まれていた。他にも、赤い点やらよくわからない名前も地図の上に書き込まれている。
もうどーにでもなーれみたいな感じでミオは呆けているが、ベルフの話が続く。
「俺たちのいる村がここだ」
「そうですか」
「それで、俺達がここ一ヶ月調べた上で、面白そうな物が眠っていそうなのがこれらだ」
「そうですか」
「で、最後にサプライズの記憶を元にした、一つでも現世に解かれたらやっべえわってのがこれらだ」
ベルフの言葉に合わせて、空中に映し出されている地図の上に幾つか会った赤い点が幾らか点滅した。それに問題があるとすると、その赤い点の一つが、このラズ村のすぐ近くにあるということだ。
「さて、というわけで冒険者として活動すっか。まずはこの村の近くにあるものからちょっくら見てみようぜ。えーっと丸々噛み? なんだこれ」
『お、いいところに目を付けましたねベルフ様、そいつは私おすすめの魔物ですぜ』
「待って下さい、ちょっと待って」
今日何度目かになるミオからのストップだ。
『貴女、ベルフ様の下僕になったからと言って調子に乗ってませんか。ベルフ様の話を何度中断させたら気が済むのです。何が気に入らないのかはっきり言ってみなさい』
「ここの村の近くに危険な魔物が? いえ、そもそもそんな危険な物と何故関わろうとしているんです?」
根が村人のミオにはベルフの言っていることがわからなかった。
「なぜって、そもそも俺たちがこの地域に来たのはその為だしな」
『はい、ちょっと大陸西部だとやりすぎちゃったせいで動きづらくなりましたからね。それで、自由に動けそうなこの地域で冒険者として心機一転やりなおそうとしているわけです』
全く答えになってない。少なくともミオが理解できる御言葉の類いではなかった。
「ギルドから絶縁処分を受けたのはちと予定外だったが、まあ問題ない。やることは変わらん」
『むしろ、冒険者として情報は集め終えたので丁度良かったですよね。もうギルドを使ってやることもないですし』
騒いでいるバカ一人と一体を見ながら、ミオは気がついた。これ本当にあかん、村に絶対いれたらいけないやつだ。自分を犠牲にしてでも、コイツラだけは村に呼び込んではいけないたぐいのやつだったと。
ミオは、今更ながらそれに気がつくと、意識が遠くなっていった。