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第二話 冒険者として

 後は依頼主とそれに関わる冒険者だけの話し合いだということで、ベルフは部屋から追い出された。その際にもベルフとサプライズはなぜ自分達に依頼を任せないのかと騒いだのだが、そこらへんはもう全員一致の完全無視からで部屋から蹴り出されたのだ。


 蹴り出されたベルフとサプライズが怒っている。彼らの自分達に対する礼のなくした態度に、社会人として正義の心が励起しているのだ。


 この恨みは必ず晴らすという決意の元でベルフ達が肩を怒らせながら歩いていると、ふと呼び止められた。


「おいそこのバカコンビ、ちょっとこっちに来い」

「ん?」

『おや?』


 ベルフが振り向くと、不機嫌なおっさんがそこにいた。歳は50くらいだろうか、髪に白髪がまじり始めているおっさんだ。顔には幾つか傷の痕が付いており、そのせいか強面の印象を見る者に受けさせた。


『ところで、そのバカとは、もしや私達のことではないでしょうね。そうだとしたら少々言いたいことがありますよ』

「お前達以外にもバカはいるが、今はお前達のことだ、いいからこっちに来い」


 大人しくおっさんに付いていくと、ベルフ達はギルド一階にある溜まり場のところまでやって来た。そのままおっさんがテーブルについて、ベルフもそれに倣って椅子に座る。


 フーっと一息ついてからおっさんが話し始めた。

「お前ら冒険者になってからどれくらい経った?」

「えーっとどれくらいだったか、二週間くらいだったか?」

『ちょうど一ヶ月前にデビューしましたよ。ベルフ様の記念すべき冒険者デビューの日として私は覚えております』

「ああ、もうそんなになるのか。この一ヶ月楽しかったからか、時間がすぎるのが早かったな」

『いや本当、楽しかったですねー、例えばあれなんか最高でしたね』


 そこからサプライズとベルフが、この一ヶ月の間のお楽しみ出来事を楽しく語り始めていると、おっさんが横から口を挟んできた。


「そうだな、まだ一ヶ月のペーペーだ、本来なら汗水たらして依頼者に頭下げて信頼を稼いでる時期だ。それが何だあの態度は、依頼主であるミオさんに失礼だとは思わなかったのか」


 おっさんの言葉にベルフが首を傾げる。


「何か変だったか? 俺の見る限り、あの態度で正しいと思うが」

『そうですよ、私達に何か問題でもありましたか? というより貴方誰ですか、偉そうな態度をしていますが、まさかベルフ様より偉いつもりではないでしょうね』


 おっさんが顔を一度上に向けて少し悩むと、ベルフを睨みつけた。

「俺はギルドマスターのレオで、ここで一番偉いんだ、なんでそんな事も知らないんだ」

「そうだったのか、それはしらなかった。覚えておこうレオ」

『ギルドマスター程度でベルフ様より偉いなどとは面白い事を言いますね』


 ベルフとサプライズ、共に自分を全く敬っていない。その事にレオの血管がピキッた。


「高レベルの人間がライラの街からやってきて冒険者になったというから期待していたが、何だこいつら……」


 そう、ベルフ達は少し前までベリの街に所属する冒険者ではなかった。つい先日、この街にやってきた人間なのだ。腕前だけは信頼できるからと別の街からベルフ達が送られてきたのだが、結果としてはクソ野郎一人と一体がベリの街に増えただけである。


「何を言ってるんだ、俺とサプライズは大陸西部を何度も救った英雄だぞ。その俺達を送るとは、アイツラも断腸の思いだっただろうな」

『そうですよ、どんな難題もマジで力づくで解決する黄金コンビと私達は呼ばれていたんです。その私達が冒険者になった事に、まずは感謝の念を示しなさい』


 しかし、ベルフという厄介事を押し付けられただけの気がするレオとしては、ベルフ達を送ってきたライラの街に感謝どころか恨みの念しかなかった。


「……ベルフ、お前は冒険者を何だと思ってる」

「ん? 冒険者が何かだと?」


 レオの問いかけにベルフがきょとんとした顔で言った。

「手に入れたいものは全て力づくで手に入れるのが冒険者だろ? 困っている依頼主から生かさず殺さずのラインで金を搾り取って、信頼と引き換えに己の人生を自由に謳歌していく職業だと思ったが」

『ですよねベルフ様』


 んなもんあったりまえだろバーカって感じの態度でベルフが言い返した。そんな当たり前の事を聞くなんて、こいつ頭に蛆でも湧いてんじゃねえのとまで思っている。


「わかったベルフ、お前についてよーくわかった、つまりあれだ、お前はクズってやつだ」


 レオが懐からタバコを取り出すと、一度吹かした。

「たまにいるんだ、レベルが上っても横暴さを持ったやつが。お前みたいなのは数は少ないが珍しいと言うほどでもない、ただのクズだよお前は」


 レオの態度にベルフは特に怒りはしなかった、ふーんって感じで聞き流している。しかし、サプライズの方は完全にブチ切れていた。


『あ? てめえ何いってんだ。偉大なるベルフ様に向かってよりにもよってクズとはどういう了見だ』

「そのままの意味だ、何だ自覚がなかったのか、お前たちはただのクズだ。そこいらに転がっている生ゴミと同じだ」


 レオは一つ欠伸をした。もうベルフ達に興味がないと言った態度である。


『ベルフ様、この舐め腐ったジジイに正義の鉄槌をかましましょうぜ。あいつも完全に起動させて、この街ごと地獄に叩き落としましょう』

「まあ待てサプライズ、俺はこの状況、嫌いじゃない」

『なんですと!!』

「なかなか面白い事になりそうじゃないか、まあここは俺に任せておけサプライズ」


 ベルフがひどく真面目な顔でそう言った。サプライズの怒声やレオの侮蔑の態度を真正面から見聞き上で、彼は彼なりに思考を巡らせているのだ。


「それでレオ、俺はこれからどういう立場になるんだ?」


 怯みも怒りもしない余裕溢れるベルフの態度に、レオが少し不気味に思い始める。だが、レオの方もそれを表には出さない。


「冒険者登録は済ませたままにしてやる。だがギルドからのサポートはない。ダンジョンでの救出や商店や鍛冶屋での斡旋や割引、それら全部が無しだ。今後、全てお前達の独力で冒険者として活動をしていけ」


 基本的に冒険者にはギルドからのサポートが付く。普段、横暴な態度でいる冒険者達も、これらのサポートがなくなるとなれば、途端に借りてきた猫のように大人しくなるか、逆上して怒り出すか、そのどちらかである。金銭や安全面での保険というのは、冒険者にとってそれだけ大きいものなのだ。


 さて、ここからベルフがどれくらい狼狽するのかとレオは期待していたのだが、当のベルフはなんというか微妙な顔をしていた。


「ん?」

『ん?』


 それはレオが期待していた類の反応ではない、何かを考えるかのようにベルフとサプライズが黙っている。そして、少しばかし時間が経過するとベルフが声を上げた。


「えーっとサポートとやらがないだけでいいのか? 他に注意することはあるか」

「いや、今のところは無いが」

『はー何かと思ったら、その程度ですかくっだらねえっすねベルフ様』


 ベルフは気の抜けたような顔を一つすると、話は終わったとばかりに席を立った。


「よし、じゃあここからは俺達の自由にさせてもらおう。ところでギルドの掲示板に貼られている依頼の類いは受けられるのか」


 ベルフがさっさと行動を開始しようとしていた。レオとの話にベルフはもう飽き始めているし、サプライズの方も、このおっさんと話してもプラスになる事は特にないと思い始めているのだ。


「いや駄目だ、サポートは一切ないと言ったただろ。お前達は登録しているだけだ、ギルドを介した依頼は全て受けさせない」

「あっそう、じゃあ俺達で勝手に仕事を見つけてくるわ」

『そうしますか』


 もう話はねえやって感じで、そのままベルフ達はギルドから出ていってしまう。その行動の速さに残されたレオは呆然としていたが、すぐに気を取り戻した。


「ああ、レベルが高いとはいえ新人の冒険者だからまだわからないのか」


 そう、気を取り直して考えてみれば何ということはない、あの態度はただの無知だと当たりを付けた。冒険者というのは基本的に危険が高まるし、経費も掛かってくる。高レベルであったとしても、これらの問題がついてまわるものだ。冒険者とギルドというのは双輪のようなものであって、お互いに必要不可欠な存在なのだ。


 新人の冒険者であるあいつらには、それがまだわからない。だからこそ、あんな横暴な態度を自分に取ることができたのだ。


 冷静になって考えてみれば、ただそれだけだなとレオが考えていると、ギルドの女性職員がレオの下に手紙を手にしながらやってきた。


「ラブレターか?」

「違いますよ、ライラのギルドからさっき送られてきたんです。何でもあのベルフとかいう人間の事で重大なことが書かれているとか、絶対に見るべしとも書かれています」


 封がされている手紙の表面には、ベルフ・ロングラン及びサプライズについてと書かれていた。丁寧に、必ず見るべしと極太で力強く書かれた文字もある。


「捨てておけ」

「良いんですか?」

「あんなロクデナシ共を自由にさせていた上に、ここに送り込んできた奴らの言い分なんて知るか。どうせここに送り込んできた言い訳でも書かれているんだろ、ウチには関係ない」


 レオはそう言うと席を立った。彼はこれから、ミオの依頼に関して細かい調整やらを済ませる必要があるのだ。ベルフとかいうあんなクズみたいな奴らに関して、使ってやる時間は一秒たりともない。


 ライラからの手紙は、そうして無視される事になった。

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