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第一話 頭が高い

 ミオ・エーテル19歳。彼女は現在、ベリの街において冒険者を雇おうとしていた。ミオの住むラズ村に魔物が多数出没しており、村の男達だけでは手が回らないからである。


 ベリの街に留学していたこともあるミオは、ラズ村で一番ベリの街について詳しい。

 他の多くの村民は街について何も知らず、ギルドの場所どころか、そもそも冒険者を雇う方法すら知らないだろう。更には魔物のことも考えれば男手を割くわけにも行かない。


 そういうわけで、ミオはラズ村の代表者としてベリの街にてギルドに依頼を出す事になったのだが、そんな彼女の依頼を受けたギルドは三組の冒険者を用意した。


 一組目は新人の冒険者四名だ。リーダーはミオよりちょっと年上の青年達で、PTのメンバーもそれと同年齢くらい。腕前の方はまるで信用できないが、それ相応に依頼料も低いので依頼しやすい相手と言える。


 次の二組目はベテラン三人組だ。全員が男で剣士、格闘家、老年の魔法使いの三人だ。どれもこれも歴戦の強者という感じがしており、彼らに任せれば村の魔物は大丈夫だろうとミオは確信できた。ただ、依頼料がかなり高い。彼らに依頼するとなれば、資金についてもかなり悩ましいことになりそうだ。


 そして……最後の三組目はソロの冒険者だった。


 その冒険者はミオと同年齢くらいの青年だ。その青年の外見は少し長めの黒髪で、目には全く気力というものが全くない。着ている物もボロっちい鎧やら剣やらで、全然強そうに見えない。身につけている物も、見るに耐えられる程度の物と言ったら左腕に嵌めた白いブレスレットくらいだ。なんというか、全体的に安っぽかった。


 さて、そういうわけで冒険者達が部屋に全員訪れると、ミオが依頼主として全員に挨拶を始める。


「はじめまして、私はミオ・エーテルと言います。現在、私の村では魔物に襲われており、皆様のうちの誰か一組を私の村で雇いたいと思っておりまして――」

『少しお待ちなさい』


 そこでミオに女性の声が待ったをかけた。新人冒険者のPTの誰かかと思ってミオが目線を向けると、彼女達はブンブンと首を横に振った。


『私ですよ私、こっちを向きなさい』


 その声の主は先程の青年だった。その青年は目を瞑り、口を結んで黙っている。にも関わらず、どこからかこの声は聞こえてきていた。


「……えーっと女性の方だったんですか? てっきり私は男の人だとばかり」

『そんな事あるわけないでしょ、ベルフ様は男ですよ。本当に目ん玉付いてるんですか?』


凄まじく口の悪い女性の声だ。その声が、青年の方からしてきていた。


「俺の使い魔のサプライズだ。わけあって、俺の体の中に宿っている。このブレスレットを介して外に言葉を発しているんだ」


 そう言うと、その青年、ベルフは左腕に嵌めているブレスレットをミオに見せる。


「そうですか、ベルフさんは使い魔持ちの冒険者だったんですね。それで、そのベルフさんの使い魔であるサプライズさんが私に話があるみたいでしたが」

『そうです、ちょっと話があります。貴女は確か言いましたよね、この中の誰か一組を雇うと。それはつまり、ベルフ様を雇う場合、貴女がベルフ様を選ぶと言う事になるわけですか?』

「そういう事になりますね」


 当然だが、ミオはベルフを雇うつもりがなかった。だって、なんか見た目的に安っぽいし、信頼がおけなさそうだ。ただ、それらの本音についてはミオも大人の態度でぐっと我慢していた。


『なるほど、では良いですか、どうも貴女は勘違いしているみたいですから良く聞きなさい』

「はい」


 サプライズが一息ほど貯めて、低音気味の声で言った。

『頭が高い』


 自分の身長はそれほど高くないはずだ。平均的な女性と比べても目立った高身長ではない、とミオが現実逃避を始めるが、いくらか考えた後、そのままで言葉を受け止めることにした。


「頭が高いですか、なにか私の態度に間違いがありましたか?」

『間違いしかありませんよ、そもそもなぜ貴女がベルフ様を選べる立場なんですか? 常識という物を少しは考えてみなさい』


 ミオが冒険者を雇うのはこれが初めてである。しかし、常識的に考えて雇い主が被雇用者を選ぶのが当然だと思っていた。だがサプライズが言うには、冒険者世界では非雇用者が雇い主を選ぶのが常識らしいのだ。


「それはすみません、私も冒険者を雇うのは初めてだったので、こういう場面で冒険者側が雇い主を選ぶとは知りませんでした」


 と、そこで今まで黙っていた周りの人間が口を挟んできた。ミオの傍にいたギルドの男性職員がツッコミを入れる。


「いや、そんな事ないですよ、普通は依頼をする側が誰を雇うのかを選べます。雇用主がギルド側に冒険者の選択を委託した場合でも、ギルド側が雇用主の代理で冒険者の選定をするわけですからね。よほど人手が不足している時なら別ですが、今回のように複数の冒険者が候補に上がったのなら、ミオさんの好きな冒険者を選んで良いはずです」

「え?」


 よく見ると、他の冒険者達も今のギルド職員の言葉に同意するかのように頷いている。頷いていないのはベルフ一人だけであった。


 ミオがベルフを訝しんで見つめると、ベルフもミオの方を見返してきた。特に何か動揺するわけでもなく、顔色一つ変えていない。そのベルフの意思を代弁するかのように、サプライズが話を続ける。


『誰が冒険者の常識を語りました? 私が語ったのは社会の常識です』


 ベルフもサプライズの意見を肯定するかのように無言で頷いている。


『知っての通り、冒険者なんぞというのはチンピラに薄紙一枚分の社会的地位を乗せただけのクズ共です。やる事と言ったら力で人や魔物をぶち殺すか、酒でも飲んでいるかで、生まれてこの方、脳細胞を知的生命体として有効に使ったことのないようなゴミどもです』


 ちなみに、ここは冒険者ギルドで更には周りに冒険者達もいる。サプライズの言葉は、そのまま彼らに対しての悪口になるのだが、サプライズにそのような心の機敏はなかった。ベルフ以外に対して、思いやりの心など持つ気がないからだ


『ですがベルフ様は違います、この世界の美しさの全てを体現したベルフ様においては、その存在を崇め奉るのが下々の義務なのです。そのベルフ様を選ぶ立場になるつもりだったとは、なんたる傲慢さ……』


 今の所ミオはサプライズの話を半分も理解していない。裏を言えば半分も理解した辺り、彼女の生真面目さには眼を見張るものがある。


『さあ、というわけでベルフ様どうですか、この女の依頼を受けますか? えーっと確か、なんか住んでいる村が魔物に襲われていてヘタレな自分らではどうしようもねえから、外部の人間に金差し出して助けてもらおうって魂胆らしいですぜ』


 サプライズの言葉を受けて、ベルフがため息を一つ付いてから言った。


「なんとなく気に入らない」

『はああああああ、やっぱりですかー』


 ベルフとしては、今回の依頼について気が乗らなかった。理由は特に無い、ただなんとなくである。


「とは言っても、こうしてわざわざ街まで来てくれたわけだし、ただで断るというのも少し情がなさすぎる。だから条件次第では受けてやっても良い」


 室内にはベルフ以外に冒険者PTが二組、ギルド職員一人、そしてミオが一人と少なくない人数がいる。しかし、その誰もがベルフ達の言葉に口を挟めないでいた。

 人というのは真心から発した言葉を聞いた時、その言葉の強さに心を打たれるものだ。それと同じ感じで、こいつマジで言ってるわとベルフ達の言葉の強さに周りが圧倒されていた。


「そうだな、村の人間全員の生命と財産、ついでに人権と宗教の自由から全部を俺に明け渡してくれるというのなら助けてやっても構わない」

『ベルフ様、正気ですか!! その程度の物でベルフ様の人生の貴重な数日間を凡人共を助けるために費やすとは、自身を安売りするにもほどがありますよ!!』

「いいんだ、たまには善意で人助けをしてみるのも悪くはない」


 ミオの顔はもうなんというか無表情になっていた。目から精気がなくなり、ベルフを見つめる目に光がなくなっている。


『はー全く、ベルフ様がこれだけ譲歩したのなら、もう決まったも同然でしょう。そこのパンピー、後はわかりますね、偉大なるベルフ様が僅かな報酬で貴女の村を救う為に動いて下さいますよ。それがわかったのなら、はよ最上級のお出迎えでベルフ様を歓待せんか!!』


 そのサプライズの言葉を聞いたミオは少し考え、冷静に考え、よーく考えた結果、ベルフ以外の残り二組の冒険者を雇うことにした。

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[一言] ベルフ再スタート嬉しいです! ベルフの活躍応援してますね。
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