拾弐 ~ 晴れのち時々重力波 ~
自己紹介も済んだし、ミィルはお腹を空かせているようなので、早く落ち着く場所へ移動しようということになる。
サクラが用意していたスウェットと、半纏セットをミィルに着せると、彼女はミィルの手を引いて居間へ戻った。居間にやってきたミィルは、周りの様子に興味津々といった感じで、チビを抱いたままあちこち歩きまわり、サクラに色々と質問していた。ミィルに付いているサクラは、嬉しそうに彼女の面倒を見ていた。
「サクラ、そのくらいにしてご飯食べさせてあげような。だいぶお腹減ってるみたいだぞ」
「あ、そういやそだね~。ミィル、ごはん用意できてるからたべよ~?」
「うん。食べるー」
サクラが促すと、ミィルは素直に従ってサクラの隣にちょこんと座った。
現地時刻は午前五時過ぎくらいになっており、いつもの朝食より早い時間だが、体内時計では夕食なのでさほど違和感はない。
今日の献立は、アイ謹製のカレーレシピをチカとムツミがアレンジした、ひき肉たっぷりのキーマカレーだ。これはミィルへの配慮もあるようで、箸を使わずに食べられるものをふたりは用意してくれたようだ。しかしこちらの日用品は、地球方式でも大丈夫なのだろうか。
気になったため、ローカルリンク通信からユカリに聞こうと思ったとき。HUD上の通知が目に入り、メイがくれた総合報告に気づく。
彼女の調査によれば、生活様式などの部分においては、ほとんどの事柄が地球と似たようなものであるということだ。となれば、当然食器類も似たようなものになる。流石に箸は無かったが、スプーンやフォーク、ナイフなどを用いて食事をするのは間違いないようだ。
地域によっては作法などにも細かい差があるが、そこまで厳密性を求める機会はないと思うので、問題ないだろう。食事前の挨拶についても、普遍的な宗教で見るような、神に対する感謝の意を述べるというものらしい。現に今“いただきます”をした際にも、彼女は何事かを静かに呟きながら、手を組んで祈りをささげていたし。他にも色々とまとめられていたが、食事中なのでこれは後で確認しよう。
祈りを済ませた彼女が、早速カレーを口へ運ぶと、表情はみるみる驚きへと変わり、黙々とカレーを頬張り続ける。その間は一言も口をきかずに食事を進めており、ご両親の清廉さがうかがえるようだ。また、誰かの問い掛けに答えるときなども、一旦スプーンを置いて、きちんと口の中を空にしてから話をする徹底ぶりである。そこでサクラが味について質問すると、とりわけ嬉しそうに美味しいと言った。
鋭敏な子供の味覚からも高評価が得られたチカとムツミは、無上の喜びといった表情を見せ、ミィルからは見えない位置で、小さなガッツポーズをとっている。
「ユカリもミィルの行儀良さを見習わないとだな」
相変もわらず、自分の膝の上に陣取っているユカリへ、皮肉を込めた手本を示す。
「失礼しちゃうわね。私は行儀悪くないでしょう?」
「んまぁ作法自体は悪くはないけど。それも俺の膝の上じゃなあ」
ヨリやリエがいないためか、ここへ来てからの彼女は常時座ってこようとする。自分も仕方なく受け入れてはいるが、ユカリを足元に乗せていると食べにくい。もうユカリの頭に小型テーブルでも装着して、その上で食事をとりたいくらいだ。飯時くらいはどいてほしいとも言ったのだが、ユカリは聞く耳を持たず、やりたい放題である。
とはいえ、彼女を甘やかしている張本人は自分なので、こちらから強く言わない限りは、ずっとこの調子が続くだろう。それに、彼女の気持ちには極力応えてやりたいので、その実甘んじて受け入れていたりもする。しかしそれはそれで悔しいので、ユカリの頭に顔を埋めて匂いを嗅いでいると、その様子を見ていたミィルが口を開いた。
「ユカリはお父さんが大好きなのね」
にこやかにそう言って、自分も父親が好きだと嬉しそうに話す彼女の屈託のない笑顔を見るのは、本当に辛い。
傍から見れば、ミィルの言い分は至極正しい。この構図では、どう見繕っても、ユカリは自分に甘えている子供にしか見えない。また関係についても、親子にしか見えていないようだ。この辺りの設定は、ミィルが思った通りに話を合わせると打ち合わせ済みなので、この瞬間自分たちは親娘関係で通す事が決定した。それにしても、ずいぶんと子沢山な家庭である。尚ここの文化では、敢えて言わない限り、兄弟や姉妹の上下を分けて呼ぶことはしない。ゆえに、自己紹介のときにサクラが言ったお姉ちゃんという単語は、単に姉妹と訳されている。そんなわけで、ミィルは見た目通りに、ユカリのことをランやサクラの妹だと判断したようだ。
「まったく、ミィルの言う通りだよ。ユカリは本当にいつまでも甘えん坊でね。こうして毎日のようにベタベタしてるんだ。まぁそこは可愛いところだし、父親冥利に尽きるってもんだけど」
そう言いつつユカリの頭をなでると、彼女は怖い目つきで睨んでくる。別に怒るようなことは言っていないと思うのだが……。
「私が甘えてるんじゃないわ。晴一お父さんがどうしてもっていうから、ここにいてあげてるだけよ。可愛い娘の思いやりってやつね」
そう言うユカリは、炬燵の中で自分の太もも辺りをつねっている。これはちょっと痛かったので、反撃としてユカリの尻やら太腿を、いやらしくまさぐってやった。食事中という事もあって逃げ場のないユカリは、もじもじと身を捩り、セクハラ行為から逃れようとする。やがてそれも諦めた彼女は、顔を真っ赤にしてまた睨んだ。この状態になると、この先はやり過ぎになってしまうため、手を引くことにする。
自分たちがじゃれている間も、サクラはまめにミィルの面倒を見ており、ミィルの方もすっかり気を許しているようだ。この短時間で、ふたりは親密な関係になったらしい。つい数時間前に知り合ったばかりだというのに、ここまで仲良くなれているのは、サクラの気さくな性格によるところが大きい。くわえて、ミィルのほうも大概肝が据わっているようで、物怖じしない性格なのだろう。
そして常々思っていることだが、女の子同士が仲良くしている姿は、時と場所を問わず、間違いなく尊い。
◆ ◆ ◆ ◆
朝食のカレーはとても美味で、勢い余った自分は大盛りで二杯もお代わりしてしまった。その後は、反省のない例の状態に陥るのだが、今日はミィルのいる手前寝転がるようなことはせず、現在は乗り物の残骸がある収容室に下りて来ている。当然ここでも、背中にはユカリが張り付いており、文字通りどこへ行くにもおんぶにだっこみたいな状態だ。
「ヨリやリエがここにいたら、ユカリの姿を見てどう思うのかね~」
背中に引っ付いて手綱を取る彼女に、かるくお説教めいた言葉を掛ける。すると、いないからこうしてると開き直ったようなことを言い、格好の付かない現状の誤魔化しに入った。
「む~。もーいいでしょー。そんなことよりも、メイとアイからUFの解析結果が送られてきたわよ」
自分のした注意が、そんな事扱いというのは酷いと思ったが、解析結果には大いに興味があるので、黙って彼女から情報共有を受けることにする。
その内容は、UFの正体と能力に関するものだった。自分たちがUFと呼んでいる敵性体は、大幅に変化してはいるものの、元々は人類勢が投入していた自律兵器だったらしい。しかし、運用当時の原型はまったくない。この変質原因は、情報生命体とケイ素系生命体の放った、“鹵獲因子”の混合体によって、影響を受けたことに因るものだった。
鹵獲因子とはその名の通り、対象となった自律兵器を侵食して機能を奪い、自戦力へ取り込むために二勢力が編み出した対抗手段だ。その本質は、特性を書き換えた自身の一部を放出することで、対象を支配するという手法である。
ケイ素系生命体と情報生命体は、似たような性質を持っているため、攻撃手段も似通ったものになっていたようだ。だが、そもそも敵対していた二勢力の鹵獲因子が、何故混ざり合っているのか。また、そんなものがどこで自律兵器を侵食したのか。その原因については、分からなかったようだ。
とりあえずUFの正体は判明したので、今後の呼称は“変質体”とすることになった。
変質体の能力についてだが、射出される棘の正体は戦闘ログ解析でも見た通り、分解型のナノマシン飛翔体だった。変質体本体の浮遊は重力制御で行っているようだが、推進に関しては重力ベクトルの操作ではなく、棘を地面に突き立てて、蹴るように移動する方法をとっている。これは、ランとサクラの視界映像でも確認していたことだ。これによる移動速度は、さほど速くはないので、自分たちの対処能力なら問題にはならない。それでも亜音速域くらいには達するので、実際は恐ろしく速い。
そして、変質体最大の脅威となるのは、その動力源だ。変質体は、元の自律兵器とは構造がかけ離れており、超空間リンクによる給電などではなく、機体内部に重力子を応用したと思われる“転換炉のような物”を搭載している。
この転換炉のような物は、炉心となる部分に永続的な自律回転運動を行う、正体不明の高質量物質を用いており、回転を加減することで質量を変化させ、その差分を電力として取り出すという代物だ。回転を制御する手段としては、炉の内側へ展開された物理保護領域を利用しているらしく、電力は軸方向へ出力される。回転速度を自在に変えることによって、安定した電力供給を実現しているらしいのだが、破損が激しいためそれ以上のことは分からなかった。
炉心が破壊された際に、エネルギーが放出される現象については、制御を失った炉心が暴走して自壊する際に発生する、電磁気的な衝撃波だったらしい。
変質体にとどめを刺したのは、ランの放った攻撃で、彼女が生み出したプラズマ収束放射が炉を貫通したため、活動停止に至ったようである。炉が破壊されたことによって、内部にあった高質量物質も同時に崩壊し、莫大なエネルギー放射が発生することになった。その影響範囲は、当該規模の変質体でも、半径約二・六キロメートルが即死領域になるとのことだ。しかしこれは、磁力のみの影響範囲であるため、ここに放射線の影響を重ねると、範囲はさらに拡大し、半径約六・八キロメートルが致死領域になるという。
b近傍宙域には、更に大きな変質体も確認されており、場合によってはさらに被害が拡大する可能性もあるということだった。謎の高質量物質とは、とてつもなく危険な物らしい。
変質体は自己修復力が高く、構造自体が思考回路のようなものなので、決定的な打撃を与えるには動力部を破壊する他はない。だがその戦術は、同時に大きなリスクを伴うため、周囲に人がいるような状況では、撃破などもってのほかである。先の変質体を撃破した場所が人口密集地であったなら、とんでもない惨劇に見舞われていただろう。知らなかったとはいえ、もしそんなことになっていたらと思うと、背筋が寒くなる。
「これは――どうしたらいいのかしらね。またアレと遭遇したときは……。ちょっと困ったわね」
「だなあ。大いに困るなこんなモン。俺たちには大した脅威じゃないけど、周りに及ぼす被害が大きすぎる……。戦術核クラスだぞこんなの」
本当に洒落にならない。なんてものがうろついているんだこの星は。にしても、ここの人たちはどうやってこんな脅威に対抗しているのだろう。何か特別な手段でもあるのかな。
「参るわね次から次へと。この乗り物も良く分からないし。もう探査機の大量投入でもしてやろうかしら」
まだここへ来て二日目なので、そう焦ることもないとは思うのだが、ユカリは山積みの問題に少々焦れているようだった。その気持ちも分からなくはないが、こういう時こそ落ち着いて慎重に当たるべきだろう。
「ユカリは賢いから言うまでもないことだけど、ここへは来たばっかだし。じっくりやろう」
「うん……。わかってる。これは愚痴だから適当に聞き流して。それと、いっつもありがとね晴一」
ユカリはそう言うと、意外にも自分の頬に軽くキスをした。この行為は、自分が要塞惑星にやってきてから一番驚いた事件の記録を軽く凌駕した。このとき二位へ格下げとなったのは、“ホントはいつでも地球に帰れた事件”だが、結局これもユカリ絡みである。
「どうしたんだよ突然……。意外すぎて固まったぞ」
「意外な事で悪かったわね。でも、たまにはいいでしょ?」
「そだな……」
自分からは喜んでするくせに、ユカリからされると何故か照れくさい。そんな照れ隠しのために、返事をしながら尻をくすぐる。彼女は頭をぽかぽかと叩いたが、怒っている様子ではなかった。
◆ ◆ ◆ ◆
居間へ戻ると、皆は静かに炬燵でお茶を飲んでいた。ユカリを膝に乗せて炬燵に入ったとき、ミィルの姿が見えないことに気づく。そこでサクラの方を見ると、彼女の膝元の布団が、やけに盛り上がっているのが見えた。軽く尻を浮かせて炬燵の陰を覗き込むと、ミィルが膝枕で眠っているようだった。サクラにしがみ付くようにして、身を縮めて眠るミィルの姿は、覚えてはいないはずの恐ろしい記憶に苛まれているようにも見え、胸が締め付けられる。
ミィルの目が覚めたら、祖父母の話をもう少し話をしてみよう。そうして彼女を送り届けて……。相手方に事情を説明して……。やるせない。
そんな彼女に、サクラは嬉しそうに接してよくよく面倒を見ており、またミィルの方もとても楽しそうなので、自分も皆もかなり救われている。サクラには感謝しかない。
「そういえばミィルの家ってどこにあるんだろう」
頭に顎を乗せたまま、ユカリの手を握って、ミィルに関する情報が他にもないか聞いてみる。
「それね。メイに頼んでハティ一家の足取りも調査してもらったんだけど、予測した移動ルートをさかのぼったら、生家と思しき建物が見つかったわ。場所はここから北西へ八十二キロほどの位置なのだけど、小さな牧場みたいね」
ローカルリンクで繋がれた探査機からのライブ映像には、三百メートル程の範囲を柵で囲った放牧地が映っていた。そこに付随する厩舎の中には、恐ろしく毛足の長い牛のような羊のような、良く分からない草食動物らしき生き物が、二十頭ほど見える。そのモジャモジャたちは、朝日に照らされて鼻から湯気を吐いており、餌箱にあふれる干し草めいた物をひたすら食んでいる。
牧場内へ至る小道の脇には、“ハティ”とだけ書かれた木製看板が立っていたので、この牧場が彼女の家で間違いはないようだ。上空からの光学望遠だけでは分かりにくいため、広帯域赤外走査やマイクロ波なども使って、母屋と思しき建物内を透過調査した。けれど人の気配はなく、完全に無人のようだ。
「どうしよう。ミィルが寝てるうちにひとっ走り行って見てこようか」
「いいえ。それはリスクが高いと思うから止めておきましょう。また変質体に遭遇しないとも限らないし、何より勝手に他人のお家へ勝手にお邪魔するわけにも――あら?」
話の途中で、突然ユカリは黙り込んでしまったが、どうやらローカルリンク経由で通信を受けているらしいので、一緒に覗いてみる。
彼女と探査機間に張られた、アクティブなリンクに割り込んで通信に参加すると、牧場とは別の位置にいた探査機から、空撮映像が送られてきていた。そこに映し出された光景は、今朝方変質体との交戦を行った現場上空からの映像で、なにやら白い鎧に身を包んだ九人組が、地面や周囲の草木などを調査しているようだった。
中でも、毛色の違う赤みを帯びた鎧を着けている人物が、路面に屈んで手をかざしているので、ユカリに拡大してもらう。かざした手からは白い光が漏れ出して、石畳の路面を水が流れるように広がり、当該人物を中心とした光の円を作り出している様子が見える。円の直径は十六メートルほどで、ほぼ街道の道幅を埋めていた。それと同時に、探査機のセンサー情報が賑やかになり、超空間リンク形成時の重力波検出を告げはじめる。
自分とユカリは顔を見合わせて、さらに周辺の詳細な探査にかかると、件の人物から発せられるものと同じタイミングで、キトアの方角からも重力波が検知されていた。微弱ではあったが、間違いなく対になるパターンを持つものだったため、そちらの方も詳しく調べる必要がありそうだ。
ユカリは、早速牧場に置いていた探査機をキトア方面へ送り、観測を開始する。自分はそのまま怪しげな一団を監視するとともに、環境情報などにも目を凝らしていた。目まぐるしく変化する数値をみて、あちこち比較をしていたとき、一瞬だけ空間位相の乱れが検出された。そこで、視界のオーバーレイを有効にして、乱れのあった座標を重ねてみると、少し前に鎧集団の頭上で、サッカーボール大の歪みが生じた痕跡が見つかる。
そこでユカリに断りを入れて、探査機から観測子を三体射出する。観測子を使い、一団を三角に囲うように配置して、重力波を使った空間アクティブソナーを打ち込んだ。三体が同時に放った同規模の重力波は、何もなければ均等な干渉縞を発生させるはずだ。しかし、空間の歪みがあるため波は歪になり、波に生じた時差によって、隠れていた物の姿を見事に浮かび上がらせる。
彼らの頭上にあったものは、低度な位相移替擬装が施された、何らかの機械装置だった。それは間違いなく、彼の人類勢の技術によって作られたものであり、役割までは分からないが、それらも超空間リンクでどこかと結ばれているようだ。自分にはこれ以上の分析はできないため、観測した情報をひとまとめにしてからユカリへ送り、更に鎧集団の観察を続ける。
そのとき、しゃがみ込んでいた人物が立ち上がり、その場の全員に何やら指示を出したかと思うと、その人物を囲むようにして、場の全員ばひと固まりになる。次の瞬間、一団は青白い光を残して消滅し、その場には誰もいなくなった。
「おい。ユカリ……」
「大丈夫よ、全部見てたわ。偉いわね晴一。ちゃんと探査機を使って観測できるじゃない」
半透過コンソールを弄りながら、ユカリがお褒めの言葉を投げかけて来る。
「まあちょくちょくマニュアルやら何やら読んでるもんでね。少しは役に立てたかね?」
「上出来よ。私はもう一つのリンク地点走査で手いっぱいだったから、かなり助かったわ」
量子脳やそれに近い動作をする人工脳は、人間の脳を遥かに凌駕する能力を有する。だが、計算に特化された演算機などよりは能力が劣るため、担当分野以外はそれほど高機能ではないとユカリは言う。彼女たちは、補助演算装置や各種制御装置などのツールを組み合わせて、はじめて有効な運用ができるらしく、その辺りについては、人と道具の関係と似たようなものなのだそうだ。
「耐久性や防御とか、汎用面では皆大差ない仕様のインターフェースと量子脳スペックを持っているけど、畑違いの分野は不得意なのよ。たとえば私はメイの処理能力に到底及ばないし、腕力では姉妹中最弱だし。認めたくはないけれど、器用貧乏に近いのよね……。って、そんな事よりも」
ユカリが観測を行った結果、鎧の連中が放っていた重力波は、キトアにある大きな建物の内部からも発せられていたようで、先ほどの転送に伴って発生した重力波も、また同様だった。つまりは、連中とリンクしている超空間ビーコンが、その建物内にあるということだ。
探査機からの情報によれば、建物の外観は、尖塔を複数持つ教会のような形をしており、内部は礼拝堂と同じように、信者席がずらりと並ぶ作りになっているようだ。恐らくは、何らかの宗教関連施設だろうが、現地へ行くまでは詳細は分からないため、とりあえず重力波の発生元を突き止められただけでも良しとしよう。
「これはキトアへ行ったら真っ先に訪れるべき場所が決まったかな」
「そうね。それと、私たちと同等の技術を扱う者がいるということも分かったから、緊急時以外の転送は避けた方がいいわね。本当は探査機経由で跳ぶつもりでいたのだけど、やはり移動は徒歩にしましょう」
「そだな」
そこそこ実のある話もできたので、皆にも観測情報や今後の方針を共有しておこう。そこでランとサクラへ目を向けると、対面のふたりは人の字のように仲良く寄り掛かって眠っていた。
呼び込み君のBGMをヘビロテしながら作業をするのがお勧めです。