第69話 交流戦①
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
コロシアムに野太い男たちの声が響き渡る。
今日は、これまでのクソ面白みのない挨拶回りとは違う。
ヒューマン英雄王国とエルフ千年王国での交流戦が行われているのだ。
『ヒューマンもエルフも関係ねえ!! 強い奴ァ強いッッッッッッ!!!! ただそれを証明して見せろぉおおおお!!!!』
「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッッ!!!!!!!!」」」」」
アナウンサー役の黒サングラスにチョビ髭のエルフがマイクを握ってそう叫ぶと、観衆が大歓声で答えた。
観衆は交流のためにやってきたヒューマン英雄王国側の人間と、エルフ千年王国の国民、更には あちこちから来た観光客が混ざっているらしい。
人類連合の交流戦は一大イベントらしく、それ目的の観光客も多いそうだ。
俺と翠とイユさんは特等の観覧席の西側に、一方でダイヤとスゴク外交官はその東側と言った具合に陣営ごとに別れて座っている。
と言っても翠とダイヤは隣り合うような位置関係なので、一応は分けているというくらいに過ぎないが。
「おーおー、皆テンション高いな。行ったことないけど格闘技の試合ってこんな感じなのか?」
「おおっと、そうなのですか。ならばぜひ楽しんで下さい!! 人類連合間の交流における最大の目玉がこの交流戦ですからな!!」
俺の呟きを聞いたのか、スゴクが楽し気にそう応える。
テンションが高いな、どうやらそれだけ楽しみらしい。
こういうイベントが好きなのか、意外だな。
飄々とした爺さんという印象だったが。
『さて!! 今回の交流戦の実況は私!! エルフのジッキョウマン2世がお送りします!! そして解説はこちら!!』
『皆さん御機嫌よう。『ヒューマン英雄王国ギルド統括局』長官のホワイト・シャネリアスです。よろしくお願いいたします』
「おい何であんなところに居るんだあの人!?」
ちゃっかり解説ポジションにいるシャネリアス長官に、俺は思わず突っ込んだ。
彼女は実況席に居るので観覧席にいる俺達に声が届くことはないが。
あくまで彼女の声はマイク越しだし、彼女の姿はコロシアムの壁に投影された映像で見えているだけだ。
しかし、異世界にもマイクやスクリーンがあるのだな。
魔法で上手いことしてるんだろうが。
「つーか解説ポジにいるけどシャネリアス長官って戦える人なの? デスクワーク担当の割には肝座り過ぎだとは思ってたけど」
「え? ああ、長官はバリバリの叩き上げやで。元々は吹けば飛ぶような下級貴族の三女で、仕方ないから冒険者しながら家計の足しにしてたらそっちで花開いて冒険者ギルドのトップになった……って本人が言うてた」
隣のイユさんがそう教えてくれた。
彼女はシャネリアス長官の直属の部下と言う扱いだからな、いろいろ詳しいのだろう。
「フン!! あの小娘!! 少し偉くなったからと粋がりおって!! だいたい解説ならワシを呼べばいいものを!!」
「……何でスゴクさんは怒ってんの?」
「ウチも詳しくはないねんけどな。シャネリアス長官が冒険者やってた頃にスゴク外交官とはメッチャ揉めたらしいねん。それで仲悪いんやて」
面倒くせえなあ、お互いに年なんだからどうにかしろよ。
まあ俺は関係ないから別に良いけど。
「そうなんだ……ありがと、イユさん。色々と教えてくれて」
「お、おお。別に、ええよ。こんくらい……」
俺が礼を言うとイユさんはちょっと照れていた。
別に照れるほどのことでもないとおもうがなあ、これくらい。
『では第一試合!! まずは剣士同士の試合です!!』
拳を上げて歓声に応えながら、ヒューマンの剣士とエルフの剣士が現れる。
ヒューマンの方は大きな丸盾に片手剣、エルフの方は武骨な短剣とレイピアの二刀流だった。
『なお、今回の払い戻し金の倍率はヒューマンが2.5倍、エルフが7.5倍と、ヒューマン優勢の見方となっております』
『弓と魔法に関してはエルフ優勢、剣や槍などの近接戦闘はヒューマン優勢と言うのが一般的な意見ですからね』
「いや金 賭けてんのコレ!?」
これギャンブルだったのかよ!!
「この世界でも公営ギャンブルは認められてんねん。カジノもあるけどあれは金持ちの遊びやから庶民は入れへん。この世界の主流のギャンブルは剣闘士戦やな。中でも交流戦は特に盛り上がるし」
ああ、まあギャンブルってどの世界でも人気だろうしな。
『ちなみに私はヒューマン側に100万ゴールド突っ込んでいます』
『100万ですか!?』
シャネリアスの言葉に周囲がざわついた。
まあ100万ゴールドは、ほぼ日本円の100万円分なわけだし、ギャンブルにツッコむ額としては相当なものだ。
「やれやれ、良い歳をしてギャンブルに大金をつぎ込むとは。良いですか、ダイヤ王子。ああいう大人にだけはなってはいけませんよ」
『解説のシャネリアス長官、それは やはりヒューマンが勝つという自信の表われですか?』
『それもありますが、私としては、どれだけ歳を取っても挑戦する心を忘れない人間で居たいので、こういう時にこそ勝負に出るようにしたいんです。年を取ったからと言って丸くなることを私は良いことだとは思いません』
……あの人、盗聴器でも仕掛けてるのか?
「…………ギャンブルなんて所詮は遊び。こんなので熱くなってはいけませんからね、王子」
「い、いや。ボクはちゃんと分かってるけど……」
『遊びにも全力にならないような人間は何事にも全力を出せませんからね、格好つけたことを言って遊ばない奴が私は一番ダメだと思います』
『なるほど、そういうものですかぁ』
やっぱ盗聴器しかけてるだろ、あの人。
シャネリアスの言葉を聞いていたスゴクの額あたりから――ブチッ! 何かが切れるような音がして、彼は背後に控えていた執事に声を掛けると指を二本立てて。
「ワシのポケットマネーから200万。あのエルフの騎士に突っ込んでくれ」
「爺や!? ギャンブルに大金はつぎ込むものじゃないってさっき言ってたじゃないか!!」
血走った眼で前言を無視するスゴクを、慌ててダイヤが止めようとするが、しかし。
スゴクはまさに好々爺といった様子でダイヤの頭の上に手を乗せると。
「良いですか、ダイヤ王子。大事なことを教えます。負けるギャンブルは悪いギャンブルですが、勝てるギャンブルは良いギャンブルなのです」
「オイとんでもないこと言いだしたぞあの爺さん!!」
そらそうだろうよ!!
勝てるギャンブルなら問題ないだろうけどよぉ!!
ギャンブルは勝つか負けるか分からないから難しいんだよ!!
「……ああ、爺や。昔と比べて落ち着いてきたと思ったのに」
「しょうがないですよ、男なんてそんなものなんですから」
頭を抱えているダイヤの肩に、翠が手を置いてそう励ましていた。
いや誰目線だよ、スナックのママかお前は。
そもそも翠も男だしよ。
『おおっと!! ここでまた新たに大金が賭けられました!! 配当率が変化してヒューマンが3.6倍!! エルフが6.4倍となりました!!』
その言葉を聞いて、スクリーン上のシャネリアスの口角がほんの少し持ち上がった。
あの人!! 自分の配当金を増やすためにスゴクを煽ったな!!
悪いことするなあオイ。
『さあ!! それでは賭け金の受付締切時間になりましたので、間もなく試合を始めさせていただきます!!』
レフェリーに促され、闘技場の中心でエルフとヒューマンの剣士が向き合うようにして構える。
「ルールは単純!! 相手が負けを認めるか、レフェリーが決着を定めるまで戦い続ける!! ただし3分ごとに1分の休憩を挟むこと、そして相手を殺害した場合その時点で失格!! 双方、異議はないか!!」
「「異議なし!!!!」」
「それでは――始めぇええええええええええいッ!!!!!!」
レフェリーがそう叫んで右手を振り下ろすと、試合が始まった。




