第68話 ファッション回②
「可愛さを認める……って何?」
至極真っ当な疑問だね、王子様。
大半の人はそうだと思うわ。
「文字通りの意味です。自分で自分のことを可愛いって認めてあげるんですよ。具体的には鏡に映る自分に向かってカワイイカワイイって認めてあげることですね」
「なっ、何でボクがそんな恥ずかしいマネを!! するわけがないだろう!! このバカッ!!」
「バカは貴方です!! このバカ王子!!」
「えええええええええええ!?」
すげえな翠、一国の王子を平然とバカ呼ばわりだ。
「可愛い恰好するの好きなんでしょ!! だったら、誰にも見られてない時くらいもっと自分のこと可愛いって言ってあげましょうよ!! 可愛くない周りの連中に何て言われても、自分だけは自分に『可愛いよ。似合ってるよ』って言ってあげてください!! そう思えないなら、私が手伝いますから!!」
ダイヤ王子の顔を両手で挟み、ぐっと顔を近づけて翠はそう言ってのけた。
――多分、先日の俺の話を受けて考えていたんだろうな。
翠には可愛いと言ってくれる兄や両親が居たが、ダイヤにはいなかったのかもしれない。
でも、家族以外の友人や恋人、憧れの人の言葉でも俺たちは変われる。
そういうことを伝えようとした……のかと思ったけど、いややっぱ違うかもな。
翠の鼻息が「ふんふん!」と言わんばかりに荒い。
むかーしシルバニアファミリーのセットを買ってもらったときと同じ顔してる。
まあ顔が良い子のファッション考えるのって、楽しいよね。
「では、まず鏡をじっと見てください」
と促し、翠はダイヤの背後に立つと、彼の両肩に自分の手を置く。
「鏡を見て、どう思いますか?」
「べ、別に……。見慣れた顔だよ」
「顔はそうかもしれませんね。メイクも特にしてませんし。でも、ファッションは違うでしょう? これは、貴方が可愛いと思った、可愛い貴方のお洋服なんです。それを見て、どう思いますか?」
「ファ、ファッションなんて。大切なのは外見より中身――」
「こん馬鹿たれぇえええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
すぱぁあああああんッ!! と音を立てて、翠がハリセンでダイヤの頭をひっぱたいた。ダイヤの被っていたニット帽がパサッと床に落ちた。
ってハリセン!?
「翠ちゃん!? ハリセンなんてどこから用意したの!? っていうかツッコミでハリセンて!! ツッコミ方法が古いな!! それ見たの最遊記以来だわ!!」
「こんなこともあろうかと、予め作っておいたんです」
「王子の頭を叩くなんて!! 君は何を考えているんだい!?」
「やかましい!! ちょっと貴方は黙りなさい!!」
「ええええええええええええええええええええ!!??」
すげえ。
今度は王子を一喝したよ、ウチの弟。
「良いですかッ!! 大事なのは外見よりも中身なんていうのは外見を磨く気のない馬鹿か、本当の傑物のどちらかのための言葉ですッ!! 大体ねえ、所詮は私達も人間だから中身なんて たかが知れてるんですよ!! 良い人だってお腹が空いたらイライラする!! クズだって機嫌がいい時は他人に優しくなる!! 人間性が一貫してる人なんかいないんですよ!! だったら外見だけでも整えるべきでしょ!!」
「凄いこと言うね、君!?」
「あと何よりもッ!! ファッションっていうのは自分が自分をどういう存在にしたいかという気持ちの表れなんです!! 例えばお兄ちゃん!!」
「おっ、いきなり俺に来るんだ。なに?」
「お兄ちゃんはスーツ好きですよね!! 何でですかッ!?」
「え? 背筋が引き締まってしゃんとした感じがするから」
「そう!! お兄ちゃんはしゃんとした自分で居たいからスーツを着るんです!! 労働はしませんが!!」
「台無しじゃないかい、それって」
ほっとけ。
労働なんかどうでも良いだろ。
「そして私は可愛い服を着ます!! だって可愛い自分で居たいから!! 『今日も頑張って可愛いくなれたね』て思いたいから!! ファッションというのは自分の生き方を動かす鏡なんです!! つまりファッションとはッ!! 自分の魂の在り方の具現化なんですッ!!」
両足をクロスさせて翠はポーズを取った。
完全にスポットライトを浴びている顔だ。
本当にイキイキしてるね、君。
「……言っていることは分かるけれど、結局のところオシャレかどうかって流行とかに影響されるものだろう?」
「ええ、そうですね。でも、私達の言うオシャレは自分達にとってオシャレかどうかで、他人にとってのオシャレはどうでも良いんです」
「えッ!? いいの、それで!? 周りから見たらダサいかもしれないのに!?」
「えー、だってそんなこと言ったら私は男だけど女の子のカッコしてますし。それに言ったでしょ? 一貫した人間性なんてない。私達は色んなものから影響を受ける。10年後、私は女の子の恰好をしていないかもしれない。でも、それでいいんです。大切なのは、その時の自分がその時の自分を好きでいることです。……ねえ、ダイヤ君。今のダイヤ君は、今ここにいるダイヤ君のこと、どう思う?」
「うっ……」
翠に真っすぐ見つめられて、ダイヤは言葉に詰まった。
ただ、そんな彼に対し、翠は地面に落ちたニット帽を拾い上げ、乱れたダイヤの髪を整えてから帽子を被せると、そのまま一歩 後ろに下がり、彼を見守った。
ダイヤは少し悩んでいたようだったが、やがて意を決して鏡に向き直ると、鏡面に映る自分を向き合った。そのまま暫く黙ったままだが、やがてほんのり頬と耳を赤らめると、スカートの端をぎゅっと握りしめて。
「……可愛いよ、ボク」
そう、はっきりと言った。
そんな彼の様子を見て、俺たちは。
「「ん可愛いいぃいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」」
膝から崩れ落ちた。
「なっ、何なんだ!! 馬鹿にしてるのか!! 人が折角 勇気を出したのに!!」
「だ、だって尊いんだもんよ……。俺が一国の王ならこの可愛さを称えて城を立てるわ。『可愛さキャッスル』みたいな名前で」
「君もネーミングセンスは皆無なんだね!!」
「ああ、何でしょう、この気持ち……ッ!! 我~~~が愛を永遠に~~~~♪♪」
「えっ!? 何で翠君は凄い声量で歌い始めたんだい!?」
「よく分かんないけど、たぶん昂った感情をオペラにして解き放ってるんじゃない?」
「オペラ!? オペラの勉強をしたことがあるのかい翠君は!?」
「いや全然やったことないと思う。多分勢いだけなんじゃねえかな」
「もう何なんだ!! 何なんだ一体!! これは!! もう!! 本当!! バカ!! もうバーーーカ!!」
困惑するダイヤ王子もかわいいな、と俺と翠は目で語り合っていた。
最初はクソ生意気な子どもだと思ってたけど、これからはダイヤのこと頑張ってサポートしていこう。
俺達兄弟は、この日そう固く決意した。




