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第62話 エルフ千年王国・到着!



 



「旦那方、見えてきましたよ。あれがエルフ千年王国の外交の拠点にして第2都市、『アマレット』です」



 御者にそう声を掛けられて、俺たちは窓の外に身を乗り出し、大きな白壁に囲まれた街に視線を向けた。

 壁の囲まれてはいるものの、中心部の巨大な城の背丈が高いため、そびえ立つ城の尖塔がはっきりと見える。



「ヒュー! でけえ街だな。アレで第二都市なの?」

「というか王都とかではないんですね、イユさん」

「ええ、アマレットが外交上の拠点ですから。ウチらも恐らくはほぼアマレットで過ごすことになります。エルフの王都は森の奥深くにあるから、基本的に王族と貴族と一部の民しか暮らしてないんですわ。何せ王都は歴史があり過ぎてな、実際に活動するには不便すぎるところがあるんです」

「ああ、王都が京都でアマレットが東京みたいなイメージなのかな。そう思うと分かる気もするけど」



 エルフってすげえ保守的なイメージだしな。

 それにエルフって森の民ってイメージだし、王都が森の中にあるっていうのはむしろ風情を感じて俺たち異世界人的には面白くもある。

 

 が、しかし……。



「エルフって保守的なんスよね? 大丈夫なの? 『あら、わざわざ遠くからお越しになりはったんですねえ』みたいにこっちを田舎者みたいとして見下してきたりしませんかね?」

「お兄ちゃんの保守層のイメージって京都なんですか?」

「いやそんなことはないと思うねんけど……。でもウチも行ったことないから自信はないな」



 そんなこんなと話していると、パカパカと馬の蹄の音がし、後方から女騎士が現れた。

 以前ベイリーズに行った際にも同行してくれた人妻騎士ことヒューマンワイファーである。



「翠様、先日お話した通り、今回の目玉の一人が勇者である翠様ですので、できる限り大勢の方に見えるようにしてください」

「大丈夫です! エルフのバイブスをブチ上げてやりますよ!!」

「いやバイブスは上げなくても良いんですけど……。まあどっちでも良いんですが」



 困惑しつつも、女騎士は前方の白壁の巨大な門を指さす。



「こちらが近づくと門が開きますので、中に這入ったらエルフの皆さんに手を振って下さいね」

「はーい」


 

 そんな話してしていると、話通り門がゆっくりと開いていき、やがて俺たちの馬車隊の先頭がアマレットの中に這入っていくと、大きな歓声が聞こえてきた。

 やがて、俺たちの馬車も門をくぐり――。




「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「ヒューマンだぁああああ!!!!」

「勇者ァ顔見せろぉおおおおお!!!!」

「ひゅぅううううううううう!!!!」



 いやエルフのテンション高ぇな。

 そう思いながら、窓の外に視線を向けると、俺の視界に映ったのは想像通りのエルフたちだった。

 鼻筋の通った綺麗な顔立ちに長い耳と言った姿だ。

 ただ髪色や瞳の色はまちまちだ。

 精霊の加護の影響で変色するからだろうな。

 とはいえ、美形の長耳というイメージ通りではあるのだが。


 しかし、こう。

 ――こういうの見ると異世界に来た感があってメッチャ楽しいな!!



「おいおいエルフども!! その程度で盛り上がってるつもりですかあ!! もっとテンション上げていきましょうよぉおおおおお!!!!」

「「「「「FuuuuUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!!!!!!!」」」」」



 そしてやっぱり翠は楽しそうに盛り上げていた。

 ……というか、異世界人もテンション高くねえ?

 ジ〇ン・カーターに出てきたエイリアン達を思い出す。

 


「でも俺も行くかぁあああああああああああ!!!!」

「「「「「うおぉおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」

「……お前らマジでうるさいな」


 

 馬車の上に立ってエルフ達とバイブスを上げていると、イユさんだけ額を抑えていたが、まあ楽しいので良いんじゃないかなと思いますね、はい。


 それから暫く大通りを進んでいると、やがて白壁の外からも見えた城が正面に見えてきた。

 白の正門前には、執事らしきものたちに囲まれ、かつ他のエルフ達と比べて明らかに豪華な服装に身を包んだ人々が居た。

 アレがエルフの王族だろうか?


 中心にいるのは禿頭の長耳の老人。

 そして、その隣にロシア人の被るような毛皮の帽子――ウシャンカなどと呼ばれる――を被り、紺色のコートを着て同じく紺色のショートパンツを穿き、白ソックスにローファを履いた少年が居る。綺麗な銀髪に一筋だけ金髪が混ざり、瞳も金色である。

 他のエルフ達はどことなく政治家っぽい雰囲気だが、この二人だけ他と雰囲気が違う。



「……翠、ちょっと馬車の中に戻ろうぜ。そろそろ お偉いさん達の面会らしい」

「そうですか、じゃあ準備しましょう」



 俺の言葉を受け、屋根から降りて俺たちは馬車の中に戻った。

 ついでに、窓の外を指さして俺はイユさんに尋ねる。



「イユさん、あの人達は?」

「ああ、エルフのとこのお偉いさん方やな。特に重要なんが、真ん中の爺さんと少年や。爺さんの方が筆頭外交官の『スゴク・ヨクシャベル』氏。貴族の1人で、発言権は王に次ぐと言われてる人物や」



 あっ、エルフの中でも適当な名前の人はいるんだな。



「で、あの少年がエルフ千年王国の第3王子の『ダイヤ・チェロック・ランバーニ』や。あの子が翠様と同い年の王子やな」



 ああ、あの子が。

 そんなことを思っていると、先行していた馬車隊が王城に近づき、ヒューマン英雄王国の他の者たちが降りていく。

 そのすぐ後に馬車のドアがノックされ、女騎士に降りるよう声を掛けられた。



「さて、じゃあ降りましょうか」

「おお、気合入れるぜ翠ちゃん」

「……はー、ウチこの見た目で行くん嫌やなぁ」



 馬車を降り、そのままエルフの執事に促されて、俺たちはスゴイとダイヤの前に立つ。

 彼らはほんの一瞬だけイユさんに視線を向けたが、すぐに翠に視線を向けなおした。



「やあやあ、遠いところからよくお越しになりましたな。私は筆頭外交官のスゴク・ヨクシャベルと申します」

「初めまして。ボクはダイヤ・チェロック・ランバーニです。どうぞ、お見知りおきを」



 そう言って、彼らは両腕を交差させた上で頭を下げた。

 これがエルフの文化圏における挨拶だ。

 

 スゴクは穏やかな老人、と言った雰囲気の人だ。ただ、その眼光の鋭さには老いを感じさせない。

 ダイヤは涼し気な眼をした美少年、と言う表現がぴったりくるが、微笑むと子どもとは思えない艶っぽさを感じる。



「これはご丁寧に、ありがとうございます。私は勇者の瀞江翠です。それでこちらが」

「翠の兄でニートをしています、瀞江桃吾です。どうぞよろしくお願い致します」

「私は翠様の専属神官をしております、イユ・トラヴィオルと申します。魔族の呪いのせいでこのような見た目になってしまいましたが、れっきとした人間ですので、ご心配なく」

「はッはは! もちろん、存じていますとも。ささ、皆さま。こちらへ。長旅でお疲れだとは思いますが、ご挨拶だけ先に済ませましょう」



 そう言って、スゴクは城の前にある挨拶のための台座に上るよう翠に促す。

 そして翠とダイヤが台座の上に並んで立つ。

 2人の姿を見て、エルフの民たちがひと際 大きな歓声を上げた。

 ダイヤが翠に右手を差し出し、それに応じた翠が左手で手を握る。そして2人は歓声に応えるように、握った両手を掲げると、ダイヤが声を張り上げた。



「今までもこれからも!! 我ら人類連合の結束の強さは不滅である!! ヒューマン英雄王国の新たなる勇者と共に、我らエルフの高潔さを示し、魔族との戦いに勝利を!!」

「「「「「勝利をぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」



 その光景を後ろで眺めながら、俺は高揚感を覚えていた。

 すっげえ、こんなに大勢の人々が翠の姿を見て歓声を上げている。たまたま勇者になっただけとはいえ、弟がこんなにも期待されているのを見るのは悪い気分ではない。


 しかもエルフがこんなに大勢いるんだもんなぁ、マジでワクワクするぜ!!

 新たな異世界の冒険だ!!





 ――そんな風に呑気なことを考えていたことを俺が後悔するのは、もう少し先になってからの話である。






アマレットはお酒の名前です。

杏仁(杏の種の核)から作られてるんですが、美味しいのでオススメです。

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