第60話 エルフ千年王国へGO!
ヒューマン英雄王国第14代国王『ナマエ・カンガエルノ・メンドイ4世』は、よく通る声を張り上げた。
「それでは!! 異国の地にて、良く見て、良く聞き、良く学べ!! 皆の旅の無事を祈っておる!!」
王城のバルコニーに立つ王の言葉と共に、民衆からの歓声が沸き上がり、俺達の乗る馬車隊と護衛の騎士達が王城を出発した。
王城正門前の大通りを俺達の乗る馬車も含めた馬車隊が進んでいく。
エルフ千年王国に向かうのは、勇者である翠とその兄の俺と仲間のイユさん、そして官僚や若手のキャリア組の騎士達と、あとは技術者や学生など総勢50名弱である。
他にも護衛の騎士や衛兵を含めるともっと人数は増えるのだが。
「いやー、見送りもすげー数だなあ」
俺は馬車の窓から、手を振って歓声をあげる王国民達を眺めて、そんなことを呟いた。
「勇者様ー!!」
「いってらっしゃーい!!」
「エルフと会えるなんて羨ましいぜ!!!!」
あちこちからそんな声が聞こえてくる。
今日が、ヒューマン英雄王国とエルフ千年王国の人材交流の出発の日なのである。
人材交流、と言っても互いに行き来するというわけではなく、今回はヒューマン英雄王国側がエルフ千年王国に向かうということになっている。数年ごとに持ち回りで行ったり迎えたりするのだそうだ。
今年はヒューマン英雄王国がエルフ千年王国に行くことになっている。
「そら、まあ。言うたらデカい祭りやからな。一般人からしたら小難しいこと関係なく『なんかスゲー』ってくらいのもんや」
馬車の中で、俺の正面に座るイユさんがそう教えてくれた。
なるほど、そういう感覚なのか。
「へえ! じゃあ、こういうのってイユさんもテンション上がるんスか!?」
と、尋ねると。
何故か彼女は――プイっと顔を逸らした。
……あれ?
「まあ、それなりにはな。今は複雑やけど」
ああ、彼女は今、人間とは外れたみてくれで、なおかつその姿で外交に行くのだ。色々と複雑なのは間違いないだろう。
「ただ本当はホスト側の方がもっと盛り上がんねんけどな。行く側だと出発するだけやけど、迎えるホスト側なら来客を迎えるために色んな商売も栄えるし、10年くらい前にドワーフ炎鉄王国の連中を迎えた時はもっと凄かったで」
「ああ、商売人からすれば客が大勢来るんですもんね」
ちなみにイユさんはノースリーブの神官服、俺はヴェルヴェット製のグリーンのスーツに黒のボウタイ――いわゆる蝶ネクタイ――をしている。
今すぐにエルフ千年王国に行くわけではないが、出発も一つのパフォーマンスなので、俺達もかしこまった服装をしているのである。
「……で、翠様はどないしてん?」
若干 呆れた様子で、イユさんが そう訊ねてきた。
俺は軽く肩をすくめて。
「見れば分かるでしょ。盛り上げてんですよ、このイベントを」
と、俺は馬車の上を指さした。
馬車の上では、シルク製のピンクのワンピースを着た翠が立って。
「EVERYBODY SAY!!!! HOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」
「「「「「「HOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!」」」」」
と、何故か周囲の王国民達に向かってコール&レスポンスをして盛り上げていた。
何? あいつバンドマンになった経験とかあったっけ?
「まあ盛り上げ役やってくれんのは大事なことやけどな、勇者にはそういう役割も求められるし……。そういう意味では正しいといえば正しいねんけど……。ただコール&レスポンスする勇者は初めて見たわ」
「まあ俺もそんな勇者が大勢いたらビビりますけどね」」
「エーーーーーーーーオッ!!!!」
「「「「「エーーーーーーーーオッ!!!!!!!!」」」」」
「エーオッ!!!!」
「「「「「エーオッ!!!!!!!!」」」」」
「レーラレラレラレラ!!!!!」
「「「「「レーラレラレラレラ!!!!!!!」
「オイこれボヘ〇アン・ラプソディーで見た奴だぞ!?」
何でフ〇ディ・マーキュリーの真似してんの。
つうか盛り上げ上手過ぎないウチの弟?
「マジで翠様、何やってんのん? あの人もともと歌手とかしてたん?」
「いや、そういうわけじゃないなんだけど……。あの子は色々と規格外なところあるから……」
「ああ、確かに。何か予想以外のことするもんね、あの子」
「ちょっと、何を話してるんですか、お兄ちゃん。一緒に盛り上げましょうよ」
「おいおい、俺はそんなことやったことな……お前らぁあああああ!! 葬式じゃねえんだぞ!!!! もっとテンション上げていけやぁあああああああああ!!!!!!!!」
「いやお前も適応能力スゴイな」
そんなこんなで、俺達はヒューマン英雄王国の王都を出発した。
ちなみに、王都を出るまで翠と俺のコール&レスポンスは続き、王国民と勇者のグルーヴは凄いことになっていた。
「お前らまだまだいけるよなぁあああああ!!!!」
「「「「「YEAHHHHHHHHHHHH!!!!!!!!!」
「テンションあげていきますよぉおおおおお!!!!」
「「「「「FuuuuuuuuuuuuuuUUUUUU!!!!!!!!!」
歓声が王都中に響き渡っていた。
勇者の仕事に飽きたら一緒に音楽とかやろうな、翠。




