第56話 色々あったけど何はともあれ再会しました
「はぁああああああああああああ!? 400万!? 借金が!?」
「何さらっと一桁減らしてるの? 4000万よ、4000万。貴方、強かな性格してるじゃない」
なんてことを、シャネリアスはあっさりと言ってのけた。
クソ! さらっと借金を減額する作戦は失敗か!!
「な、何でそんな借金を抱えないといけないんですか!? この俺が!?」
「さっき言ったでしょ? イユ・トラヴィオルの事案をもみ消すためにカバーストーリーを流布して、賄賂を渡していたら4200万ゴールドほどかかってしまったの。だから、その分の費用は貴方が負担してね。200万円は孫を助けてくれたからオマケしてあげるわ」
「いやいやいや!! その金を何で俺が負担するんですか!? どう考えてもアンタらの負担すべき金でしょ!!」
「何を言ってるのかしら? 本来なら、貴方とトラヴィオルをサクッと処刑して済ませたところを、わざわざ助けてあげたのよ。それくらいの費用は払うべきではなくって?」
「くッ!? そのせいで借金が3000万ゴールドだと!?」
「だから4000万よ、その手には乗らないわよ」
な、なんてこった!?
いや、待てよ?
この世界の通貨単位である“ゴールド”の価値がどんなものかは知らないが、ひょっとしたら4000万と言っても大したことではないのではないか?
ジンバブエドルみたいな感じで、めちゃめちゃインフレしてたりするのかもしれん!
4000万ゴールドでも子どものお小遣い額、みたいな。
「4000万ゴールドってどれくらいの額なんですか?」
「中流階層の一般家庭の年収10年分ちょっとくらいね」
「普通にガチな奴じゃん!!」
年収10年分て!!
ウソでしょ!!
どんだけマグロ漁船に乗らないといけないの!?
「おいおい勘弁してくれよ~~~。あっ、そうだ! 俺、頑張って魔王軍の幹部の副官とか倒したじゃん! アレの謝礼金とか出ないの!?」
「ああ、一応出るけど、でもアレは翠ちゃんが倒したことになってるわよ」
「なにゆえ!?」
おいおい何でだよ!!
俺の死闘の意味とは一体!? みたいなテンションになってるんだが。
「だって、まともに魔族と戦ったのを見られてるのは翠さんくらいだから。貴方の死闘を見届けたのはトラヴィオルだけで、他に見た人がいないし。あと、新しい勇者がカッコ良く魔族を撃退! ってした方がウケが良いでしょ?」
「じゃあ俺は あの戦いでどうなったことにされてるの!?」
「魔族にボコられて弟に助けられただけのヘタレってことになってるわね」
「ぐあああああああああああああ!?」
別にヘタレ扱いだけなら良いけどさあ!
魔族を倒したのほとんど翠だしよォ!
でも立てた手柄くらい認めてくれていいじゃんよォ!
「この評価を改めたいなら、これからも頑張りなさい。借金も返済しないといけないし」
「いやだァ! 俺は働きたくねえんだよォ!!」
「いや働けよ」
なんてこった!!
異世界に来て借金抱えて強制労働だと!?
な、なんでだ……ッ!!
俺は……こんなことのために……ッ!! 頑張ってきたわけじゃ……ない……ッ!!
徒労感……ッ!
圧倒的……徒労感ッ!!
「ま、そういうわけね。……トラヴィオルにチャンスを上げたいんでしょう? なら、貴方も頑張りなさい。これくらいは甲斐性 見せなさいな」
「俺の金銭感覚だと甲斐性のうちに4000万は収まらないんスけど」
「それは私の知ったことではないわ。何はともあれ、頑張りなさい。繰り返しになるけど、彼女にチャンスをと言ったのは、貴方よ?」
「……………………分かりました」
「めっちゃ悩んだわね、貴方」
はー、まあ仕方ねえ。
最悪 死ぬかもって話が、4000万の借金になっただけだ。
4000万なんか毎年1万払うのを4000回 繰り返すだけだし、こんなん実質無料だろ。
「これ以上ガタガタ言っても仕方ないんでしょ。何とかして返しますよ、4000万。……もう帰っても?」
「ええ、構わないわよ。よく養生してね」
「ええ、お心遣いありがとうございます」
一礼してから、俺は応接室を出た。
応接室の外に出て、廊下を数歩歩いてから、俺は壁にもたれかかってズルズルとしゃがみ込んだ。
「フー。……良かった。マジで良かった」
借金を抱えたのは予想外だが、とりあえずは俺もイユさんも無事だ。
「……あれ? 何かちょっと涙ぐんできちゃった」
安心したらちょっと泣きそうになってきた。
ハンカチは持っていないので、右手の包帯で軽く涙を拭った。
「……お兄ちゃん?」
すると、翠に声を掛けられた。
どうやら、近くの待合所で待っていてくれたらしい。
「ああ、翠。良かった、大事にはならなかったよ」
そう言って翠の元に歩み寄り頭をポンポンと撫でてやると、彼はホッとしたように破顔した。
すると、彼はその直後にハッとした顔をして、俺の手を掴んだ。
「そうだ! お兄ちゃんに見せたいものがあってここで待ってたんです!! こっちに来てください!!」
「おいおい、俺ケガ人だぞ!!」
手を引っ張って走り出した翠に俺はそう叫んだ。
ただ、彼の足取りは軽やかだ。
何かいいことでもあったのか? そう思って手を引かれるがままに走り、やがて病室にたどり着くと、翠は勢いのままに扉を開けた。
すると、そこに居たのは。
「……イユ、さん」
「ん……。3日ぶりやな、桃吾」
俺のベッドにイユさんが腰かけていた。
彼女は あちこちに包帯を巻いていたが、それでも顔色は良かった。
ただ、彼女は――六本腕の姿をしていた。
「桃吾が庇ってくれたお陰でな。ウチ、このままの姿でも王国内でやっていけるんやて。……アンタのおかげや」
「……あ、ああ」
言葉が、出ない。
「本当はな、もっと早く会いたかってんけど、ナンカ大臣に手続きが諸々 終わるまで部屋出たらアカン言われてな。……まあでも、桃吾も三日間 寝たきりやったんやろ?」
「……っ」
「だから、今やっと言えるわ。……ありがとな、桃吾」
そう言って、イユさんは薄く微笑んだ。
日の当たる窓際に座って、少しだけ顔を赤らめて目の端にうっすらと涙を浮かべて笑う彼女の笑顔は、たおやかで、それでいて優しいものだった。
そんな彼女の笑みを見て、俺は。
「……イユさんっ!」
彼女の元に、駆け寄って。
「俺イユさんのせいで借金4000万やぞォどうしてくれるんじゃああああああああああ!!??」
泣きながらそう叫んだ。
「いや何やねん急に!? 借金って何の話や!!」
「だからイユさんを庇ったら俺が借金4000万抱える羽目になっちまったんだよ!! ちっくしょぉおおおお滅べ異世界ぃいいいいいい!!!!」
「分かるように言えや! 何やねんホンマに!!」
「……さ、さっきまで凄い良い感じの雰囲気だったのに、何なんですかコレは」
呆れたように翠が何か言っているが、知ったことではない。
俺の!! 借金!! 4000万!!
ぐああああああああああああああああああああ!!??




