第53話 目覚めと新たな出会い②
ノックの音で、翠が扉の方に視線を向けた。
「おっと、誰か来ましたね。開けてきますね」
「ああ、ありがとう。……いや、ちょっと待ってね」
わざわざ部屋の鍵を閉めてたら、良からぬ密談をしていたとでも思われそうだ。
ちょっと細工しよう。
………………。
よし。
「良いよ、翠ちゃん」
「そ、そうですか。じゃあ開けますね」
俺が言うと、翠がドアを開けた。
すると、そこに立っていたのは。
「あっ、ナンカ大臣」
「ああ、目が覚めたのか桃吾君。安心したよ。王城からこのベイリーズには一昨日には来ていたからね。君が目覚めるのを待っていたんだ」
「すみません、ニートは良く寝るんですよ。どうも。入って下さい」
タイミングが良いな、来室者はナンカ大臣だった。
いや、ナンカ大臣1人ではない。
もう一人、ナンカ大臣の後をついてきた女性がいる。
「こんにちは。そして初めましてね。私は『ヒューマン英雄王国ギルド統括局』長官のホワイト・シャネリアスよ。よろしくね」
彼女はそう言って微笑んだ。
白に近い金髪――ホワイトブロンドの髪をショートボブにして左サイドに流して、両耳にはダイヤモンドのピアス、服装はスマートな三つ揃えの黒スーツを着用し、更に女性には珍しくネクタイを締めている。
目元には皺が入っており、年齢は50歳前後だろうか。
しかし背筋はまっすぐ伸び、すらりとした長身のスタイルからは若々しさが溢れている。
「ああ、こちらこそ初めまして。握手したいところですが、右手が壊れてるもので。本当についさっき目を覚ましたばかりで、まだあちこち痛むんです」
「いえいえ、構いませんよ」
「ところで……桃吾君。ドアの鍵が閉まってけど、何かしていたんですかな?」
ナンカ大臣が髭を弄りながらそう尋ねてきた。
うーん、やっぱり俺も疑われてますな。
だが、言い訳は用意してある。
俺は無言で、ベッドサイドのテーブルを指さした。
「……その、何ですかなコレは?」
「見たら分かるでしょ大臣。尿瓶(使用済み)です」
そこには、まだホカホカと温かい俺の出したての尿が入った尿瓶が置いてあった。
「も~~~。目を覚まして翠ちゃんと語らって、ついでに3日振りにスッキリしたところで来るんですから、大臣もタイミング良い人ですね」
「いや良いのかねコレは!? どっちかと言うと最悪だと思うが!?」
「あー、その。桃吾さん。桃吾さんって脚はケガしてませんよね?」
と、言ってきたのはシャネリアスだった。
「ええ、怪我は主に上半身です」
「だったら尿瓶を使わずに、普通にトイレを使えば良かったのでは? なぜ尿瓶を使ったんです?」
なるほど。
言われてみれば真っ当な意見だ。
俺はそう言われて少し考えて。
「そこに尿瓶があったからさ」
「何ですかその最悪な登山家みたいな発言!?」
翠ちゃんのツッコミが入ってしまった。
「ま、まあそんなことは構わんのだ。……桃吾君、こちらのシャネリアス長官が君に話があるそうなのだが、どうだろう? 目覚めたばかりだし、後日また伺おうかね?」
「……いえ、構わないっスよ」
俺も知りたいことがあるからな。
イユさんがどうなっているのか……恐らくこの女性は知っている。
この人はきっと、そういう役職の人間だ。
「それは良かった。一席 設けていますので、ぜひこちらに」
シャネリアスに促され、俺はベッドから立ち上がった。
3日ぶりに立ち上がった身体は少し重いが、これくらいなら歩くくらいは問題なさそうだ。
さーて、イユさんのことを知るためには、恐らく交渉が必要だろうな。
気合い入れろよ、俺!
だがその前に。
「あっ、看護師さーん! 尿瓶使ったんで処理してもらっていいですか!? あとシャネリアス長官、俺ぇ用を足したら手を洗わないと気が済まないんで、手ぇ洗ってきて良いっスか?」
「……好きにしてください」
やっぱ締まらないな、俺。
今話が最新話である場合、下部に評価欄があると思います。
もし、本作品を読んで面白いと思って頂けたなら、ぜひ評価ポイントを入れていただければと思います。
差し出がましいこととは思いますが、作者のやる気に繋がりますので、何卒よろしくお願いします。




