第49話 達成と虚栄と②
実にあっさりとしたエルプラダの言葉に、俺の方が困惑する。
「……へっ? そうなんスか?」
「ええ、そうですわ。今回の一件、エコーは上手くわたくしを出し抜いたつもりだったんでしょうけど、実は彼がどこまで出来るか測っていたんですの」
「うっそ!? マジっすか!?」
「マジですわ」
「じゃあ俺あなたの靴とかペロペロしなくて良いんですか!?」
「いやそんな要求しませんわよ……」
「本当に!? 本当に俺に足の裏をペロペロさせなくて良いんですか!?」
「何で食い下がって来るんですの!? だからしませんわよ!?」
これは中々の変わり者ですわね、と呟いてから、エルプラダは意識を失くしたままのエコーの方に視線を向けた。
「ハァ、折角いいところまで来たのに。詰めが甘いですわね、エコー」
「……その声は、ババアか」
エルプラダの声が聞こえたのか、エコーが目を覚ましたらしい。
……生きていたか。
頑丈だな。
まあ……その方が罪悪感を抱かずに済むと言えば済むが。
「途中までは上手くいっていましたのに。熱くなりやすい性格は本当に何とかなさいな。……あと、ババアと呼ぶのはやめなさい。わたくしがババアなら、貴方は卵ですのよ! たーまーご!!」
ババアと言われて怒ったのか、彼女は少し苛立ったようにそう言った。
……見た目は可愛らしい少女なのだが、そんな年齢なのか?
いわゆるロリババアというのか。
いやロリというほどロリでもないが。
「ハイじゃあ撤収しますわよ! 皆さん、手伝って!」
そう言ってエルプラダが4本ある腕の内、上側の両手でパンパンと手を打ち鳴らすと、彼女の背後に大きく重厚な“門”が出現した。
「なんだ……? 門が空中にいきなり現れた……?」
門の中は影のように暗くなっているため、その中の様子をうかがい知ることはできない。
そしてそのドアが開くと。
「きゅいー!」
可愛らしい声を上げて、大きな芋虫たちが出てきた。
芋虫、というと不気味な印象があるが。
「この芋虫……か、かわいい」
何だろう、ちょっとデフォルメされてるというか、芋虫そのものというよりも芋虫の抱き枕みたいに見える。
それでも苦手な人は苦手なのだろうが、俺としては結構かわいい。
「きゅいー!」
「きゅきゅーい!」
と鳴き声を掛け合いながら、芋虫たちは のそのそと歩き回り、倒れたカブトムシやカナブンの魔族を背に乗せて運び、カナブンの魔族が落としたハンドベルも回収していく。
しかし、エコーの元に向かった芋虫だけは、困ったように頭をもたげていた。
「きゅきゅっ!」
「あら、面白い魔法ですのね? そちらのお嬢さんの固有魔法かしら?」
エルプラダはそう言うと、右下腕をまっすぐ伸ばし、パチンと指を鳴らした。
すると――プツっと音がして、埋まっていたエコーの下半身がズルッと這い出てきた。彼の足首には細い糸が巻き付いているが、その糸は途中で切られている。
「切った? イユさんの糸を? ……どうやって?」
得体が知れないな。
流石は魔族の幹部だけはある。
「ば、ババア。俺はまだ――」
「だーかーら、ババアじゃありません! もう!」
芋虫が背にして運んでいたエコーに対し、エルプラダは額を小突いた。
「かッ!?」
指先で小突いただけに見えたのに、『ゴンッ!』という鈍い音がし、エコーは白目を向いて再度 意識を失くしてしまった。
「やれやれ、あの子は性根から鍛えなおさないと」
エルプラダはそう言って頬を膨らませていた。
どうやら、彼女は本当にここで戦う気はないらしい。
芋虫たちは魔族たちを背に乗せて、最初に出てきた門の中に戻っていった。
「さて、本来はこれだけだったんですけど」
しかしそこで、エルプラダはイユさんの顔を見てから、そちらに一歩踏み出した。
「なッ!? 何をする――」
「あら貴方。よく見ると中々に綺麗な顔をしていますのね。でも……わたくしの前に立てるほどの実力はなくってよ?」
イユさんを守るべくエルプラダの前に立ちはだかった俺に対し、彼女は右上腕で俺の胸元を――トンと押しただけだった。
が、しかし。
――ミシィ! と胸骨が軋む音がした。
「がはッ!?」
肺の中の空気が押し出され、俺は仰向けに倒れこんだ。




