第48話 達成と虚栄と①
こほん、と咳払いしてから彼女は言い直した。
「わたくしは魔王軍の幹部のエルプラダ・パライバトルマリンですわ。以後お見知りおきを」
お見知りおきたくねえ~~~~。
魔王軍の幹部なんて会いたくねえよ俺は。
「えー、あの。……魔王軍の幹部のエルプラダ様が何の用ッスか?」
「いえ、大したことではないんですけれど……。不出来な部下の後始末に来たんですの」
あっ、やっべー。
エコーが言ってた『蝶ババア』って絶対にこの人じゃん。
俺はもう一度、彼女の姿をよく見る。
――彼女の身体から、何か光り輝くオーラのようなものが立ち上っているのが見える。
これは、彼女の纏う魔力だ。
俺が今まで見てきた中で、もっとも美しい。
一瞬で理解できる。
俺じゃ、この人には勝てない。
「それで、もしよろしければ貴方のお名前も聞いてよろしいかしら?」
にっこりと微笑むエルプラダ。
しかし彼女の纏うオーラを見てしまうと、単なる声掛けであっても委縮してしまう。
それでも俺は意を決し、口を開いた。
「愚地独歩です……」
俺は躊躇うことなく偽名を使った。
「……わたくしの予想が正しければ、貴方は瀞江桃吾さんだと思うのですけれど」
そしてバレてた。
しかし、その程度で俺の心は折れはしない。
「こんにちは、エルプラダさん。俺は瀞江桃吾。勇者のお兄ちゃんで、普段はもっぱらプラプラ遊び歩いています」
何喰わぬ顔をして、俺はさっきのやり取りをなかったことにした。
「ま、まあ……そうなの。貴方、なかなかメンタル強いのね……」
「ええ、よく言われるんスよ」
そんなことを不敵に言ってみるが、俺の身体は恐怖に震えてしまっている。
……いや、マジで怖い!!
何とかふざけて誤魔化そうとしていたんだ俺は!!
でも、怖いんだマジで!!
目の前の可愛らしい少女が、これまで見てきた何よりも恐ろしく見える!!
ただ、それでも。
「で、エルプラダさん。後始末って具体的には何するんスか?」
そう言って、俺は拳を握り固める。
砕けた右拳が痛い。
鼻出血が止まらず、口の中も いつの間にか切ったらしく血の味がする。
全身から冷や汗が止まらない。
疲労で膝が震えている。
ただそれでも、――格好くらいは付けないとな。
しかしそこで、俺の穿くスラックスの裾がチョイチョイと引かれた。
「イユさん?」
「……」
俺が視線を落とすと、イユさんがイヤイヤとするように首を左右に振っていた。
口をパクパクと動かしているが、もはや声も出なくなってしまったのか。
それでも何を言いたいかは分かる。
――俺が負けるって言ってんだろ?
「分かってますよ、そんなの。……でも、仕方ないっしょ」
そう言ってイユさんに微笑むと、彼女は眉根に皺を寄せて、唇を噛んでいた。
そんな表情すんなよ。
俺だってガラじゃねえのは分かってるよ。
そう思って溜息を一つ吐くと、俺はエルプラダに向きなおした。
「ひょっとして……ここに集まった俺らを餌にして、これから来る勇者達を全員 始末すると?」
ここには、翠が向かってきている。
そして恐らく、『聖剣』の勇者である青一も向かってきているだろう。
2人とも、勇者ではあるがまだ幼く経験も浅い。
魔王軍の幹部を倒せるほどの実力があるとは、思えない。
俺は素人だが、目の前の魔族にはそれだけのプレッシャーがあった。
青田刈りに来たなら、良いタイミングだろう。
「あら? そんなことしませんわよ。後始末は本当にただの後始末ですわ。部下を回収したら帰ります」
しかし、彼女はそんなことをあっさりと言ってのけた。
主要キャラは名前に色を入れているんですが(桃吾・翠・青一)、それだけだと被りかねないし面白みがないな、と思ってエルプラダは色の代わりに宝石である「パライバトルマリン」の名にしました。
薄いブルーの綺麗な宝石です。
ちなみに作者個人はイエローダイヤモンドが好きなのですが、理由は『宝石の国』の推しだからです。
10巻を読んでどうかなるかと思いました。
なおエコーの名前の由来はタバコの銘柄で、地名の「ベイリーズ」はお酒の名前です。




