第46話 決着③
魔力切れの所為で魔力が使えない。
これは思った以上に――マズい!!
そう思いながらも、接近してきたエコーの振り下ろされる鎌に対し、俺は両手で鎌の根本の腕部分を抑えて身を守る。
エコーの左上腕を掴み、ほとんど密着するような姿勢だ。
「お前の傍にいれば、弟だって撃つの躊躇すんだろうがよォ!!」
「――この野郎ッ!!」
魔力切れの所為で魔法が出ない!!
ヌルヌルが出ない以上、俺が使える魔法は初級魔法として指先から水が出る、指先から火が出る、指先からそよ風が出る、この3パターンだ。
クソ!! なんで指先から何かが出るばっかりなんだ!!
何の役にも立ちやしねえ!!
更にこうも密着されると、翠が砲撃しようにも俺も巻き添えを受けて死ぬ!!
これでは翠も手出しできない!!
あの子がここに来るまでどれくらいだ!?
平原の先、地平線に輝くものが見えた。
あれが翠の戦艦だろう。
そして異世界の俺たちの居る惑星が地球と似たようなものならば、この世界でも地平線は約4~5キロ。
――4~5キロか!!
どれくらいかかる!?
魔力で強化して走ったら、最高でどのくらいだ!?
俺はどのくらいコイツ相手に持ちこたえればいい!?
両手で必死にエコーの鎌を抑えていると、彼はもう一本の右腕を握り固める。
「お前!! 腕が沢山あるのズルくねえ!?」
「悪いがッ!! 生まれつきなもんでな!!」
腹筋に力を込めて、何とかエコーのパンチに備える。
が。
「ウチのこと忘れんなや!!」
「ぬう!?」
エコーの足首にイユさんの糸が巻き付き、彼女が糸を強く引くことでエコーの姿勢を崩し、同時に俺もエコーの腕を持ったまま地面に叩きつける。
ダンッ!! と音を立てて、エコーが仰向けに倒れる。
その無防備になった顔面に――。
「オラぁ!!」
全体重を乗せた渾身の右拳の打ち下ろしを叩きこんだ。
の、だが。
――ドゴッ!!
と、エコーの顔面に拳を叩きこんだ瞬間、俺の方に鈍い痛みが走った。
「~~~~~~~ッ痛ぇえ!!」
打ち下ろした右拳から“ぺきっ”という乾いた音が響き、右手の中指と薬指が腫れ上がっている。
完璧に指の骨が逝った!!
こいつ、なんで顔面がこんなに硬いんだ!?
「ぎゃははぁ!! 俺は甲虫種ほどじゃねえがそれなりには硬いんだ!! 強化魔法も纏ってない人間の拳なんざ効くかよッ!!」
仰向けのままエコーは俺を蹴り飛ばし、俺は背中から倒れこむ。
「痛ッ!! この野郎!!」
「がんばれ桃吾!! こいつだってボロボロや!! 翠の攻撃を防いだ時に魔力もほとんど尽きてる。もう少しで倒せる!! がんばれ!!」
「――うるせえなァ!! てめえから死ね!!」
俺に声をかけてきたイユさんに苛立った様子で、エコーは鎌を振り上げる。
ダメージと魔力の消費が激しいイユさんに、それを避けることはできない。
「死ねェ!!」
「させるかボケ!!」
しかし、そこで咄嗟に俺がエコーの足首を掴み、引き寄せる。
「うお!?」
バランスを崩し、エコーの鎌はイユさんの鼻先スレスレを掠めて地面に突き刺さった。
「あっぶな!! このッ!! カマキリなんぞ蜘蛛の餌やろうが!!」
六本の腕を自在に動かし、イユさんがエコーの首、右下腕、右上腕に糸を巻き付け、縛り上げる。
「かぁ……ッ!?」
エコーは首を絞められ、何とか糸を切り裂こうとするものの、イユさんとてバカではない。
糸で縛り上げ、鎌の動きを制限させることで動きを封じ、締め上げる。
イユさんがエコーの動きを抑えている今がチャンスだ。
どんだけ硬かろうが、それでも痛い場所があるだろうが!!
――俺達“オス”にはなァ!!
「オラぁ!!」
俺は背後から思いっきりエコーのキンタマを蹴り上げた。
“ぺきょッ”という男としては一生聞きたくない音がしたが、アドレナリンの出まくっている今の俺には敵がどうなろうと知ったことではない。
「かぁ……ッ!?」
首が絞められているため声を上げることはないが、それでもそのリアクションでエコーが悶絶しているのは見て取れた。
「しゃあ!! もう一発かますぜッ!! お前を去勢してメスにしてやるよォ!! おらメスにして下さいって言えよカマキリ野郎があッ!!」
もう一発エコーの股間を蹴り上げてやろうと、右脚を振り上げている間に、エコーは自分の鎌に絡みついていた糸を牙で噛み千切り、自由になった鎌で自分の動きを阻害していた糸を瞬時に断ち切ると、地面を転がって俺の蹴りを回避する。
ド素人丸出しの大振りなキックを外し、俺はほんのわずかな間 硬直した。
「ぎっざまあああああああああああああ!! ぶち殺じてやるあああああああああああああああ!!」
エコーが俺の心臓目掛けて鎌を振り下ろす。
俺は何とかエコーの左上腕の手首を抑えるが、そのまま勢いで押し倒され地面に仰向けになり、エコーが俺の上に跨って心臓を貫くべく体重をかけてくる。
「ぐおおおおッ!? カマキリ野郎が!! 大人しくハリガネムシに寄生されてろや!!」
「ふざけんなや!! 腕が2本しかない人間風情が!! 俺に喰われて餌になってろ!!」
エコーの鎌と俺の腕力が拮抗し、鎌の刃先が俺のジャケットに触れるか触れないかのところで押し留められる。
いや、腕力だけならば俺の方が上だ。
鍛えまくった俺の上腕三頭筋を舐めるなよ。
が、しかし。
エコーは左下腕の拳を握り固めた。
「だからそれはズル――」
「うるせえ!!」
俺の右脇腹にエコーの拳が叩き込まれた。
それも1度や2度ではない。
何度も何度もだ。
――ゴッ!! ゴッ!! ゴッ!! ゴッ!! ゴッ!!
と、固い外骨格を持つ魔族の拳が俺の肋骨を殴りつけ、脳内を奔る激痛に俺は歯を食いしばって耐えながら、エコーの鎌を抑える。
腹を何発殴られても良い!! ただ鎌はマズい!!
マジで死ぬぞ!!
そう自分に言い聞かせて必死に耐えるが、徐々に鎌の刃先が迫り、魔力が枯渇したせいで単なるジャケットに成り果てた俺の魔法衣を貫き、やがて皮膚にまで届き――。
「――『ただ欲しかった』」
そんな時、囁くような声が聞こえた。
「……ああ?」
エコーが疑問の声を上げた直後、彼は地面に呑み込まれた。
「うおおお!? しまった!! これはアラクノイドの――!!」
ああ、俺もいっぺん食らったから分かる。
これはイユさんの固有魔法だ。
恐らく、エコーの足首と地面を縫い付けることで地面に一体化させたのだろう。
そのため、埋まっているのはエコーの腰までだ。
俺はエコーの鎌が届かない距離まで急いで離れる。
これで倒したわけではないが、動きは封じた。
「ははッ!! やりましたねイユさ――」
そう言いかけていたところで、俺は絶句した。
「ごぼ……ッ!!」
イユさんが大量の血を口から吐いていたからだ。
今回のエコーと主人公勢の戦闘シーンはアクション映画の「ザ・レイド」のラストバトルをイメージしてます。
読んでもよく分からなかったという方はもうそのままレイドを見てください。アクションが最高です。
でも続編の「GOKUDO」は見なくていいと思います。




