第44話 決着①
エコー達に砲撃があったのとほぼ同時刻、数キロ離れた場所に翠は立っていた。
「み、翠様!? いきなり何を!?」
ヒューマンワイファーが狼狽して尋ねる。
自分とともにいた勇者が突如として平原の地平線に全力の艦砲射撃を叩きこんだのだ。
驚くのも無理はない。
しかし彼は――瀞江翠は、手で右目を抑えながら、淡々と答えた。
その5メートルほど上空には、陽を浴びて輝く戦艦が浮かんでいた。
「最近 気付いたんですけど、私の片目は戦艦のブリッジからの視界とリンクできるみたいなんです」
「は、はぁ……」
「要するに、高所からの視界が得られます。――お兄ちゃんの姿が見えました。モンスターと魔族らしき人達と戦っていたので、支援攻撃を行いました」
「なぁ!? そ、それでどうなんです!? 倒したんですか!?」
「大体は……。ただ、少しマズい状況です。急ぎましょう!! お兄ちゃんが危ない!!」
「はい!! よし、じゃあ お前らは近くにいる冒険者を呼んで来い!!」
「「はッ!!」」
翠とヒューマンワイファーは桃吾の元に駆け出し、部下の2人の騎士は仲間を呼ぶべく他の方向に走り出した。
魔法で身体を強化すれば、今の翠は時速40キロ程度――陸上の短距離走の世界レコードで走れる。
ただ、翠は幾つかの疑問を抱えていた。
まず一つ目。
(お兄ちゃんと離れる時、最後に『北東に行け』と言っていた。事実、北東側で二度も巨大な破壊音がした。お兄ちゃんはどこからどこまで知っているの?)
そしてもう一つ。
(……それに、お兄ちゃんが抱いていた あの人は誰? 人間には見えなかったけど)
しかし、彼は考えることをやめた。
(ううん。お兄ちゃんのことだ。何か巻き込まれて、それでも必死に頑張っているんだろう。昔から不器用な人だったから)
「それじゃあ、弟の私が頑張らないといけませんね」
雑念を払い、弟は奔る。
兄を助けるために。
####################################
「流石はガチなチート、略してガチートだわ。これは凄いな」
身体に降りかかった砂塵を払って――というか汚れたヌルヌルごと流し捨てつつ、周囲の様子を眺めて、俺はそういった。
エコーの『カラミティ=ウィンド』は直線状に攻撃を伸ばすものだったが、翠の艦砲射撃は魔族やモンスターの居た当たりを中心に半径30メートルほどに攻撃を集中させ、その全てを叩き潰してしまっていた。
2発目のエコーの『カラミティ=ウィンド』を誘ったのは魔力切れ狙いもあるが、周囲の冒険者や翠たち勇者に敵の居場所を正確に伝えるためだ。
攻撃範囲が大きい上に、破壊音も凄まじいのだ。
2発も撃てばすぐさま誰かが補足してくれるだろうと思っていた――というかカナブンとカブトムシも乗ってきたので想像以上に派手になった――のだが、翠が反応してくれるとは。
ただ翠には北東方面に向かうよう指示していたので、それも功を奏したな。
今回の件にはイユさんが絡んでいるだろうと思い、彼女の生家のある方角を示していたのだが、正解だったようだ。
「これで、一件落着かな。イエーイ!! ざまあ!! クソ虫がイキってやがるから天誅だぜスカタンがァ!!」
勝利して敵煽るのマジで気持ちぃい~~~~。
とは言うが、しかし、あれほど恐ろしかった敵の群れが、今では塵芥だ。
そこいらに虫の羽根や千切れた脚などの残骸が散っている。
モンスターはともかく、人型の魔族の死体はあまり見たくないな。
…………というか、流石に殺すのは罪悪感を覚える。
え? めっちゃイキっちゃったけど大丈夫かな俺?
確かにどう考えても敵だったんだが。
でもちょっと前まで俺 一般人だったし。
いや、今でも一般人だけどさ。
人語を解す人型の生き物を、弟が殺した。
というのはちょっと割り切りにくい。
俺を助けるためだったろうし、それを翠に言うことはないが。
……流石にちょっとモヤモヤするな。
「でもまあコレで安心――」
しかし安堵した瞬間、ポタポタと何かが俺の顔から垂れた。
「……え? 鼻血?」
気づくと鼻血が流れていた。
いや、それだけではなく、唇も切れて血が滲んでおり、全身が震えて冷や汗が流れ、突如として襲ってきた疲労感に俺は膝を着いた。
「な、なん……だ? う、あ……うおぇええええええ!!」
込み上げた吐き気を我慢できずに、俺は地面に吐瀉物をぶち撒けた。
どうした?
酷く気分が悪い。
「こ、これは……?」
俺の身体に、何が起きてるんだ?




