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弟チートで兄ニート!! ~異世界に来たくらいで働くなんて甘え~  作者: 水道代12万円の人
第二章 ヒューマン英雄王国・ベイリーズ激戦
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第43話 闘争③




 煽りまくる俺の姿を見ていたイユさんは呆れた様子……を通り越して引いていた。



「お前……もうそれ煽ってるとかいう次元ちゃうやろ。正気か? もう何か、純粋に正気か?」

「そういう言い方しないでくださいよ。興奮しちゃうでしょ」



 まあ意味があってしている行動なので、大目に見て欲しい。



「もういい!! こいつ殺そう!!」

「マジでムカついて来たわね!! 殺しましょう!!」

「オラぁああああ!! ぶち殺してやれや!! 死ねやあああああああああああああ!! 特級魔法『カラミティ=ウィンド』!!」

「上級魔法『グランド・ショックノック』!!」

「上級魔法『ファイア・エクスプロード』!!」



 3体の魔族が同時に放った魔法が合体し、強烈な熱風と槍のように隆起した地面が俺とイユさんに迫りくるっ!!

 ――ズガガガガガガガ!!!! 

 という強烈な破砕音に対し、俺は咄嗟にイユさんを抱きしめ目を閉じると、全身に魔力を漲らせ大量のヌルヌルで身を守る。




 直後、身を切り裂く暴風が俺達を襲い、地面を抉りぬき、大地を炎の群れが覆いつくした。




 風が収まり、パラパラと砕けた石片が地面に落下し、舞い上がった砂埃が風に流されていき、火の粉が辺りに散らばっていく。 

 その光景を見て、エコーは満足したように笑った。




「ハハハァ!! 馬鹿が!! 図に乗りやがって!! お前が死んだところで、やりようは他に幾らでも――」



 しかし、そう言いかけて彼は絶句した。




「はい、お前の魔法ローション以下~~~~~~!!!!」




 俺がヘラヘラと笑っていたからである。


 以前、試したことがある。

 俺のヌルヌルは敵の攻撃を受け流すことができる。

 だが、それはどのレベルまでなら受け流せるものなのか?

 そう思って、試しに仲良くなった衛兵の人達に協力してもらって、試したのだ。


 普通のパンチ――受け流せる。

 マッチョの衛兵の全力パンチ――受け流せる。

 鍛えられた衛兵の剣術による一撃――受け流せる。

 何故か参加してきた神官の炎魔法――受け流せる。


 試したのはそこまでだったが、しかしこれによって俺は魔法も含めてかなりの攻撃を受け流すことができると分かった。

 事実、先ほども一度『カラミティ=ウィンド』を受け流すことに成功している。

 だからこそ、勝算のある戦いではあったのだが。



「いきなり来るのも怖えけど、来るのが分かってるのも怖えな……」



 いやマジで怖かった!! 

 マジで漏らすかと思ったわ!!



「お前のヌルヌル……割とチート性能ちゃうん?」

「やめてくださいよ! ローションがチート性能なんて、異世界なのかソープランドなのか分かんないでしょ!! ソープ行ったことないけどさ!!」


 

 あと別に俺の能力にも弱点はある。

 水中では呼吸できないから溺れれば死ぬし、地面に生き埋めにされても死ぬし、毒ガスに覆われると呼吸できなくて死ぬ。

 ただ直接的な物理攻撃には強いだけなのだ。


 俺が生きているのを見て、エコーの眼が怒りで赤く染まる。



「テメエッ!! まだ生きてやが――」



 そう言いながら再度 攻撃すべく一歩前に出したエコーの膝が――崩れた。



「ああん!?」



 見れば、エコーは片膝を着き、息も上がってしまっている。

 これは――。



「エコー!! 魔力が減ってるわ!! 2回も特級魔法なんて使うからよ!!」

「ま、まあ俺達も熱くなってしまったが……」


 慌てた様子で、カナブンの魔族がエコーに寄り添い、カブトムシは気まずそうに頬を掻く。


 ――魔力切れ。

 魔力が生命を支えるこの世界では、魔力を使い果たせば死を意味する。

 そこまで行かなくても、生命維持機能が落ち、活動能力は低減する。



「どうやら、俺の読み通りだったな」



 エコーは短気なアホだ。

 ついでに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 煽れば大技をぶっ放してくれるだろうと思った。

 特級魔法がいかほどのものかは知らないが、名前から察するに上級魔法よりもさらに上だろう。

 ならば、消費魔力も凄まじいはずだ。



「……アイツは、そもそもウチと戦って何割か魔力を消費しとる。それで特級魔法を2回も使たんや。あの様子なら残りの魔力は精々2割弱くらいやろ」



 囁くように、イユさんが教えてくれた。

 これでエコーの戦闘能力は大きく落ちただろう。



「……そうか。俺はまた熱くなったか」

「なッ!? 雰囲気が変わったぞアイツ!?」


 

 しかし、ここでエコーは冷静さを取り戻したらしく、大きく息を吐くと、カナブンの魔族に視線を向けた。

 


「俺達みんな熱くなり過ぎたな。……頭が覚めた。アラクノイドは殺せ。あの人間の魔法は厄介だが、恐らく攻撃を受け流す以上のことはできない。魔力が尽きるまで蟲で甚振れ」

「ええ、分かった」



 ――だよなあ。

 こんなの、精々一発ネタみたいなもんだ。

 これだけでどうにかなるとは思ってない。



「すみません、イユさん。もう少し耐えてください」

「……まだ、間に合う。ウチの魔法を使えば桃吾を地中に逃がすことはできる。地面と桃吾を一体化させればな。……ウチが死んだ後にどうなるかは分からへんけど、少なくともここでアイツらに取っ捕まるよりマシやろ」

「イユさんの魔法って、イユさん自身には効かないんですか?」

「……ああ、ウチの魔法はウチ自身には効かん」

「じゃ、ダメです。俺とイユさんの双方の生還。これが最低条件です。それが達成されないなら、意味なんてない」

「でも、この状況じゃ――」

「大丈夫ですよ。どうやら良いタイミングで来たみたいだ」


 

 俺は、言いかけるイユさんの言葉を遮った。



「本当に良いタイミングだ。相変わらず優秀だな――俺の弟は」



 俺の視界の端で、何かが陽光を浴びて輝いていた。

 遠く遠くに見えるその輝きはやがて、段々と光が増していき――。




「――お前らぁあああああああああああ!! 身を守れぇえええええええええええええ!!」



 エコーが叫ぶのと同時だった。

 周囲を更地に変えるほどの艦砲射撃が、魔族とモンスターの群れを襲った。








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