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弟チートで兄ニート!! ~異世界に来たくらいで働くなんて甘え~  作者: 水道代12万円の人
第二章 ヒューマン英雄王国・ベイリーズ激戦
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第38話 ネゴシエーション②




 油断されているならば、その隙に付け入る。

 俺がそう考えている間に、エコーは背後の部下に命令を下した。



「おい、アラクノイドを引き起こせ。アイツ(人間)に見えるようにな」



 エコーの言葉を受け、カブトムシがイユさんの頭を引っ掴んで、無理やり引き起こした。

 彼女の身体には、大小無数の傷があった。

 太ももには切り傷、左腹部に青あざ、額が切れて血が流れており、左上腕は骨折しているらしく前腕部が赤く腫れあがり、指は何本も折れたり腫れ上がったりしていた。


 この場の様子を見ても、よく分かる。

 イユさんは、彼らと戦って敗れたのだ。



「こいつよぉ、祖母ちゃんを助けてえって言って、これまで俺にヒューマン英雄王国の情報とか送り続けてくれてたんだけどよぉ。……もう辞めるとか言い出したんだよ。その上、ケジメをつけるとか何とか言って、俺らに喧嘩吹っ掛けてきたんだわ。勝てねえの分かってたろうによぉ」



 ――そうか。

 やっぱりそうか。

 彼女は、過去の罪の清算に来たのだ。

 自分の行いを改めるために――負けると分かっていて、死ぬかもしれないことを理解してここにやってきたのだ。







 ……やばい、シリアス展開じゃん。

 マジな奴じゃん。

 俺の苦手な奴じゃん。



「すみません、シリアスなのが続くのちょっとだけふざけて良いですか?」

「はぁ?」

「男性ホルモン受信中!!!!! ……あっ、はい。大丈夫です」

「えっ!? いまの何!?」



 ちょっとだけ気分が落ち着いた。

 よっしゃ。シリアス君、戻ってきていいぞ。



「はい、じゃあまたシリアスな話してもらっていいですよ」

「しにくいわ!! この空気感なんなんだよ!!」



 カマキリ野郎も意外と良いツッコミするじゃん。




 と、そのタイミングで。

 


「……っう、あ!?」



 イユさんは目を覚ましたのか、何度か瞬きをして、――俺と目が合った。




「……まさか、桃吾!?」

「てへ! 来ちゃった☆」

「ふ、ふざけとる場合ちゃうやろ!! 何で来たんや!!」

「しゃあないでしょ、イユさんほっとけないし。いやマジで気乗りしなかったのに頑張って来たんスよ俺ぁ。もっと褒められて良いんじゃない?」

「お前はッ!! 分かってたやろ!! ウチはお前らの敵やッ!! 人間を裏切った!!」

「そっすね」

「何をそんなに軽いテンションで――」

「いやぁ~~~~もう良いですよぉ、イユさん。そういうのは」



 頭を掻きながら俺がそう言うと、彼女は呆気に取られた様子だった。



「……は?」

「貴方がそういうこと言うのは予想してましたよ。悪ぶっちゃってねぇまあ。でも、そういうのもう良いです。イユさんが自分のことをどう言おうが、俺にとってのイユさんはただのおばあちゃん子でツッコミ上手な友達ですよ」

「桃吾……!」

「じゃ、そういうわけで。イユさん返してもらっていいですか?」

「――返してハイさようなら、とはいかねえぞ?」

「そらそうだろ。俺とイユさんで交換だろうが」




 こいつらの目的は勇者だ。

 そして勇者の餌にするなら、勇者の実兄である俺の方が適任だ。



「だから俺を呼んだんだろ? イユさんが俺を売るのを拒んだってことは、イユさんにとって俺は見捨てることができないくらいには情が湧いたってことだ。それはつまり、俺だってイユさんに情が湧いてる。それくらいの関係性にはなってるってことだ。……なら逆にイユさんを餌にすれば、俺が釣れる。そしたら今度は俺を餌にして翠を釣ればいい。ははは、漁業みたいだな」

「……そこまで分かってて、良くここまで来たなァ。お前」

「そこまで分かってるから来たんですよ。イユさんを生かして解放してくれるなら、俺は大人しくアンタらの餌になります。だが、彼女をそれ以上 傷つけたら、俺は舌を噛み切ってでも自害する。……餌は活きが良いほうが良いだろ? 死んだ餌は餌にならん」

「ぎゃはは!! お前、気合入った生き方してんな!!」



 気合なんかねえよ。

 正直マジで怖え。

 どうしよう、ちょっとおしっこ漏れそうなんだが?

 あっ、いま先っちょからちょっと漏れた気がする。

 マジでカッコつけてるだけだ、こんなもん。

 大丈夫だ、今の俺はカッコいい。

 カッコいい俺なら頑張れる。

 頑張れ、俺!



「そうだな、じゃアラクノイドは解放してやるよ。――代わりに、()()()()()()()()()()()()



 冷たい声音で、エコーはそう告げた。

 あー、バレてるよね、そら。




なんでこんなシリアスな雰囲気になったのか作者にも分からない。

俺はギャグ小説を書いていたはずでは? と自問しながら書いています。

作者は油断するとすぐに主人公や仲間の手足を切り落とそうとします。

今回のイユさんも「せっかく腕が6本あるし2本くらい切り落とされたことにしようかな?」とか思ったけど流石に辞めました。

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