第36話 奔れ(後半)
そう言って、青一はヒューマンワイファーに視線を向け、彼女も力強く頷いた。
「この手紙の内容から考えるに、イユさんは街の外でしょう。ですので青一様達は西側の門から街の外を調べてください! その際、門番の方に聞いてイユさんが出入りしていないか聞いてきてください!」
「分かった!」
「ええ、分かったわ!」
「分かりました!」
「翠様は私の部下達と一緒に東側の門から捜索に行きましょう!」
「はい、分かりました!」
「「了解!!」」
「それと……桃吾様、貴方はギルドマスターに協力の依頼に向かってください!! 桃吾様の固有魔法は身を守れても戦力はありませんので、下手に外に出たらダメですよ!!」
「ええ、了解っス」
「彼女の手紙の『裏切り者』と言う表現が気になります。このベイリーズは王国内の大都市では最も魔族の領土に近い……。であれば、彼女の裏切り者と言う表現は魔族との繋がりを指すものである可能性が高い!! 油断しないで下さい!! 今回の敵は単なるモンスターではなく、魔族である可能性がありますッ!!」
ヒューマンワイファーの言葉に、皆の表情が引き締まった。
――魔族か、話に聞いたことはあるが実際に関わるのは初めてだな。
来ているとすれば、イユさんの話に出てきたカマキリの魔族の……『エコー』だったか?
そいつが来ている可能性があるな。
「……もしかしたら、今回ここにイユさんや俺達が集まるきっかけになった昆虫型のモンスターの大量発生も、その魔族が手引きしたことでは?」
「なるほど!! であれば、敵の魔族も昆虫型の魔族である可能性が高いんですね!」
ヒューマンワイファーも得心が言ったように首肯した。
自然な流れでヒントを出せた。
この情報が役になってくれればいいが。
「昆虫型の魔族なら、総じて炎熱系の魔法に弱いことが多い。なら、翠さんの魔法が有利に働くかもしれないね」
「青一様、私も炎魔法の準備をしておきます!」
「……よし、では。各々のすべきことは分かっていますね! では、行動開始!!」
女騎士の言葉を受けて、真っ先に青一達が外に向かって駆けだしていった。
その後を追って女騎士と その部下の2人も駆け出していくが、
「あっ、ちょっと待ってください!!」
そう言うなり、翠は俺に向かって飛びつくようにして抱き着いてきた。
そして、俺の耳元に口を寄せて。
「……何か、隠してますね。お兄ちゃん?」
俺にそう囁いてきた。
俺は彼女を抱きしめ返し、彼の耳元で囁いた。
「ああ、言えないことがある」
「……でも大切なことなんでしょう? 理由があるんでしょう?」
「ああ、大切な理由がある。……いや、まあ。正直面倒くせえけど……ちょっとだけ頑張らないといけないみたいだ」
「……そうですか。じゃあ、大丈夫です」
抱きしめ合っているため翠の表情は分からなかったが、それでも彼は笑っている気がした。
「では、私も行き――」
「待ってくれ、翠。一つだけ頼みがある」
「頼み? 何ですか?」
「ああ、実は――――」
俺の言葉を聞いて、翠はただ。
「分かりました」
とだけ答えた。
なぜ? とは訊かなかった。
そんなの聞くだけ野暮だ、と言った調子だった。
抱きしめ合っていた俺達は離れて、向かい合った。
「じゃあ、翠。怪我すんなよ」
「ええ、お兄ちゃんも。……怪我したらダメですよ」
それだけ言って頷き合うと、翠は女騎士たちとともに駆け出していった。
走り去る彼の後ろ姿を見送り、俺も気合を入れなおす。
「よっしゃ! 俺がチンタラしてたらダメだよな!!」
イユさんの残した手紙を持って、俺もギルドに駆け出した。
ギルドで手紙を見せて事情を話すと、すぐにギルドマスターが応じてくれた。
「――事情は分かった!! 魔族が関与している可能性があるのだろう? ウチのギルドの冒険者たちにはすぐ収集を掛けよう!!」
ギルドマスターの言葉通り、仕事は早かった。
30分もすれば、ギルドの冒険者達が集まり、チーム毎に外への探索に出かけていった。
ただ……。
「俺に出来ることは……少ないな」
「勇者の兄上よ、人には人の役割がある。無理するもんじゃあないぞ」
俺の独り言を聞いたギルドマスターに、そう釘を刺されてしまった。
確かに、俺に出来ることなど限られている。
下手なことはすべきではないだろう。
「……イユさんの部屋に何かヒントになるものがあるかもしれません。探しに行ってきます」
それでも、彼女の秘密を知っているのは俺だけだ。
何か俺に出来ることがあるかもしれない。
そう思って、俺はギルドを飛び出した。
宿に戻るべく走っていた俺の視界の隅で、何かが飛んでいた。
何だ? と思うと、それはカマキリだった。
ああ、カマキリか。
それくらい珍しくも――。
「――まさか!!」
イユさんに声を掛けた昆虫系の魔族もカマキリだったはず。
そう思って、そのカマキリに視線を向けると、道端を歩いているそのカマキリは、両手のカマで、何か短くなった鉛筆のようなものを挟んでいた。
「……何だ、それは?」
しゃがみこんだ俺が右手を差し出すと、カマキリは俺の手のひらの上に、その鉛筆のようなものを置いて、そのまま飛び去っていった。
やはりただの蟲ではなかったか。
残された鉛筆のようなものをよく見てみると、それはどうやら書簡だった。
円筒形の木製の筒の中に、丸められた手紙が入っていた。
広げたところで手のひらに収まる程度に小さな手紙には。
『瀞江桃吾、誰にも言わずに、一人で来い。さもなくば、この女は自分が生まれた場所で死ぬ羽目になる』
ただ、そう書いてあった。
「……クッソが!!!! シリアスパート向いてねえんだよ俺は!! もっとこう尻アスみたいなのにしろ!!!! バーカこのバーカ!!!!」
俺は小さな手紙を その手に握りこんで、駆け出した。
目的地は――イユさんの生家だ。




