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弟チートで兄ニート!! ~異世界に来たくらいで働くなんて甘え~  作者: 水道代12万円の人
第二章 ヒューマン英雄王国・ベイリーズ激戦
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第35話 奔れ(前半)




 朝、俺は目を覚ますと、顔を洗い歯を磨き、パジャマから普段着に着替えて、簡単な食事を取る。

 その後は、宿にある客用のキッチンを借りて今日のランチを作ろう。

 今日は焼きそばにしようかな。

 この世界にも麺類はあるのだ。

 ただ、いわゆる焼きそばソースはないので、焼きそばと言っても塩焼きそばに近いものになるが。

 これは料理長が賄いに作っていたものだったのだが、大変 美味だったので気に行ってしまった。

 魚介のスープを加えて作るのがポイントだ。


 そうやって俺が料理をしていると。



「ふぁ~、おはようございます……」



 寝ぼけ眼をこすって、翠が起きてきた。

 髪の毛が跳ねている、あとで梳いておかないとな。



「ああ、おはよう翠。……あれ? 翠?」

「ん? どうしたんですか?」

「いや、いつもならイユさんが先なのになあと思って」



 イユさんは俺の次に起きてきて、お茶の準備をするのだ。

 俺がやるから良いんじゃないスか、とも言ったのだが、『勇者が優秀過ぎてウチもやることがないからな。せめてこれくらいは』と言っていた。

 珍しいな、まあ昨日は少し遅くなったので、寝坊したのかな。

 そんなことを思っていたが。



 暫く待ってもイユさんは部屋から出てこなかった。



「流石に遅くないか? もう出発の時間だぜ? ノックしても反応ないし」

「といっても、私達みたいな男が女性の部屋に入るのもどうかと思いますし……」

「そうだな、……しかし翠も男なのは理解してんだけど、脳の情報処理がややこしいな……」



 俺と翠が宿の前でそんな話をしていると、青一たち勇者の一行と、女騎士のヒューマンワイファー達がやってきた。

 彼らは泊っている宿が別なのだ。



「おはようございます、翠さん、桃吾さん。……あれ? イユさんはどうしたんですか?」

「ああ、青一君。おはよ。実はさ、イユさんが部屋から出てこないんだ。女の子達で見てきてくれないかな?」

「……ははーん? さてはアンタ、彼女と何かあったわね」

「昨日、意味深なことしてましたからね」

『貴方が余計なことをしたんじゃないの?』



 おっと、そういや昨日はこいつらの前でちょっと余計なことをしたんだったな。

 まあ、実際にちょっと特別なことはあったんだが。



「そういうのじゃないとは思うんだがな。何にせよ、部屋に入るなら女性陣のほうが良いだろう」

「ふむ、良くは分かりませんが、そういうことならぜひ協力しましょう」



 そう言ってくれたのはヒューマンワイファーのヒューマンワイファーだ。

 流石、年長者だけあって話が早い。


 俺達は事情を話して宿のオーナーにマスターキーを借りて、イユさんの部屋に向かった。





 とりあえず、もう一度ノックしてみる。

 ……やはり反応はない。



「やっぱダメだな。返事がない。……ヒューマンワイファー隊長、お願いします」

「心得ました」



 俺の言葉に応じて、ヒューマンワイファーがマスターキーをドアノブの鍵穴に差し込み、開錠した。


 

「這入りますよ、イユさん?」



 そう声を掛けながら、ヒューマンワイファーが室内に這入っていき、その後に続いて青一の仲間の女格闘家と魔法使いも這入っていく。

 男の俺達は部屋の外で待っていたのだが。



「ちょ、ちょっと皆 来て!!」

「どうした!?」



 すぐにヒューマンワイファーの慌てた声が響き、俺達は室内に駆け込んだ。



「こ、これ見てください!」



 ヒューマンワイファー達は、部屋の窓際にあるデスクの前に立っていた。

 室内は整然としており、イユさんのものだと思われる荷物は綺麗にカバンにしまわれていた。

 だが逆に言うなら、彼女は持ち物のほぼすべてを置いて行ってしまったらしい。



「何スか、それ?」

「どうやら……置手紙のようなんです」



 ヒューマンワイファーに手渡された手紙を俺が受け取り、左右から青一と翠ちゃんが覗き込んでくる。

 その手紙の内容は。



「『――ごめんなさい。本当にごめんなさい。私は裏切り者です。誰かを傷つける前に、私は去ります。それでは。イユ・トラヴィオル』。……内容はこれだけか」



 酷くシンプルな手紙だな。

 ジョークの一つや二つでも挟んだらどうだ、イユさん?



「これ、どういう意味!? ねえ、ニート。アンタはイユさんと仲良かったし、何か知ってんじゃないの!?」

「ニートって呼ぶな、名前で呼べ名前で」



 女格闘家が突っかかるように俺に声を掛けてくる。

 ただ、その額には冷や汗が浮かんでいる。

 手紙の内容が不穏であるということもそうだが、それ以上にイユさんのみを案じているように思えた。

 イユさんとの付き合いは短いが、彼女は外面良いしなんやかんやで面倒見も良いしな、それなりの関係性を築いていたんだろう。

 女格闘家だけでなく、その場の誰もが不安げな表情を浮かべていた。

 


「……そうだな」



 俺は逡巡する。

 話すべきか、彼女の秘密を?

 しかしイユさんが魔族に通じていたというのは間違くなく国家反逆罪クラスの重罪であり、バレれば即刻 処刑されてもおかしくはない。


 それに彼女は本名ではなく、イユ・トラヴィオルの名前で手紙を書いている。

 ならば、ここで俺が真実を話すべきではない。


 

「イユさんは……ベイリーズに来る前も、来てからも悩んでいた。それこそ、昨晩も何か俺に話したいことがあったようなんだ。でも……彼女が何かを打ち明けることはなかった。ただ、だからこそ……こんなことになったのかもな」



 適当にぼかして話した。

 情報量はないに等しいが、俺だってイユさんが何処に行ったのかはさっぱり分からないのだ。

 ここで彼女について詳細を話してもメリットがない、何ならデメリットしかない。

 本当に彼女が裏切り者なら、話すべきだろう。

 でも、それは違う。



 彼女が本当に俺達を裏切ったなら、こんなことはしないからだ。

 こんな置手紙を残していったということは、イユさんは決別を付けに行ったということだ。

 なら、彼女は裏切り者などでは、ない。



「ああ、ただ。ベイリーズはイユさんの故郷にほど近いと言っていた。だから、彼女の過去が何か影響しているのかもしれないが……」



 ただ、この情報だけは打ち明けておくことにした。

 過去に何かがあった、という情報があれば、ただ事ではないということが伝わるだろうからな。



「なるほど。……よし、イユさんを探しに行きましょう! そして、何があったのかをちゃんと教えてもらいましょう!! 全てはそこからです!!」



 青一の言葉に、誰もが頷いた。



「指揮はヒューマンワイファー隊長に任せます。僕たち勇者にはこういう経験はないので」



 そう言って、青一はヒューマンワイファーに視線を向け、彼女も力強く頷き、口を開いた。




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