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弟チートで兄ニート!! ~異世界に来たくらいで働くなんて甘え~  作者: 水道代12万円の人
第二章 ヒューマン英雄王国・ベイリーズ激戦
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第34話 三日月を見上げて(後半)






 俺の言葉に、イユさんは分かりやすくテンパっていた。



「は、はぁああああ!? なに言うとんねん!! 状況分かってんのか!! お前これから化け物に売られるんやぞ!!」

「ですよね~。マジでこええ。魔族マジでこええ。拷問とかはきついな。泣きそうだわ。俺Mであってリョナラーじゃないし、自分がリョナの対象になるのも無理だし。ロウソクくらいまでなら良いんですけど」

「ふざけてる場合ちゃうやろ!! お前、最悪モンスターの餌になるかもしれんのやぞ!!」

「……何です? 心配してくれてるんですか?」

「――ッ!! そんなわけないやろッ!! ウチはッ!! お前をッ!!」

「柄じゃねえんだから悪役ぶったこと言うのやめたほうが良いですよ。貴方は祖母ちゃん助けたいだけなんですから。どこの世界におばあちゃんを助けたい悪役が居るんですか。そういうのは悪役とは言わない。ただ必死なだけの奴ですよ」

「な……!!」



 俺の言葉に、イユさんは歯噛みして黙った。

 彼女はそのまま暫く黙っていたが、ややあって口を開いた。



「……分かってるんか。お前、ウチが祖母ちゃん助ける代わりに死ぬかもしれんのやぞ」

「いやそれはマジで嫌なんですよねえ。勘弁っす。正直ビビッておしっこ漏れそう」

「だったら――」

「でも、そこで石になって寝てるのが翠ちゃんだったら、俺は貴方と同じことをしましたよ」

「……!!」



 そうだ。

 この家に来た時、俺は『あっ、これイユさん俺を売るかもな』とは思った。

 逃げようかとも思った。

 でも、イユさんが石化した祖母に向けるまなざしを見たら――どうしたら良いか分からなくなった。



「俺は死にたくねえんスよ。SMプレイ以外で痛い思いをするのも嫌。……でも、この状況でトンズラを決められるほど、割り切った性格してないんですよ」

「……じゃあ、どうすんねん」

「どうしましょっか。分かんないです。……だから、もし良ければ一緒に考えませんか? イユさんと俺と、イユさんのおばあちゃんがみんなで幸せになれる方法」

「そんな簡単に……分かるわけないやろ」

「そうですね。イユさんも今までずっと考えてきて、この選択をしたんでしょうしね。でも……何か分かるかもしんないじゃないッスか。じゃあ、俺と一緒に、もうちょっとだけ頑張ったりしませんか?」



 へらっと、軽薄な笑みを浮かべて俺はそう尋ねる。

 ――何が正しいのかは分からない。

 でも、分からないなら考えるべきだ。

 分からないからと言って、そこで諦めるべきではない。

 分からないことに気付くのは、分かるための第一歩だから。

 少なくとも俺は大学で指導教官にそう教わった。



「……ウチら、まだ会って1か月くらいやろ。なのに何で……そんな風に思えんねん」

「そうっスね。俺は、まだイユさんのこと良く知らないっスけど、俺がボケて、イユさんがツッコんで、そこに翠がボケをかぶせてきて、そしてイユさんがまたそこにツッコんで……。そういう風にバカやるの、すげー楽しいッス。だから、俺はイユさんのこと友達だと思ってます。友達が困ってたら、誰だって手を貸すでしょ? そこに付き合いの深さは関係ありませんよ」




 俺の言葉を受けて、イユさんは少しだけ黙っていたが、やがて口を開いた。



「……そんなん言われたら、決意 揺らぐやんか。折角……腹ぁ括ってお前を売り飛ばそう思ったのに」



 そう言って彼女は顔を抑えて、しゃがみこんだ。

 たくさん、たくさん悩んだのだろう。

 彼女の目元は赤くなっていた。

 俺は、そんな彼女を見て。


「あと ぶっちゃけイユさんの身体と顔が好みだったので。俺、好きな要素が多腕と褐色と人外と黒白目と切れ長美人と長身グラマラスで、そういう人のエロ奴隷になりたかったからさ。なんかこの感じで終わるのは惜しいなって」

「ウソやろお前!! 感動したウチの気持ち返せ!!」

「イユさん見て思ったもん俺。『あっ、俺はこの人のエロ奴隷になるために異世界来たんだ』って」

「お前マジで大概にせえよ!!」

「あとさっきからイユさんの魔法のせいでしゃがんでるみたいになってるせいで、イユさんのパンツが丸見えだからマジでエロい。めっちゃ興奮する」

「うっ、うるさい!! あとこれは見せパンやからええねん!!」



 イユさんは顔を真っ赤にして立ち上がり、下両腕でスカートを抑え、ローアングルからの俺の視線を防いだ。



「正直、隠すものであるパンツを魅せるという発想自体がエロいので最高に興奮する」

「やかましいわ!!」

「イユさんのパンツが光沢のある紫とか俺の一番好きな奴じゃないですか~~~!! もうエッチすぎて地面に埋まった俺の下半身がエライことに、あっ間違えた。エロいことになってますよ~~~!!」

「おっ、お前えええええええ!! 黙れ!! マジで黙れ!!」

「やっば、マジでイユさんエロ過ぎてヤバい。何でエロくて可愛くて美しいの? なに? 美しさの産業革命や~~~~~」

「独特なフレーズで褒めるな!! 反応に困るやろ!!」

「そして俺の股間は興奮の文明開化や~~~~~~!!」

「畳みかけてくんな!!」

「あー。もうマジでエロ過ぎて困る。ヤバい、俺もう……あっ……!」

「え? なに、その『あっ』って。……ちゃうよな。そんな、そういうアレちゃうよな??」

「…………争いとかよくないと思う。俺は、この美しい緑の森を守りたい」

「何で賢者モードになっとんねん!! ふざけんなや!! マジでさっきまでウチ感動しとったんやぞ!!」

「ハハ、やだなあ。冗談っすよ。流石にパンツ見たくらいで どうこうなるほど子どもじゃないっすよ」

「殺すぞ!!!!!」




 結局、俺がついボケてしまった。

 ただ、彼女は。



「……能力解除」



 イユさんがそう呟くと、俺の身体と壁を一体化させていた糸が切れ、俺の右半身はズルッと壁の外に出た。



「あれ? 元に戻った」

「興が覚めた。今日のところは……勘弁したるわ」



 イユさんは固有魔法も解除し、元の神官姿に戻り、家の外に出た。

 外は既に陽が落ち切って、三日月が空に昇っていた。



「……そろそろ帰らなな。馬だって眠いやろ」

「そうですね。帰りましょっか」



 俺は月を見上げながら、そう答えた。

 すると、イユさんが俯いたまま。



「なあ、桃吾」

「何スか?」

「……ごめん。あと……ありがとう」



 そう言った。

 俺は三日月を見上げたまま、何かボケようかなと思ったけれど、あまり良いボケが思いつかなかったので。



「良いっスよ。友達なんだから」



 そんな、面白みのない答えを返した。

 俺の言葉を聞いて、イユさんは小さく「うん」と返した。


 そして俺達は街に戻り、元の日常に帰った。






 ――とはならなかった。

 翌朝、イユさんの姿が消えていた。












今話が最新話である場合、下部に評価欄があると思います。

もし、本作品を読んで面白いと思って頂けたなら、ぜひ評価ポイントを入れていただければと思います。

差し出がましいこととは思いますが、作者のやる気に繋がりますので、何卒よろしくお願いします。


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