第32話 一歩前進(前半)
「「「「『……えっ?』」」」」
青一も、取り巻きの2人も、『聖剣』の精霊も、翠も、その場にいた誰もが呆気に取られた様子だった。
そして、イユさんはと言うと。
「~~~~~~~ッ!!!!」
顔を耳まで真っ赤にしていた。
「さて、イユさん。行きましょうか」
「……はい」
俺は彼女の手を取り、そのまま夕暮れの繁華街に足を向けた。
その時、ちらっと翠の方に視線を向けると、彼は黙ったままだったが、しかし明確な困惑の表情を浮かべていた。
俺、普段こんなことしねえからな。
あの子が一番 驚いているだろう。
翠に向かって軽くウインクして、俺はイユさんとともに歩き去っていった。
「えええええ!? ウソ!? 本当にあの二人デキてるの!? どう思う、青一!?」
「い、いや僕に言われても……」
「翠さん! お兄さんってひょっとしてモテるんですか!?」
「うーん、まあ顔と身体は良い男ですからね、あの人。料理もできるし、割とマメですし、ふざけた性格ですけど逆に言うと陽気な性格なので。就労しないことに目をつぶればワンチャン……?」
『なるほど、ヒモになる才能はあるのね』
「「「「ヒモ!?!?」」」」
背後でテキトーな話をしているのも聞こえてきたが。
気にしないことにしよう、俺はMだから打たれ強いのだ。
マゾのMはメンタルのMだ。
「……ふぅ、なんとか切り抜けましたね。イユさん」
「そう……やな」
翠たちに見えないとこで進行方向を変え、街の正門のほうに向かっていた。
翠たちの目を誤魔化すために俺がちょっと格好つけて、おまけに今も手なんか握ってるせいか、イユさんは未だに顔を赤らめ、少し俯きがちに歩いていた。
そんな彼女の姿を見ていると、俺は。
「…………え? ちょっとヤ~~~ダ~~~~。メッチャ恥ずかしくなってきたんスけど~~~~~~~?」
「お前がやったことやろ!! なんでお前も顔赤いねん!! あと何でちょっとオネエになんねん!?」
あああああああああああああああああああ!!!!!
なんであんなにカッコつけたの俺!?
どうしよう!?
すげー恥ずかしい!!
顔が真っ赤になっちゃった。
やべえ、女性の腰を抱き寄せて微笑むとか、『これができたら格好いいのでは?』とか言って妄想したり、決め顔の練習とかは過去にしてたけども!
現実にやる日が来ようとは!!
恥ずかしい!!
もう! 何やってんの俺ぇ!!
「い、イユさん。大丈夫ですか? 俺、手汗ヤバくないですか!?」
「知らんわアホ! ウチだって緊張してんねん!! じゃあ もう手ぇ離したら良いやろ!!」
「だって急に手を離したらイユさんに申し訳ないでしょ!! かといってイユさんの方から手を離されると『あれ? 俺やっぱキモいことした?』とか思ってショックを受けます!! それは嫌です!!」
「面倒くさいな お前!! じゃあもうせーのっ! で行こう! せーのっ! で同時に手を離そう!!」
「よっしゃ! 分かりました! せーのっ! ですね! やりましょう!」
「…………」
「…………」
「いや言えや!!」
「えっ!? これ俺が言うんですか!? 同時とかでなく!?」
「お前が手を握ったんやろ!! じゃお前が言えや!!」
「……あの、ところで。これから俺達って馬で出かけるんですよね? でも、俺 馬に乗ったことないんですけど」
「え? じゃあ、ウチが乗れるから、アンタは後ろに乗ればいいやろ?」
「二人乗りってことは……俺、イユさんに抱き着く感じになりますよね?」
「…………そうなるな」
「俺、既にすげえドキドキしてるんですけど。え? 俺イユさんに抱き着いていいんですか!?」
「しゃあないやろ!! そういうもんなんやから!! 意識すんなそんなの!!」
「無理ですよ!! だってイユさんすげえ腰細いんだもん!! さっき腰に手を回しただけですげえドキドキしましたからね俺!! 首筋とかすげえ良い香りしたもん!!」
「だからそれはお前が勝手にやっただけやろ!! つうかあんなにスムーズにやったくせに!! 腰に手を回すくらいでガタガタ言うな!!」
「前に言ったでしょ!! 俺は元々クソ真面目だったから女性と話したことはあっても体に触れたり付き合った経験が限りなくゼロなんですよ!! 女性の腰とか初めて触ったわ!! 良いくびれしやがって!!」
「どんなキレ方やねん!! というか だったら何でセクハラは平気なん!? 他人の風呂の残り湯のむとか正気ちゃうやろ!!」
「……え? ……そう言われると確かに、我ながらヤバいな。いや、違うんですよ。なんかレベルが高いと一周回って平気な気がするっていうか。あれ? 何であんなことしても平気なのに、手を握るだけでこんなにドキドキすんの? え? ……何で?」
「こんな状況で自問自答されても困るわ!!」
「……イユさんって、顔が良いですよね。え? マジで顔が良い。何でこんなに顔が良い人と俺いま手ぇ握ってんの?」
「だから自問自答すんなや!! この状況 全部お前のせいやぞ!!」
「そう思うと恥ずかしいっスわ!! マジかよ、なんかああいうの格好いいと思ってカッコつけちゃった!! あっ、イユさん。あの時の俺って実際にカッコ良かったですか!? どう思いました!?」
「少なくとも今の桃吾がカッコ良くないことはハッキリしてるわ!!」
「……で、なんでまだ手ぇ握ってるんスか、俺達」
「そうや!! これもう何とかしよう!! 良いか、今度こそせーのっ! でいこう!」
「よし、分かりました。じゃあ、一緒に言いますよ。良いですか?」
「よっしゃ! ええよ!」
「はい、じゃあ」
「「せーのっ!」」
「…………」
「…………」
「だから手ぇ離せや!!」
「だってコレせーのっ! の『のっ』のタイミングで手を離すのか完全に言い終わってから離すのかどっちか分かんないじゃないですか!! っていうか文句言ってないでイユさんが手を離せばいいでしょ!!」
「しゃ、しゃあないやろ!! ウチから手を離したら傷つくんやろ、お前ッ!!」
「そうですよ!! 俺の心はガラス製なんですよ!!!!」
「普段は『Mはメンタルが強い』とか言ってるくせに!! 何でこんなところではヘタレんねん!!」
そんなことを言いながら、俺達は夕暮れの街を歩いていった。
――結局、俺達の手はもうしばらく握ったままだった。




