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第21話 真面目な お話(前半)





 その夜、王城ではまたしてもパーティーが開かれていた。

 翠が初めてのクエストを無事に果たしたお祝いだそうだ。


「まあ! まさか本当にゴーストが居たなんて!」

「鮭の幽霊というのは珍しいがねぇ」

「はっはっは、勇者の冒険譚というのは相変わらず奇妙奇天烈ですなあ」


 

 などと言って、貴族たちが翠の周りに集まっている。



「そこで なんと私の固有魔法がズドーンと――」


 翠は翠で楽しそうに今日の出来事を話している。

 今日の翠は珍しくテンションが高いな。

 ――ちなみに彼はローテンションでも奇行に走ることはままあるので、テンションが低ければ変なことをしないとか、テンションが高いから奇行に走るというわけではないのが怖いところだ。


 いつ何をするか分からない。

 ただ人前であんなに饒舌な翠は珍しいので、多分テンションが高いのだ。

 なにせ今日は初めての冒険だったからな、無理もない。



 まあ俺にとってはどうでも良い。

 俺はパーティー会場の隅で、ビールにライムを浮かべて飲んでいた。

 正直、冒険って言っても日帰りだし、これくらいのことで派手なパーティーすんの? とは思ったが、貴族やら王族にとってはパーティーの場が大事な情報交換の場であるらしい。

 そのためパーティーは何もなくとも()()()()行われるものらしい。


 サラリーマンにおける営業みたいなものなのだろうと思うと、理解できる気もするな。

 ああやって勇者である翠に取り入ろうとしているんだろう。

 当然、勇者の兄である俺のところにも来たのだが、「ブラジルの人 聞こえますか~~~!! ってここ異世界だからブラジルないや~~~ん!!」というボケをかましたら皆どこかに行ってしまった。

 異世界では一発ギャグは受けが悪いらしい。



 ちなみに、翠が屋敷を吹っ飛ばしたのはお咎め無しだった。

 元々から古い屋敷で、霊退治が済めば取り壊し予定だったことと、そして何より。



「しかし、もう固有魔法を習得するとは驚きですな!!」

「それも凄い威力なのでしょう!!」

「素晴らしい!! 憧れてしまいますわ!!」



 翠が固有魔法を習得したのが評価されたからだ。

 破壊された屋敷は翠の固有魔法の威力の大きさを伝えるための一つのアイテムと化した。

 それによって、屋敷を破壊してしまったということがマイナスイメージからプラスイメージに転じたのだろう。

 まあナンカ大臣には「これからは気を付けてください」と釘を刺されてしまったが。

 


「流石は勇者様だ!!」

「これからの活躍に期待ですなぁ!!」



 ――ただ正直、面白くはねえなあ。

 普段は気にしてないけど、こういう場だと自分が添え物であることを痛感する。

 ワシャ焼き魚の隣の大根おろしか。

 騒いでいる貴族の連中の声を背に、俺は会場の外に出た。




「……涼しい」



 俺は王城の中庭で夜風を浴びていた。

 眼鏡を外して夜空を眺めると、少しだけ開放感を覚える。



「あら、桃吾様はパーティーの場がお嫌いですか?」



 顔をほんのり赤らめて、声を掛けてきたのは、神官服のイユさんだった。

 近くに人はいないとはいえ、流石に王城の中では標準語だ。

 俺は眼鏡を掛けなおして答える。



「そっすね。俺、基本的に周りの人とテンションが反比例するんで。周りのテンションが高いと俺はテンション下がるし、周りのテンションが低いと俺のテンションが上がるんですよね。その点、今夜は俺以外のテンションが高いから俺はテンションだだ下がりですね」

「め、面倒くさい性格してますね」

「……みんな突然 死なないかな。テンション下がるわ~」

「こわッ!? 何で急に怖いこと言うんですか!?」

「いやテンション上がらなくて。……ところで、神官の人もパーティーに参加したりするんですね。もっとカタい感じだと思ってました。こんなのは堕落した人間のすることだ~~みたいな」

「ええ、基本的には、我々のような神官はこういう場には参加しません。ですが、今回は私も同行しましたから。……それと、正直なところ神官サイドとしても勇者とのパイプは欲しいんですよ。かつては勇者の妻になった神官も居ましたし。……多分うまいこと言い寄ったんでしょうね」

「こっわ。神官でもそういうことすんのかよ」

「神に仕える者たちも所詮は人間ですから。神官の母体となる教団としても、力のある勇者と関係性が強まれば国内での発言力も増します。……ただ、今の神官長は精霊好きの変態なので、そういう意味では変にギスギスしないので楽ですね」



 ああ、神官長って俺らの儀式のときに居た爺さんか。

 やっぱ偉いジジイだったんだな。

 ……というかイユさん、自分の上司を当然のように変態呼びかよ。



「流石に上司を変態呼びはどうかと思うんスけど?」

「そうは言われても、あの人、精霊図鑑でしか抜けないレベルの人なんですよね……」

「おおっと、思ってた以上に変態だったわ」

「何だかんだ『風の精霊が一番抜ける』って言ってました」

「そこまでの詳細は聞いてねーよ!!」

「でも流石に『ヌルヌルの精霊』では抜けなかったって言ってました」

「やかましいわ!! だから聞いてねえよ!! つうか“抜けなかった”ってことは挑戦はしたのかよ。ジジイ流石にヤバすぎじゃねえ!?」



 控えめに言ってイかれてるじゃん。



「ま、まあでも逆に良かった。上司が変態なら、逆にまどろっこしいことは無いだろ。それなら お互いに気楽だ。……翠はあれで他人の顔色を読むのは上手い子だ。下手な人間に引っかかることはないだろうし、何かあっても大丈夫だろうけど、何もないに越したことはないですもんね」

「……え? 顔色を読むの上手いんですか? 勇者様が?」

「そう見えないでしょうけどね。あの子、顔色を読むの()上手いんですよ。だからといって他人に気を遣うわけではないだけで。理解して上でマイペースにやってるんです。空気を読んだ上で無視しますからね。……本当に困ってる時は、ちゃんと助けてくれるんですけど。普段がねえ。誰に似たんだか」

「いや貴方でしょ」



 そんな下らないことを話していると、俺の視界の端に何か動くものが見えた。

 何だろうと思って注視してみると、それは一人の幼い少年だった。

 彼は中庭にやってきてから、キョロキョロと視線を動かすが、どうしたら良いか分からない様子で怯えていた。

 4歳くらいに見えるし、迷子かな?

 王城は意外と()()()()()()してるからなあ、ナンカ大臣は防衛上の都合とか言ってたけども。

 身なりの良さそうな服を着ているから、貴族の子だろう。


 ――貴族かあ~~~。

 どうすっかな。

 貴族の子ならメイドや執事が何とかするだろ。

 御貴族の坊ちゃんとか、どう扱ったらいいかも分からんしな。



「こんばんは、ぼく。どうしたんですか?」



 なんて考えていると、イユさんが先に声を掛けていた。






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