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聖女に散々と罵られたが、夜の彼女は意外と可愛い  作者: 緋色の雨
第二章

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発展する街と修羅場 7

 クリフの視察というか、遊びに来たというか……足湯がお気に入りだったようだが、彼が帰ってから数日経ったある日。

 メディア教の使者を名乗る者がエリカのもとを訪ねてきた。でもって、エリカに同席を求められたので、俺はエリカと一緒にメディア教の使者と会うことになった。

 ちなみに、エリカのバッドステータスの心配があるので会談は夜となっている。だから、万が一にも俺が会談の場でエリカに罵られるという心配だけはない。


 だが……メディア教の使者。

 メディア様の信者って聞くと、凄く、凄くヤバイ人達な気がする。

 とは言っても、エリカやシャルロットもメディア教っぽいから……やっぱり、ある意味ヤバイ人達ばっかりな気がしないでもない――とか言ったら命が危ないので言わないけど。

 まあ……その、なんだ。

 誓いのキスって契約魔術は、色々ぶっ飛んでると思う。



 それはともかく、屋敷にある会議室。

 俺とエリカが並んで座り、その向かいにメディア教の使者を名乗る初老の男が座っている。

「聖女様。わたくしはメディア教の使者として使わされたカーライルと申します。本日はこのような機会を与えてくださったことに感謝いたします」

 カーライルと名乗った初老の男が深々と頭を下げた。


「あたしは聖女の称号を持っているだけで、メディア教の聖女ではありませんよ?」

「もちろん存じております。同時に、メディア教の敬虔な信者であることも」

 エリカが訂正しても、カーライルの態度は変わらない。


「……分かっているのならかまわないけど、あたしに話っていうのは、あなたのその態度となにか関係があるのかしら?」

「いえいえ、私が聖女様を敬うことと、今回の話に直接の関係はありません」

 しれっと答えるが、まさか本当に関係ないなんてことはないだろう。それが分かっているのか、エリカはため息交じりに肩をすくめた。


「まぁ良いわ。それで、話って言うのは?」

「我々メディア教は、より多くの人間にその教えを広めたいと考えております。つきましては、このブルーレイクの町にメディア教の神殿を作る許可を頂きたく」

「神殿を作る許可? そんなの、土地を買って、好きに建てれば良いんじゃないの?」

「いえ、そう簡単にはいきません。この町はシャルロット様の直轄領と伺っておりますので」

 横で話を聞いていてなるほどと思った。


 いままでのブルーレイクはただの田舎町だったが、これからはダンジョンを内包する街として発展することが約束されている。

 そんなブルーレイクに、どの宗教が神殿を建てるか。

 別に一つの町に一つの宗教といった決まりがあるわけではないが、シャルロットの許可を得ることが出来れば、今後なにかと有利に事を運ぶことが出来る。

 そんな思惑があってのことだろう。


「ようは、あたしにシャルロットとの橋渡しをして欲しいってことかしら?」

「ええ。軋轢が生まれても困りますので、お願いできないでしょうか?」

「そうね、あたしもシャルロットもメディア教だし、特に問題はないと思うわ」

「おぉ、シャルロット様もメディア教の信者でしたか」

 カーライルが嬉しそうに破顔する。そりゃ、神殿を建てようとしている町の統治者が同じ宗教なら心強いよな。


 なんにしても、厄介な問題じゃなくて良かった。

 この調子なら、何事もなく会談は終わるだろう。そう思ったそのとき、カーライルが「それと――」と神妙な顔で付け加えた。


「我々メディア教は、ブルーレイクの神殿長を務める司祭と、聖女様の婚姻を望んでいます」

「――なっ」

 エリカが絶句した。

 もちろん、隣で話を聞いていた俺も絶句する。


「聖女様はシャルロット様のお仲間ですし、この町の司祭となるものと結ばれれば、領主と神殿の蜜月がアピールできると我々は考えています。この話、受けて頂けないでしょうか?」

「それ、は……」

 エリカが意識を向けてくるのを肌で感じる。

 エリカは誓いのキスという契約魔術を使用しているため、俺以外の誰かと結ばれることはない。だから、この申し出にはもちろん断るしかない。

 というか、エリカは当然断るつもりだろう。

 だけど――俺はエリカに対する答えを保留にしたままだ。だから、ここで誓いのキスのことを公にして良いか――と、エリカは俺の反応を伺っているのだ。


 もちろん、ぶっちゃけてもかまわない――と言いたいところだけど、ここでエリカから誓いのキスを受けていることを公にすれば、間違いなくシャルロットの耳に入る。

 そうなれば、俺はもちろん修羅場でバッドエンドになるだろう。そしたら、神殿の話だって、どう転ぶか分からなくなってしまう。

 ここで、俺が誓いのキスを受けていると名乗り出ることは出来ない。俺はエリカの視線に気付かないフリをした。


「……あたしには、その……想い人がいるの。だから、残念だけど……」

「お待ちください聖女様。その方とは既に結ばれているのですか?」

「いえ、それは……」

「であれば、私どもの擁立する候補者と会って頂けませんか?」

「えっと……」

 エリカは言い淀んでしまう。やはり、誓いのキスや俺のことを隠したままでは、上手く断り切れないようだ。


 このまま困ってるエリカを見捨てて良いのか――と、俺の中で疑問が湧き上がる。

 誓いのキスの件を明るみにするのは、誰にとっても不幸な結果になりかねない。けど、だからって、いま目の前で困ってる。エリカを見て見ぬ振りをする理由にはならないはずだ。

 だから、俺はエリカの腕を掴んだ。


「彼女のいう想い人とは俺のことだ。そして、俺はそんな彼女の思いを受け止めている。ほかの者との婚姻を勧めるのは止めてもらおう」

 きっぱりハッキリと断言する。なお、きっぱりハッキリ断言した内容は、エリカが俺を想っていて、俺がその想いを受け止めたことだけ。

 誓いのキスはもちろん、俺がその気持ちに応えたかどうかも口にしていないのだが……受け答えだけはきっぱりハッキリしたので許して欲しい。

 そして、カーライルは「それはとんだ失礼をいたしました」とかしこまった。

 ……うん、勢いって大事だな。


 なお、俺に腕を掴まれたエリカが真っ赤になって硬直している。

 念のために会談を夜にしておいてよかった。これがもし日中だったら、エリカのツンデレが暴走して、俺の言葉に説得力がなくなるところだった。


「あなたはたしか……アベル様、でしたか?」

「ああ。シャルロットと一緒に、この町の管理を任されている」

「ふむ。そうでしたか……」

 俺の正体を聞いてカーライルが困ったような顔をした。領主達との蜜月をアピールしたいのに、その身内との仲違いは避けたい、といったところだろう。


「大変申し訳ありませんが、この件はわたくし一人では判断しかねます。もし差し支えなければ、一度お二人でメディア教の神殿に来てくださいませんでしょうか?」

「それは……どうする?」

 俺はエリカに意見を求めた。

 エリカはいまだに真っ赤になっていたが、俺が問い掛けるとハッと我に返った。そうして、顔の熱を冷ますかのようにパタパタと頬を叩く。


「えっと……そうね。新婚旅行はあなたの行きたい場所で良いわよ」

「……誰もそんなことは言ってないぞ?」

「……へ? あ、その……えっと。そ、そうね。話し合いが必要だというのなら、あたしはかまわないわ。もちろん、アベルが付いてきてくれるのなら、だけどね」

「……本当に良いのか? 別に、ここで突っぱねても問題はないと思うぞ?」

 神殿云々はメディア教の問題だし、用があれば相手に出向かせれば良いのだ。というニュアンスを込めて確認する。


「べ、別にあたしは、神殿まで話し合いに行けば、アベルと二人で旅行が出来るからとか、そんなことを考えてるわけじゃないわよ?」

「……なるほど」

 夜なのにツンデレ発言をするなんて……よっぽど恥ずかしかったんだな。日中の暴言レベルでのツンは頂けないけど、こういうソフトなツンは可愛いと思う。

 という訳で、俺とエリカはメディア教の大神殿に出向くことになった。

 

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