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聖女に散々と罵られたが、夜の彼女は意外と可愛い  作者: 緋色の雨
第二章

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発展する街と修羅場 6

 地面を掘り下げた淵に座る椅子で、穴の中には温泉が張られている。そして、その真ん中に四人掛けのテーブルが一つ。これが足湯カフェの座席らしい。

 脛の辺りまで温泉に浸かりながら、冷たい飲み物を飲む。


「うぅむ。足湯カフェ……侮れん」

 向かいの席でアイスティーを飲んでいたクリフが感嘆のため息をつく。


「たしかに、手軽に温泉を楽しみつつ、冷たい飲み物を飲むのは格別だな」

「うむ。しかも、店員がメイドの恰好をしているのも面白い。おそらく、庶民にメイドを抱えているような優越感を抱かせるのが目的だろう」

「なるほど、そんな意図があったのか……」

 言われてみれば、メイドを従えているような気になってくる。

 しかも、メイドでありながら気さくな対応なので、こっちが粗相をしたらどうしようと心配することもない。いわば、庶民のためのメイドといった感じである。


 エリカが目の色を変えて温泉宿を推してきたときは不安だったけど、日本の文化というのもなかなか侮れないモノがあるな。


「ところでアベルよ。この町をどのように発展させていくのか、展望はあるのか?」

 クリフがアイスティーを片手に問いかけてくる。世間話を装っているが、瞳は真剣そのものだ。それに気付いた俺は佇まいをただした。


「まずはエリカの推進する温泉宿を増やしながら、冒険者ギルドを発展させる予定だ。そうして町に訪れる人が増えたら、他の事業にも着手するんじゃないかな」

「ふむ……それではおそらく遅すぎるだろうな」

「……遅いというと?」

「ブルーレイクはもはや、ただの田舎町としては見られていないと言うことだ」

「それは、ダンジョンが発見されたから、だよな?」

 俺が問い返すと、クリフを大仰に肩をすくめて見せた。


「アベル、お前は切れ者だが、自分達の評価に対しては無頓着のようだな」

「ええっと……よく分からないんだが」

「心配せずとも、すぐに思い知ることになる。そのときに慌てなければ問題ない。そして、アベル、お前であれば上手く対処するだろう」

「ふむ……」

 というか、なんと言うか。相変わらず俺の評価が高すぎる。俺は切れ者でも何者でもない、ただの庶民なのに、そんな期待を懸けられても困る。


「ともかく、この町のことはお前とシャルロット、二人で好きに運営すれば良い。お前達が思い描く町を作ってみろ」

「もちろん、それに関しては最大限の努力をするつもりだ」

 俺の夢はスローライフだが、そのための生活環境を好きに作れるのはありがたい。というか、修羅場とかの心配をせず、ぽけーっと日向ぼっこの出来る空間が欲しい。

 いまはまだ派手に動けないけど、いつか女人禁制(ティアを除く)の庭園を作ろう。そこで修羅場に怯えず、芝の上でごろごろするのだ。

 そのためにも、多少の無茶を押し通せるくらい、この町を豊かにしてみせる。そんな俺の決意を聞いたクリフが、表情をふっと和らげた。


「……そうか。シャルロットの奴が冒険者になると言いだしたときは、二度と会えなくなることすら覚悟していたのだがな。お前がいてくれて幸運だったようだな」

「シャルロットなら、どんなパーティーでも上手くやってたと思うけどな」

 当たり前のことではあるが、冒険者の死亡率は非常に高い。

 だが、生き残るものはいつまででも生き残る。

 シャルロットは派手な攻撃魔法を好む性格だが、立ち回り自体は堅実だ。他のパーティーに所属していても、きっと大成していただろう。


「どうかな。少なくとも、あのシャルロットが保証も為しに誓いのキスをしたのは、相手がお前だったからだと思うがな」

「そうだったら……まぁ、嬉しいけど」

「……ほう、嬉しいのか?」

 クリフが意外そうに眉を上げた。


「シャルロットは掛け替えのない仲間だし、優しくて可愛い女の子だ。そんな彼女に誓いのキスをされて、嫌だなんて思うはずないだろ?」

「ふっ、その割には、返事は保留しているようだが?」

「うぐっ」

 痛いところを突かれた。

 だが、誓いのキスのダブルブッキングは最重要機密事項だ。たとえシャルロットの兄だとしても……否。兄だからこそ、バレるわけにはいかない。


「まぁ、予想は付いているがな」

「――っ」

 表情に出そうになるのをとっさに隠す。

 大丈夫、落ち着け。さすがに、あの最重要機密事項だけはバレてないはずだ。もしシャルロットの身内にバレたら――


「おおかた、あの聖女とも同じような状況になっているのであろう?」

 ――バレてるううううううううううううっ!?

 ヤバイヤバイヤバイ。

 死んじゃう。いや、殺されちゃう。男としてぐちゃって殺されちゃう。


「な、なななっなんのことか、わわっ分からないにゃ!」

「……おい、いくらなんでも動揺しすぎだろう。事実なら、動揺する気持ちは分かるがな」

「すみません、俺にそんなつもりはなかったんです。ただなにも知らないうちに、気付いたら二人と契約を結んだことになってて、女神様のお告げもあって後に引けなくなったんですぅ」

「いいから落ち着けっ」

 ズビシと、テーブルに身を乗り出したクリフの突っ込みを喰らった。


「うぅ……すまない、取り乱した」

「ふっ。まぁ……気にするな。俺がお前と同じ状況になったら逃げ出している」

 罵倒こそされても、フォローをされると思ってなかったので驚く。


「……いまの本心で言ったのか?」

「ん? あのシャルロットと、噂に聞く聖女が相手だぞ? 俺なら迷わず尻尾を巻いて逃げる。むしろ、アベル。お前がいまだに逃げてないことに驚きだ」

「ははは……誓いのキスで、逃げても居場所がバレるからな」

「なるほど……そういうことだったのか」

 クリフに同情するような視線を向けられた。その優しさが身にしみる。


「しかし、俺がとやかく言うことではないが、なぜすべてを打ち明けないんだ? お前のことだ。二人に真実を話すのが恐くて逃げているわけではないのだろう?」

「まぁ……メディア様が降臨してな。二人に事実を打ち明けたら、俺は心労で死んで、二人は一生後悔することになるから止めろといわれたんだ」

 この際だからとぶっちゃける。


「お前、なかなか楽しそうな人生を歩んでいるな」

「人ごとだったら、俺もそう思っただろうな」

 自分のことだとまったく楽しめない。

 二人とも優しくて可愛い女の子なので、どっちか一人にだけ好かれていたら俺は舞い上がっていただろう。どっちか一人だけなら――っ。


「まぁ……事情は分かった。これから苦労すると思うが、せいぜい頑張ってくれ」

「え、いきなりそんな不吉なことを言われると恐いんだけど……?」

「気にするな。どうせ知ったところでどうしようもない」

「余計に気になるんだが……」

「ははっ。まぁ気にするな。それと、シャルロットに例の件をよろしく伝えて置いてくれ」

「いや、だから……」

 説明、ちゃんと俺にも分かるように説明と視線で訴えかけたのだが、クリフは一度宿に戻ると言って、お代を置いて立ち去ってしまった。

 なんで、俺の周りには、ちゃんと説明しようとする奴がいないんだろうな……

 

 

 明けましておめでとうございます。

 今年も緋色の雨とその作品をよろしくお願いします!

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