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聖女に散々と罵られたが、夜の彼女は意外と可愛い  作者: 緋色の雨
第一章

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安息の地を求めて 2

 続いての投稿です。

 

 二人部屋には大きなリビング、それに二つの寝室がある。さすがに割高な部屋というだけあって、ずいぶんと大きな部屋だ。

 寝る部屋も別々だし、本来なら焦る必要はないんだけど……いつ、ここにシャルロットが来るか分からない。むちゃくちゃ恐い。


 シャルロットには散歩に出かけてくると知らせてある。けど、あれからかれこれ数時間。日も落ち始めていて、そろそろ夕食の時間だ。

 いつ、シャルロットがそろそろ夕食よ? とかいって迎えに来てもおかしくない。そうじゃなくても、俺が宿にいることに気付いたら、不審に思って見に来るかもしれない。


「……アベル、さっきからなにをそんなにソワソワしてるのよ?」

「え、いや、その……エリカと二人っきりだなって思って」

「んなっ!? そ、そんなこと言われたら意識しちゃうじゃない!」

「すまん。いまのは忘れてくれ」

 宿の壁なんてそんなに分厚いとは思えない。こんなところで罵られてたら、隣の人に変に思われる。そんな風に焦ったけど、エリカはそれ以上は声を荒げなかった。


「忘れろっていわれても……無理よ。恥ずかしいじゃない……ばかぁ」

 というか、ツンデレがマイルドで可愛らしい。さっきはむしろどんどんツンツンしていったんだけど、なにが違うんだろ?


「な、なによ?」

「いや、ツンデレが発動しなかったのかなと思って」

「……ここは個室で二人っきりだから、ツンデレが弱まってるのよ」

「……あぁ、そういえば、人が多い場所ほどツンが強くなるんだっけ」

「そうよ。それに、もうすぐ日が落ちるし、今日のツンデレはこれで店じまいよ」

「……はは」


 というか、普段がツンツンしてる影響か、素直なエリカが可愛く思える……って違う! それより、この状況をなんとかしないとヤバイ。

 でも……ここからいきなり逃げ出しても、エリカが追い掛けてくるだけだよな。なんとかして、エリカをここに残して、俺だけ外出できるように誤魔化さないと。

 ええっと……取り敢えず話題。なにか話題を振って突破口を見つけよう。


「エリカはパーティーを抜けてきたんだよな? カイルはどんな感じだった?」

「わりとへこんでたわ」

「そうなのか。カイルを残した全員がパーティーを抜けた訳だし、ちょっと可哀想だよな」

「そうかもしれないけど、自業自得よ――って、あれ? カイル以外って、なんでシャルロットが抜けたことを知ってるの?」

 し、しまったあああっ!


「えっと、それは……そう! 実はブルーレイクって町でダンジョンを見つけてさ」

「え、ダンジョン? 新しいダンジョン?」

「そうだ。びっくりだろ? その関係でユーティリア伯爵家に報告に行ったんだけど、そのときに、シャルロットが屋敷に戻ってたんだよ」

 俺と一緒に行動していたから、報告したときにシャルロット戻ってた。嘘はついてない。

 大丈夫、まだ詰んでない。俺なら乗り切れるはずだ、頑張れ!


「シャルロットに? あぁ……そういえば、シャルロットの実家ってこの街にあったわね」

「そうなんだよ。俺も忘れてたけど、この街にあるんだよ」

 だから、この町に俺がいるのは偶然だよと心の声で訴えかける。口に出さないのはもちろん、聞かれてもいないのに言い訳したら怪しいと分かっているからである。


「それにしても新しいダンジョンだなんて凄いわね」

「だろ? あぁ……それで、そのブルーレイクって田舎町で暮らそうかなって思ってるんだけど……エリカは大丈夫か?」

「もちろん、アベルが決めた場所なら、あたしは文句ないわ」

「……良かった」

 本当に良かった。ここで別の町が良いとかいわれたら、話がややこしくなるところだった。

 この調子で、なんとかこのピンチも乗り切ろう。


「ところで、エリカは夕食まだだよな?」

「ええ、まだよ。でも、今日はお昼が遅かったから、まだあんまり空いてないのよね。だから、先にお風呂に入りたいんだけど……良いかしら?」

「……お風呂?」

「ええ。この宿の部屋には魔導具のお風呂があるのよ」

「あぁ……なるほど」

 魔石をポコポコ使うので、一般人はほとんど使えない贅沢な設備だ。

 けど、エリカが前世で暮らしていた日本という国では、日常的にお風呂に入る習慣があったらしく、この世界でも良くお風呂に入って魔石を惜しげもなく使っている。

 ……駆け出しの冒険者だったころは、それで懐事情が圧迫されて大変だったんだけどな。


「それなら入って来いよ」

「ありがとう、それじゃお風呂に入ってくるわね。覗いたら……ダメなんだからね?」

「はいはい、覗かないから入ってこい」

「……ばか」

 適当にあしらったら拗ねるとか可愛いじゃないか……って、ちがーうっ! エリカがお風呂に入ってるあいだにシャルロットが来たらどうするんだよ!?


 いや、待て、落ち着け。

 外出してから数時間。そして、誓いのキスによる居場所の探知は数時間に一度。こんな状況で、ピンポイントでやってくるなんて、そんな偶然が起きるはずがない。

 大人しくエリカがお風呂から上がるのを待って、上がったら酒場で夕食を食べる。酒場でなら、シャルロットに出くわしても誤魔化しきれるかもしれない。

 そんな風に考えていると、どこからともなく澄んだ音色の歌声が聞こえてきた。どうやらお風呂に入っているエリカが上機嫌で口ずさんでいるらしい。

 綺麗な音色だな……と聞き惚れていると、不意に誰かが部屋の扉をノックした。


 ま、まさかシャルロットか? いや、そんなまさか。こんな絶妙なタイミングで来るとかありえない。違うはず、違うはず!

 違う……と良いなぁ。


「えっと……どなたですか?」

 恐る恐る扉を開けると、そこに宿屋のおばさんがいた。

 俺は思わず安堵のため息をつく。


「すまないねぇ。この部屋の風呂場は、良く声が響くんだよ。綺麗な歌声だとは思うけど、すこし控えるように言ってくれないかい?」

「あ、あぁ……すみません、すぐに注意しておきます」

 あの歌声、外にまで聞こえてたのか……と、俺は宿屋のおばさんに謝罪して部屋に戻る。


「おぉい、エリカ~」

 外から呼びかけるが返事はない。歌声は相変わらず聞こえてるんだけど、こっちの声は聞こえにくいみたいだ。

 ……仕方ない。

 俺はリビングの奥にある脱衣所の扉を空けて、風呂場をこんこんとノックした。


「ふえっ。ア、アベル? まさか、のぞきに来る代わりに、堂々と入ってくるつもりなの!?」

 扉の向こうから、慌てふためくエリカの声が聞こえてくる。

 なんかとんでもないことを口走ってるな……というか、この扉一つ隔てて、裸のエリカがいると思うと、ちょっとドギマギする。

 とか思っていたら、扉が少しだけ開いて、そこからエリカが顔を覗かせる。扉の隙間から顔を覗かせたエリカの素肌がちらりと見えた。


「あ、あたしは誓いのキスをした身だから、アベルが望むなら断らないけど……その、いくらなんでも、いきなり一緒にお風呂は恥ずかしいって言うか……最初はベッドが……」

「ご、誤解だから落ち着け」

 このまましゃべらせるとヤバイ気がして遮る。


「その風呂場、声が外に響くそうなんだ」

「え、聞こえてた?」

「ああ。壁が思ったより薄いんだと思う。宿屋のおばさんが声を抑えて欲しいって」

「~~~っ」

 凄く恥ずかしそうで、見てるこっちまで恥ずかしくなってくる。


「えっと……それじゃ、そういうことだから」

「う、うん。大人しくお風呂に入ってくるわね」

 エリカは恥ずかしそうパタンと扉を閉じた。

 ……うん。いった俺の方も恥ずかしい。というか、なんで俺はこんなに動揺してるんだろうとため息をついてリビングへ戻ると、再び扉がノックされた。


「さっきの件なら――」

 いま、ちょうど伝えたところですよと、喉元までで掛かっていたセリフはゴクリと飲み込んだ。部屋の前にいたのが宿屋のおばさんではなく、シャルロットだったからだ。

 

 

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