究極入浴剤とラーメン
……運ばれてきた豚骨ラーメンには手を付けず、俺を呼び出した友人はじっとうつむいていた。
このままでは麺ものびる。もったいない。
いったい何があったのかと、俺は改めて話を向けてやった。
「……実は、究極の入浴剤を開発したんだけど……」
友人はようやく、ぽつりぽつりと話し始める。
「本当にすばらしい発明になったと思うんだ。
薬効成分が効いて身体にいいし、芯まで暖まるし、香りもさわやか、色はキレイだ。
値段だって高くならない。
しかも、それだけじゃないんだ――入浴剤の成分と身体の汚れが反応するから、特に洗わなくても身体がツルツルツヤツヤのピカピカになる。
しかも……しかもだ!
そうして反応した成分は、さらに水とも反応して、その汚れを無害なものに変えるんだ――そう、流しても、海洋汚染とかに繋がらない、クリーンなものになるんだよ!」
「……ほう、クリーンなものに……ねえ。そいつぁスゴイ」
白く濁った豚骨スープをすすりながら、俺は相づちを打つ。……スープ美味い。
「……で? なんでそんなに落ち込んでるんだ?」
「ダメなんだよ。
……どうしても、最後の課題がクリア出来ない」
ともかくまずはラーメン食ったらどうだと思いつつ、俺は先を促す。
「最後の課題って?」
「……飲泉だよ」
「温泉地とかにあるアレか? これ飲めます、ってやつか?」
「そうだよ……それが出来てこそ完成なんだ、本当の究極になるんだ!
残り湯を洗濯に使うばかりじゃなく、飲料用としても余さず利用出来る!
それこそ最高じゃないか!」
「んでも、確か成分は無害なものになるんだろ? 水そのものもキレイになるんだろ? じゃ、大丈夫なんじゃないのか?
……ああ、それとも、味とか香りがヘンになるとか?」
「いや……そのあたりの問題もクリアしたよ」
ラーメンに目を落としながら友人は答える。
「……それじゃ、なんで」
「だってさ……」
友人はようやく割り箸を割る。……いいかげん、のび始めてる気もするが。
「何か、自分でダシをとったみたいな気になるじゃないか?」
「…………とりあえず、だ」
俺は残るスープを一気にあおった。
「その話をラーメン屋でしてるのが、お前の一番の間違いじゃなかろうか」