あいうえお小説
明日また来ると言っておきながら、今日来なかったあの人。
何時までも待っていた私はいつの間にか辺りが暗くなり始めていた事に気付いた。
俯いた顔を上げ、目の前を通り過ぎていく人たちの顔を見る。
笑顔の人、無表情の人、焦ってる人。
同じ顔なんて一つも無いんだという事に、今更ながら思い至る。
掛替えの無いあの人も、私とは違った。
きっと、私が勝手に望んだ、望んでいたこと。
苦しんでいても、辛くても、いつも私とともにいてほしい。
けれど、あの人は違った。
孤独、という言葉がふと思い浮かぶ。
さっきまでは思い浮かぶはずがなかった単語。
信じる人がいれば。
済んだ心を持てば。
世界は、私とあの人の世界は、繋がっていて。
傍にいると信じていたから。
たとえあの人が私を信じていなくても、私は信じているから。
地球上の誰よりも。
つまらない事だと気付いた。
掌を返したようなあの人は、最初から望んでなんかいなかった。
途中から、じゃなくって、最初から。
何でもよかったんだ。
逃げ出したかった。
ぬくぬくとあの人に甘えていた私から。
ね、そう思うでしょ?
呑気にこんな所に座ってあの人を待ってないで、早く次の自分へ。
速く。
一つの決断だったが、私はそれを決められない。
不思議ではない。
変な所で、私はいつも強情だった。
他の人だったらすぐにそうするかもしれないけど、あの人だけは私を信じてくれている。
また、そしてまだ、私はそう思う。
見回せば、どこかにあの人がいるんじゃあないかと期待を持つが、そんな期待はすぐに破られる。
難しいことなんて無いんだ。
目を、心を、前に向けて、後ろを振り向かなければ、大丈夫。
戻ればここにあの人がいるんじゃあないか、と思わないように。
やっと決心が着いた頃には辺りは真暗だった。
ゆっくりと立ち上がり、明るい駅の中へ入ろうとした時。
呼びかける声に気がついた。
楽をしたかった訳じゃあない。
理解はしているんだけど。
累月累年の想いを抑えきれない。
恋愛という力に押され、それに私は従った。
ロータリーの方をゆっくりと振り返る。
忘れられない瞬間にしよう。
んっと想いっきり抱きついて、それでっから文句を言おう。