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赤碧玉

尾行

作者: 切咲絢徒

 なんだろうか。

 珍しく、そして、久し振りに自分のポストに自分宛の手紙を発見した。

 普段ならチラシだの化粧品の紹介だのが矢鱈と詰め込まれるポストだけれど、今回は違った。

 封筒は一般的なもので、送り主は「後田(うしろだ)」で、ご丁寧にルビまでふってあるのだが、住所はなかった。勿論、知らない名前だった。

 封筒はやや大きめなサイズでおまけに厚みもある。

 何故、私の元に?と、思ったが、普段なら送られない手紙を長い時間読み続けられると思えば、心が弾んだ。

 郵送のミスとも思ったが、宛先は間違いなく自分だ。

 家に持って帰り、早速封を開ける。自分が不器用なせいで、封筒の口は既にボロボロになった。

 中身は便箋で、これもやや大きめなサイズであった。

 早速、便箋の内容に目を通すことにした。


 やがて、その文章は何故か目を離すことができなくなるのだが、それは文学的センスや、そういう類いの物ではなく、人間の知識欲を上手く使った物なのであった。


 * * *


 私の駄文におつきあいされる方へ。

 まずは私の身の上から。

 私はしがないサラリーマンで、毎日変わらない日々を送っています。

 普段は部下の世話なり、上司のご機嫌取り等、まあ、やってられなくなるようなこともありましたが、それでも自殺なんかしないよう、常にリフレッシュもしております。

 特に大したことではなく、読書や旅行などです。

 私は勿論、仕事をしているのですが、私には大きな拘りがあるのです。

 それは、さっさと終わらせる、です。

 さっさと終わらせれば、残業はないし、上司からは悪い目では見られない。更には出世もできるかもしれない。とは言ってもまだ、課長ではあるのだが。

 そして、もう一つ、拘りがありまして、それが、目を瞑る、というものです。

 上司の悪事には目を瞑り、なるべく自分への火の粉を減らすのです。

 そんな毎日を送っていますと、あるとき、黒外套を着た男が何の前触れもなくこう言ったのです。

「稼ぎたくないか?」

 突拍子もなくて、私は一度無視をしようかと思いました。そもそも私に話しかけているのかわからず、一度、戸惑いましたが、どうやら私に向けて話しているようなので、私は話を聞くことに決めたのです。


 その男の話は実に興味深く、そして、なにか不気味なものもありました。

 男は興味深い前置きの後にとある仕事を提示したのです。それは、尾行です。

 要するにターゲットを尾行し、その情報を集めろとのことです。

 私は一度断りました。なんせ、尾行なんてできません。人を追いかける経験は幼少の頃の鬼ごっこ以来なのですから。

 しかし、男は、尾行はそれほど難しくないですから。言いますので、私は渋々受けることにしたのです。

 そうして、黒外套の男にもらったメモを基にターゲットを探します。

 初めてのターゲットはとある男性で、紳士的な格好で、政府の上層の人間にも見える者でした。

 なんとか気付かれないようにその男に着いていき、そして、男が女性ととある宿泊施設に入ったのを見届けて私は黒外套の男に連絡をしたのです。

 やってみると以外と簡単で、割りと楽にターゲットの情報を掴めるのです。

 そうして、次のターゲット、その次のターゲットと、尾行業を続けていました。

 はじめの方は勿論気付かれ易く、ターゲットにも悟られることもありましたが、馴れてくればそれもなくなり、私は洋画のスパイのような気にもなりました。

 そんなわけでその尾行業を副業として、月に一回程度やっていたのです。

 便利な副業としてやっていたんですが、一年程やっていると、なにか妙な感触が湧いてきましてね、具体的に言うなら、

 ターゲットについてもっと知りたい。ということである。

 もっとスッキリした言葉ならストーカーです。

 男性だったら、そんな感情は湧かないが、例えば美人であったり有名人であったりするならそんな感情はボウフラのように湧いて来ます。

 我ながら中々気持ちが悪かったですよ。

 最初は全然勇気がなく、私はなんとか堪えていたのですが、いざ、一度、家まで尾行してしまうとすっかりその虜になるのです。

 そんな訳で、その性癖が押さえられなくなったら、私は実行に移るのです。

 勿論、尾行業を終えたら、一度報告を挟み、そして、そこから私の趣味に入っていきます。

 ターゲットを見つけたら、尾行、限界まで付いていき、住所を知る。翌日、その住所に赴き、そして、またターゲットを尾行する。そうして快楽を得るのです。

 ターゲットにしかわからないようなことなどが、わかると私は大きな快楽に飲まれました。

 それだけで私は満たされるのですが、やがて、だんだんそれは薄れていき、やがて私は一つ大きな過ちを犯したのです。

 あまりに欲が押さえられなくなったので、私はターゲットを尾行し、家まで着いていったら隙を見て、ターゲットの家に潜り込んだのです。

 意外にもバレずにあっさりと入れたために若干拍子抜けしたのですが、私はすぐさまとある押し入れに入ったのです。そこは空で、そして、いつまでも開けられることはありませんでした。

 つまり、ターゲットの私生活を完全に覗くことが出来たのです。

 私は美しい彼女のありのままを目に焼き付けることができ、彼女が出かけたならば、私はすぐに予備の鍵を持ち出して、合鍵を作り、そして、食糧と水を持ち込み、そして、また開けられない押し入れでの生活を過ごすのです。

 暇はありません。目に映るあらゆるが新鮮で、快感で、興奮も、あり、私は本当に満ちた生活を送っていたのです。

 彼女しかわからないような生活のリズム、欲求の抑えかた、等々、私はまるで神にでもなったかのような気になり、彼女を知れたのです。

 しかし、そんな生活を幾分か過ごしていると、罪悪感は増えていくのです。

 それでも目の前の快楽を逃すわけにはいかなく、私はズルズルとそんな生活を過ごしていました。

 しかし、罪悪感は拭えません。

 やがて、耐えられなくなった私は許されたいがため、いや、許されるはずはありません。しかし、何故か許されるような気がして、私は手紙を書き、そして、あなたのポストに投函したのです。


 * * *


 私は読んでいた手紙から手を離し、そして、忌々しい物のように私はその手紙から逃げた。

 そして、入居当時から開けていなかった寝室の押し入れに手を伸ばした。

 そして、覚悟を決めて、勢いよく押し入れを開けると、そこには誰もいなくて、ただの空の押し入れがあるばかりだった。

 なんだ、なにもないのか。

 私はそれをみとめると、すぐに押し入れを閉じ、そして床に散乱した手紙を拾い、そして、それを纏めて、引き出しに入れた。

 なんだ、ただのイタズラか。

 私は深い安堵に埋もれ、そして、それから普通に過ごしていった。手紙のことなど忘れて。

 あるとき、私は友人を家に招いて、一緒にご飯を食べた。

 友人は私の家に泊まることになっていたので、友人を寝室に入れる。

 ふと友人が何の気なしに押し入れを開けた。するとそこには封筒が一枚あった。

 友人は私にそれを渡して私はそれを開いた。

 中はこうであった。


「私の駄文に御付き合いくださりありがとうございました。

                      後田。」

 江戸川乱歩みたいなのを書きたくなりました。

 イメージは「人間椅子」です。なんというか、ああいうミステリーを書いてみたくて書いてみました。

 ジャンルについては、どれが当てはまるかわからなくて、結局ホラーにしました。僕としてはミステリーなんですが。

 ちょこちょこ改稿してしまいますが、いいんでしょうか。

 ちょっと気になります。

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