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一色多季

作者: ほっちぃ

即興小説からの転載です。


お題:弱い体

制限時間:2時間

ないはずの青天井が瞳に映る。

身体を起こした少年は憧れと不安を胸に抱えたままに銀を見る。その銀の内から、魅惑の色が問いかけた。

〝キミはボクらと友達になってくれないのかい?〟

胃液を掻き回されたような顔で少年は答えた。

「もちろんこんな僕でいいなら、今すぐにでも友達になりたいさ。でも、ごめんね。君たちと僕を隔てる壁は、とてつもなく厚いんだ」

その声に、緑はそよめき首を振り、赤や白は頷いた。老いた実は返事を聞くや否や、灯火を消した。

色が友好的になろうとする度に、少年の眼は閉じていった。



鮮やかな斜光に、瞼の裏まで波が揺らめく。

「やれやれ、またか」

意識して色と縁を切ろうとする少年に反して、色は更に加速していった。

〝キミはどうしてボクらの傍に来てくれないんだい?〟

燦々とした白とにこやかな黄が、少年の溝に踏み入る。彼はそれを快く思わなかったようで、精一杯の青筋と黒の声で嘆いた。

「君こそ、どうして僕の傍にいてくれないんだい? どうして、僕は君の傍に行かせてもらえないんだい?」

色は彼の思念が理解出来なかったのか、淡々として応えた。

〝どうしてって、ボクはキミのもとへは行けないからさ。それに、キミとボクはよきパートナーだと思ってたけど〟

少年はそこまで聞くと色と正対する方へ身体を傾け、耳を塞いだ。

そして、にこやかな黄は『希望を無くさないで』と伝えないまま、彼に二度と会うことが出来なかった。



赤が野原を暴れ回り、くすんだイエローが大人の顔を覗かせる頃。

彼と色はあれから言葉を交わすこともなく、お互いに背中合わせの日々を送っていた。

隣の席で、安らかに社長を営んでいた人は、すでに先祖の眠る墓へと会いに行ってしまっていた。

「どうせ、僕なんて、誰とも友達になんて、なれないのさ」

銀の棧にぶつかった声は(しわが)れていて、刹那に溺れた。

〝キミも変わらないね〟

茶に昇華した緑は、見守るように一言だけ呟いた。

「……知らないな」

色に届かない大きさで、(くう)に刺した。



それは突然の事だった。色のほとんどがこの街を離れてしまったのだ。

彼らは新たな部隊で上書きされ、また別の場所で別な任務が与えられた。たったそれだけのことで、未熟な少年の心を震撼させた。

少年は色のあった方角を向き、物理的な蜃気楼の波に身を任せて言う。

「そんな、どうして急に僕の前からいなくなったんだ……。君は、君たちはずっと僕と友達になりたがってたじゃないか。僕だって、僕だって……。ねえ、彼らをどこにやったんだい? 僕の傍に戻してよ」

問うた音は白銀に吸い込まれたまま、しばらく返ってこなかった。

少年は待った。ただ待った。白銀を瞳孔と揺れる頬元に映したまま、ひたすら待った

すると、重々しい青藍が、白銀の代わりに応えた。

〝はじめからキミの傍になんていなかったじゃないか〟

少年がほつれた口元をなおす暇すら与えずに青藍が言う。

〝それに、キミは彼らと絶交したよね。ボクはキミの言動が理解出来ないよ〟

少年は自分を祟った。

頭を拳で打ち、頭を抱え、力の限りに関節を曲げ握った。


それからしばらくの間、少年は誰とも話さなくなった。



落ち着いていた色が少しずつ喧騒の予感を漂わせはじめた。

銀の内には、去年と遜色ない芸術が色を重ねていた。

その色が去年と同じものかどうかは誰にも分からないはずだったが、彼だけはこう呟いた。

「ごめんね。おかえり」

新たな緑はそよめき首を振り、赤や白は頷いた。

老いた実が必死になってしがみついている。

色が友好的になろうとする度に、閉じていく少年の眼は輝いていった。


「これからは、ずっと、一緒さ」


〝そうだね。これからは、ずっと……〟



少年がのこした手紙には、こう書かれていた。



ごめんね。ありがとう。



さようなら。

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