73章 虫
秀一はロサの元を訪ねた。
「やあ、ロサ。」
「きゃあああ!!神主さま!ちょうどいい所に!お助けになって!!」
「どうしたロサ?!」
「巨大なクモが出たんですの!」
「何だと?!」
ロサの指さす先にはアシダカグモが居た。
「なんだ。小さいじゃないか。猫よりも小さい。巨大なクモと言うからてっきり人より大きいクモの妖怪でも出たのかと思ったぜ。」
「十分大きいですわ!神主さまこの大きなクモを駆除して下さいまし!」
「待て待て。毒があるわけでもないし、アシダカグモは益虫なんだぞ。」
「え、えきちゅう?」
「人類の役に立つ虫の事だよ。人に害がある毒グモ以外のクモは皆益虫だ。人類に害のある害虫を捕食してくれる。人類の味方。僕達の仲間だよ。」
「いやあん!虫は虫ですわー!早く退治して下さ~い!!」
「そういってもなぁ。毒があるわけでもないんだし。益虫は人間の仲間だ。殺すわけにはいかない。」
「そんな屁理屈おっしゃらないで!とにかく追い出して下さい!」
「分かった分かった。殺さずに外に逃がす。」
秀一はアシダカグモを掴んで窓の外に捨てた。
「よく素手で触れますわね!」
「ゲジゲジみたいに足が千切れるわけでもないからな。ちなみにゲジゲジも益虫だ。」
「とにかく!ちゃんと手を洗って下さいまし!」
「やれやれ、ロサの虫嫌いには困ったものだな。」
「ゲジゲジもクモも気持ち悪いですわ!」
「不快害虫という奴か。益虫と人間は共存可能なのに。鼠をとる猫みたいに。」
「虫だけはぜーたいに許せないですわ!」
「はいはい。」
数週間後、秀一はロサにお土産を持ってやってきた。
「あらん、いらっしゃいませ神主さま。」
「うん。今日は虫嫌いなお前の為にお土産を持ってきたぞ。」
「え?」
「鈴虫だ。」
秀一は鈴虫が入った虫籠をロサに差し出した。
リーンリーン!リーンリーン!リーンリーン!
「きゃああああ!虫ぃいいいいい!!!」
ロサは泣きだした。秀一はロサの頭を叩いた。
「鈴虫だぞ?かわいい声だろう。これで慣れろ。」
「いやああ!!!どこが可愛いんですの!?ゴキブリと変わらないじゃありませんの!」
「ゴキブリとは違うだろう。強いて言えばカマドウマに似ているかもしれないが。」
「そう!それですわ!カマドウマそっくりで気持ちが悪いですわ!」
「虫は嫌いでも鈴虫やホタルは大丈夫だって人は多いのに。」
「わたくしは虫を差別しませんの!」
ロサは泣きながら虫籠を突き飛ばした。虫籠が落ち、ふたが開いてしまった。鈴虫はロサの顔の方へ跳んだ。
「いやあああああああああああああん!!!!」
ロサは泣きながら気絶してしまった。
「やれやれ、仕方がない。鈴虫は他の娘にあげるか。」
しかし、どの娘たちも虫を毛嫌いしたため、結局玄関に置くことになった。
リーンリーンリーン…。リーンリーンリーン…。
「良い声なのになぁ。」