66章 同人誌
秀一はジェシーの元を訪ねた。
「お帰りなさいませ。神主さん。」
「おー?何か書いているのか?」
「はい、同人誌です。」
「おお!漫画を描いているのか!漫画家になるという将来の夢が見つかったのか?」
「いいえ違います。ただの趣味です。」
「いやいや。漫画を描く気力が出てきただけでも偉いぞ。どれどれ、見せてくれ。」
秀一はジェシーの描いた漫画に目を通した。
「これって……。」
「『魔まマ』の同人誌です。」
「『魔まマ』のパクリだよね?」
「ですから同人誌です。」
「その同人誌って何なんだよ。」
「二次創作の漫画の事です。コミケなんかでよく売っています。」
「二次創作?」
「オリジナル作品を元に作った派生作品です。人気キャラにあんな事やこんな事をやらせるものは『薄い本』とも呼ばれています。」
「それってファンが怒らないか?自分の好きなキャラに勝手な事されて普通は怒らないか?」
「神主さんは頭が固いですね。そういう頭の固い信者も勿論いますけれど、多くのファンは同人誌を楽しんでます。」
「本当か?」
「むしろ、同人誌を求めるファンの方が多いと思いますよ。だからこそコミケはにぎわってるんです。」
「そういうもんですかねぇ…。」
「そういうものなんです!」
ジェシーは得意げに断言した。
「そういうのは作者の許可を取って出してるのか?」
「作者が許可を出すわけないじゃないですか!作者の許可が出ないような作品こそ需要が高いんです。勿論作者・利権者が許可を出してる作品もありますけれど、ほんの一握りでほとんど無許可で勝手に描いて売っています。」
「ちょ、ちょっと待て!それって犯罪じゃないか!」
「グレーゾーンです!」
「いややややや!完全にブラック!漆黒!ブラック中のブラック!訴えられていないだけで訴えられたら完全にアウツ…!」
「たまに訴えられた例もありますけれど、基本的には訴えられません。」
「訴えられなきゃ犯罪しても良いのか?!
レイプしても訴えられなきゃ良いのか?!!!!」
「レイプは強制性交等罪という非親告罪になったじゃないですか。」
「ぐっ!」
「同人誌は必要悪ですよ。同人は漫画家志望者の温床。そこから這い上がってプロ漫画家になる人やそれをきっかけにプロ漫画家を目指す人だって大勢いるんです。」
「同人が漫画家の新規の入り口となっているというわけか…。」
「同人は漫画家の人材育成の場です!」
ジェシーは自信満々に断言した。
「じゃあ、お前も将来的には漫画家を志すんだな?」
「いいえ、そういうわけでは…。」
「コミケに行くんだろ?脱ひきこもりできるじゃないか!」
「いいえ、ネット販売しようと思ってます。」
「じゃあネカフェに行くんだろ?この寺にはネット環境が無いから。」
「いいえ、神主さんに行ってもらおうかと。」
「他力本願かよ!!!」
秀一はジェシーの顔を引っ掻き回し、顔の傷に塩を塗った。
「ああん!私の美しい顔がぁあん!ありがとうございます!!!」
「犯罪まがい、もとい犯罪行為の肩入れはできんな。戦後の闇市並みに必要悪だったとしてもだ。せっかく描いたがネットに違法な物を出品するような事はできない。」
「ヘタレなんですね。」
「黙れ!」
(そもそもこの絵のヘタさじゃ売れないだろうな…。)