119章 ドラグソボール
秀一とチェリーは旅に出ていた。ドラグソボールと呼ばれる七つの宝玉を集めるためである。アメジストボール・アンバーボール・トパーズボール・エメラルドボール・サファイアボール・コバルトボール・アメジストボールの七つのドラグソボールを集めると、虹龍が現れ願いを叶えてくれるというのである。
秀一とチェリーはチェリーの燃え尽きてしまった髪の毛と死滅した毛根を再生して貰うために、ドラグソボールを集めているのだった。幸いドラグソボールは全て人が寄り付かない魔境に隠されているため、チェリーも同行できたのである。
「あと一つ。あと一つでドラグソボールが全て揃うな。」
「…。グスン…。」
黒髪ロングヘアーのカツラを頭に被ったチェリーは、茫然自失として泣きながら秀一に付いてきていた。髪の毛を失ったショックで涙が止まらなくなったのである。チェリーは常に暗い表情で落ち込み続けていた。
「あとはアメジストボールだけだ。もう少しの辛抱だ。頑張れ。」
「…。シクシクシク…。」
秀一はついに最後のドラグソボールを発見した。
「やったぞ!チェリー!さっそくドラゴンを呼び出すぞ!」
「………。」
しかし、チェリーは泣き止まず心ここに非ずであった。チェリーの心はすっかり壊れ切っていた。
「いでよ!ドラゴン!!!」
シーン…。
しかし、ドラゴンは現れなかった。
「そうか!何か合言葉…合言葉があるんだな!」
秀一はあてずっぽうで合言葉を唱えた。
「チチンプイプイ!アブラカタブラ~!オンカラキリソワカ!!!ピンコロピンコロ!ジャンボゥゲー!!アピポロピョーン!!!ブビデ・バビデ・ブー!!!」
シーン…。
「……。」
「グスグス…。」
秀一はさらに思いつく限りの呪文を唱え続けた。しかし、宝玉はうんともすんとも言わなかった。
「………。」
「メソメソ…。」
「ひらけ~ごま…。」
ピカー!!!
ゴゴゴゴゴゴ!!!
「!?」
ついに虹龍が姿を現したのだ!
(あんな呪文が正解なのかよ…。)
「まぁ良い!ドラゴンよ!このチェリーの髪の毛を元の長さに戻して、頭皮と毛根を回復させておくれ!」
クイクイ!
それまで死んだ表情で茫然自失としていたチェリーが秀一に袖を引っ張った。
「今日まで伸びるはずだった分の髪の長さも入れて…。」
チェリーが泣きながら小さい震え声でそう呟いた。
「分かった!ドラゴンよ!このチェリーを彼女が髪の毛を失った日から今日まで伸びる予定だった髪の長さにして、頭皮と毛根を回復させておくれ!」
「まて、ワシに先に喋らせろ。我が名は虹龍。どんな願いでも3つまで叶えてやろう。」
「ええ!?3つもかなえてくれるのか!?」
「そうだ。まず1つめの願いを言え。」
(さっきも言ったんだがな。)
「このチェリーを彼女が髪の毛を失った日から今日まで伸びる予定だった髪の長さにして、頭皮と毛根を回復させておくれ!」
「容易い願いだ。」
ピカー!!!
チェリーの髪の毛は元の長さより大分長くなって再生された。
「やったわあああああ!!!ありがとう神主さん!」
チェリーはようやく生き返った表情になり、笑顔になった。
「礼ならワシに言え。2つ目の願いは何だ!」
「この僕を不老不死にしてくれ!」
「難しい願いだ…。だが、叶えて進ぜよう。」
ピカー!!!
秀一は不老不死になった。
「ありがとう!ドラゴンよ!」
「3つ目の願いは何だ?」
「叶えられる願いの数を100に増やしてくれ!」
「それは不可能だ。」
「あちゃー。やっぱりかー。」
「分かっているなら言うな。」
「試しに言ってみただけぞい。」
「さあ、どんな願いも可能な限り叶えてやろう。」
(可能な限りって…。)
「じゃあ、君の願いを叶える能力をくれないか?」
「願いを叶える能力だけで良いのか?」
「うん。」
「お安い御用だ。」
ピカー!!!
秀一は願いを叶える力を手に入れた。
「ただし、願いを叶えられるのは1000年おきに3つまでだ。では。さらばだ。」
虹龍は消滅し、ドラグソボールはただの石コロになってしまった。これから1000年は虹龍を呼び出せないのだ。しかし、虹龍を呼び出したころでもう意味はない。願いを叶える能力を秀一に与えてしまったため、もう願いを叶える力は無いのだ。
「よかったな!チェリー!」
「ええ!」
「さあ帰ろう!」
「ねえ、神主さんが貰った願いを叶える能力で帰らない!」
「バカ言え!1000年に3つだぞ?そうやすやすと使えるかー!!!」
秀一はチェリーを投げ飛ばした。チェリーはウルツァイト窒化ホウ素より100倍固い神尽で作られた壁に顔面から激突し、ズリ落ちた。
「ああん!美しすぎる長い赤髪にふさわしい美しすぎる顔が台無しだわぁん!」
チェリーはせっかくの美しすぎるロングヘアーに似合わない無様な顔になってしまうのだった。