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南部・津軽戦争  作者: Nemesis
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プロローグ

 青森県八戸市から青森市へと向かうルートのうち、石川正敏(まさとし)大尉率いる南部軍第一まさかり中隊は、奥州街道を北上していた。

 上半身裸に褌をしめた鍛え上げられた百の兵たちが、身の丈ほどもあるまさかりを肩に担ぎ一糸乱れず行進していく様子はまさに壮観。恐らく、日本初の光景だ。

 奥州街道を左に折れ、みちのく有料道路方面へ進む。やがて見えてきたのは、道を塞ぐように並ぶ、槍を持った軍勢であった。

「南部のもののふよ!」

 石川は吠えた。

「今こそ自慢の剣を奮う時だ!」

 自身のまさかりを掲げて叫ぶ。どう見ても剣ではないが、石川は大真面目である。兵たちもまさかりを掲げ、おおお! と応じた。

「裏切り者の津軽に正義の鉄槌を下さん! 者共、殺到せぃ!」

 石川の号令を合図に、まさかり兵たちは一斉に、しかし隊列を乱すことなく、突撃していった。

 応じたのは、津軽軍北部国境守備隊であった。主に三内丸山遺跡の縄文人からなる軍勢である。平時は三内丸山遺跡内における縄文人の自治を保障する代わりに、有事には兵として津軽のために戦うことが義務づけられている。

 戦いは南部軍優位に進んでいた。普段から熊やイノシシ相手に戦っている縄文人は、個々の力はずば抜けているのだが、まさかり隊の統率された圧力に後退を余儀なくされる。

 下北半島の形を模した巨大なまさかりはかなりの重量があり、かすっただけでも大けがは免れない。それを、横一線に並ぶまさかり兵が上下に振りながら迫ってくるのだから、面での圧力は圧倒的であった。

 縄文人の槍がまさかり兵を負傷させても、その兵は隊後方に下がり、すぐに二列目が前に出る。こうすることで面の圧力を維持していた。

 ぬるい。石川は思った。今回の任務はあくまでも津軽軍の国境封鎖を破り、みちのく有料道路を南部側が押さえることまでであるが、この調子なら勢いのまま青森市まで殺到できるかもしれない。

 しかし――。


 ズダダダダ……。

 突如、青空に響く銃声と共にまさかりの壁が崩れた。

「どうした!」

「マタギです!」

 報告に駆け付けたのはまさかり部隊の小隊長、五浦秋人(あきと)少尉である。

「青天の霹靂(へきれき)弾による銃撃! 重傷者多数!」

 事前の情報では津軽軍はマタギを抱き込むことに難航していると聞いていたが、どうやら我々の侵攻に間に合ったらしい。石川は下唇を噛んだ。

 加えて、青天の霹靂弾。青森県が誇る高級米品種「青天の霹靂」を銃弾として転用することで、弾薬供給の不安が解消されている。片手にすくっただけの米でも数百発分にもなるからだ。非常時には兵糧にもなる。

 軽い米粒に攻撃力を与えるために専用の銃が必要であるはずなのだが、こちらもすでに実戦配備されていたらしい。事前情報と随分異なる。

「大盾隊! 前へ!」

 石川の指示は早かった。縦二メートル、横一メートルのキャスター付き鉄の大盾を押しながら、十人の兵がずらりと並んだ。そしてその大盾十枚を、隙間なく構える。

 青天の霹靂弾は、その南部鉄器の大盾を打ったが、軽い音で跳ね返される。

「おお! さすがは南部鉄器! 米など相手になりませんな!」

 五浦は驚嘆の声を上げた。

「七戸町役場まで退却する」

 石川は言った。予想外の青天の霹靂弾により、こちらも大きな損害を受けた。また、マタギと青天の霹靂弾のことを三八城(みやぎ)公園(八戸城跡)に構えられた本陣まで早急に伝えねばならない。

 大盾隊でまさかり兵たちを守りながら後退。奥州街道まで引き返したが、津軽軍は追っては来なかった。今回交戦した縄文人とマタギ部隊の任務は、あくまでも国境守護のみのようだ。


 こうして、後に第一次みちのく会戦と呼ばれる、最初の激突は幕を閉じた。

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