第六話:知り得なかった心
千尋と別れた虚也達。
帰路につく中、虚也は、自身の心の揺らぎが少しずつ大きくなっていくのを感じていた。
午後4時を少しすぎた頃、虚也達はホテルへ戻る道へ入っていた。
「もう何も買わなくていいのか?」
「あら、さっきまではまだ買うのかよーって不満たらたらだったのに、今になって2人っきりでいたくなっちゃった?」
「んなわけねぇだろ。
だいたいお前、誰に対してもそういうこと言ってると、ただの尻軽女に思われるぞ。」
「大丈夫大丈夫、本気で言ってるのは一人だけだから。」
「はあ!?それってまさか…」
「安心して、うっちゃんじゃないよ♪」
「いやそういうことじゃなくてだな…!」
まさか美華に意中の相手がいるとはと意外に思う。
虚也ではないらしいが、誰に対してもあの態度を崩さないので、正直見当がつかない。
というか相当な役者だな…と虚也は少し寒気を感じた。
「まあうっちゃんにはわかんないだろうねー。
恋愛経験なさそうだし、うっちゃん自身がすっごいわかりやすいし♪」
「は?俺が?
わかりやすいってなんのことだよ。」
「あっははは、ウブだねー、どうせ初めてなんでしょ?」
「なにがだよ」
「舞園千尋って人。」
「……!!」
表情が一瞬固まる。
「あははは、やぁっぱり♪」
悪戯の成功した子供のような声を出す美華。
完全に図星だと思っているようだ。
しかし虚也は、その言葉に対してしかめた顔をつくる。
「…違う。あれはそんな感情じゃない。この件が終わると同時に消滅するさ。」
「そんなわけないでしょ?
うっちゃんの中にも千尋さんの中にも、ずっと『それ』は残り続けるよ。」
「……そんな甘ったれたもん、今更拾い上げてたまるかよ。」
「うっちゃん…。」
同じ場所で生まれた龍我と共に、虚也は半分が人間、もう半分が龍という、純粋な人間とは本質的に異なる存在だ。
それだけではない。
虚也の力は、人工的に造られたものなのだ。
古来より、龍、種族的に「天龍族」と呼ばれる存在は、生物の中で最も神に近い存在であり、その一部は神すら超越するとさえ言われるほどの力を誇る"最強"なのだ。
そしてそんな天龍族の力を欲した一人の科学者、八雲翠。
彼女は15種の天龍族の血(遺伝子)と、50人を越える母体を使い、13人の"天龍と人間のハーフ"を健康体で誕生させることに成功した。
それを飼育し成長させ、世界を牛耳ることが翠の目的であり、数十年前発覚し未遂に終わった『龍人計画』。
虚也と龍我の2人は、正しく龍人計画によって生まれた"被検体"なのだ。
「俺は産まれたときから世界の理から外れてんだ。
人並みの感情なんざ持ち合わせたこともないし、今更持とうとも思わない。
俺が生きてきたのは、これから生きていくのは、血と力に埋もれたどす黒い世界だ。
その世界にこんな感情は要らん。
寧ろ弱みが増えて邪魔なだけさ。」
「うっちゃん…」
美華の声。
それは、虚也のこの霧の立ちこめる心を見透かしているようで落ち着かなかった。
すると美華は、
「それはあぁ!」
虚也に対していきなり大声を上げ、人差し指を突きつける。
そして、にっと笑って、断言した。
「…建前だね!!!」
前投稿したのは何時だったかと、道述龍我です(´・ω・`)
今回は虚也達の出生についても触れられていますね。
龍刻想紀でもまだ語られてはいないものですが、虚也の人格を語る上では欠かせないものだろうと判断して入れてしまいました。
ネタバレ嫌いな方は申し訳ありませんm(_ _)m