第四話:邂逅
会議の後、虚也は美華と共に町へ繰り出す。
しかし虚也は、美華のその高すぎるようにも見えるテンションに、一抹の不安を感じるのだった…。
「きゃ~~~~~~~~、このバッグか~~わ~~い~~い~~~~!!
買っちゃお買っちゃお!!」
「まーーーだ買うのかもっさり太陽…
あとうっせぇぞ。」
昼下がりの神楽町。
虚也は、遊びたいとだだをこねる美華と共にショッピングに来ていた。
他のメンバーはホテルにいる。
天仙は戦闘に備えて自らの得物である「封龍剣[天和]」の手入れをしておきたいと言い、
龍我は「あの場所に行くのは夜だけで結構」と言って断った。
虚也の「面倒臭い」は空しく聞き入れてもらえなかったため、めでたく荷物持ちとなったのである。
「…にしても…。」虚也は眉を顰める。
神楽町は自然豊かなのが売りの町。
町の隅には、住民に「裏山」と呼ばれる小高い山がある。
そこには町を一望できるスポットがあったり、数種類の草木が混じりいっていたりと、登ってみると意外と楽しいものだ。
町中にも緑は多く、そこいらの都会より化学的な空気は澄んでいる。
住民同士もよく話していて、仲間内での関係は悪くはなさそうだ。
だが。
この町には、一般人では気付かない「違い」があった。
現在の上層部4人がひた隠しにしようとしている「闇」が、そこかしこに露出していた。
それは隣にいる美華も感づいているのだろう。
「あ、みてみてうっちゃん、この服すっごく可愛いよ!ほらほら~。」
などと陽気な台詞を発しつつ、どこかでその「何か」を警戒しているようだった。
「んなもん知らねえよ。
俺に可愛いだの何だのを求めるんじゃねぇ。」
「え~、つれないなあ。
そんなんじゃ嫁いであげないよ~?」
「てめぇを嫁に貰ったりしたら体力ゲージ無限でも死ぬわ」
「えっへへ~、ザラキザラキ~♪」
「はいはいマホカンタ」
美華の振る話に適当に虚也が合わせながら2人は買い物をしていく。
そんな中、虚也の感じた妙な空気は確信へと変わっていった。
「やっぱり、かなり住民の元気がないな。」
「そうだねー。
皆さん町長の束縛にお疲れな感じ。」
「…だけじゃねぇな。」
「…うん。それだけじゃない。」
この町では、トップが魔術師ということもあり、それらの存在が住民には認知されているようだ。
……口にするのも恐ろしい、悪魔として。
市街地でも商店街でも、魔術師と分かる者達はそうでない者達から異様に敬われていた。
先ほど立ち寄った喫茶店でも、魔術師であるらしい大原とかいう者が席を待っていると言われて立ち退きを要求された。
特に居座る必要もなかったし、騒げば警戒されると、あからさまに敵意を向けようとする虚也を美華が宥めて事なきを得たが。
この町は異様だった。
魔術師の支配は、息の詰まるほどに窮屈だった。
特にこの路地裏など…
「…ん…」
「どうしたの?うっちゃん。」
「…流石にあれは看過出来んな…。」
「あれ?…あ、あの人…。」
2人の目が止まったのは、人通りの少ない住宅街の一角。
「全く…。雑魚は大人しく言うことを聞いていればよいものを…。」
一人の魔術師と見られる男とその取り巻きであろう者達が、倒れ伏す一人の女性の前に立っていた。
「ごめんなさい…。ごめんなさい…。許してください…。」
何が悪いのか、その女性は地に這い蹲りながら謝罪している。
その前にどんな理由があったかは知らないが、集団で人を傷つけるのは許容されることではない。まして魔術師と一般人、それも女性とあればなおさらだ。
それに…。
「全く…これだから弱き無能の女は。」
「大原様のご趣味も知らないとは。」
「何度も言っておろう。
私は別に貴様の無礼に怒りを見せているのではない、と。
許す許さないの話ではない。私は…」
そう言うと魔術師は、女性を攻撃する構えを見せ、不気味に笑った後、
「…人の苦しむ顔を見るのが好きなだけだ!」
その手を彼女に向けた。
刹那、
「ー瞬援の猛攻ー」
ズドンという鈍い音と共に、魔術師の顔面が真下のコンクリートに叩きつけられる。
術を発動する直前、須臾の間に現れた虚也が空中から回し蹴りを決めたのだ。
「お、大原様ぁ!」
「き、貴様、大原様に何をするか!」
「さては貴様流れの魔術師だな!
大原様のお力も知らぬとは!」
「あー五月蠅い。
こんな爺の力なんざ知るか。
騒がれるのは面倒臭いし全員この場でぶちのめさせてもらうぜ。」
「な、なにを!」
「あ~りゃりゃ~。ま、あたしも出ようかと思ってたし、仕方ないか。」
虚也の蹴りは、脚に現した推進装置により威力が数倍に跳ね上がっていたため、魔術師は既に戦闘不能。
頭が一撃のうちに沈黙したため、残りの取り巻きをそれごと纏めて拘束するのは、最早単なる作業だった。
ооооооооооо
「…んで?何してたんだ、お前。」
「こらこらうっちゃん、言い方悪いわよ。
ごめんなさいね、無愛想な奴で。」
「いえ、あ、ありがとうございます。
実は私、役所の仕事で大原様へ用がございまして。」
「あら、その用事ってのはまだすませてない?だったら…」
「いえ、大丈夫です。
済んだ後に言い寄られて、それをお断りしただけですから。」
女性はおっかなびっくりといった様子で美華の言葉に応える。
「ええ、そんなことでここまで傷つけられたんですか…可愛そうに」
「全く。弱い奴いたぶって何が楽しいんだか。
抵抗ねぇしすぐ死ぬし、つまんないと思うがな。」
「ちょっとうっちゃん!!
流石にそんな言い方ないじゃない!」
「いえ、庇ってくださらなくてもよろしいですよ。
実際私はひ弱ですから。」
美華の反発に女性は笑顔でそう言った。
「ひ弱、ねぇ…。」
虚也には解らなかった。何故女性が笑顔なのか。
されるがままにされておいて、何も感じないのだろうか?
「あの…」
女性が虚也を見つめている。
「んだよ。助けなんざ要らなかったか?」
「いえ…。私が言いたいことは違います。
あの、本当に…。」
その次の行動が、一番虚也には理解できなかった。
「助けてくれて、ありがとうございました!!」
満面の笑顔で、彼女は笑ったのだった。
何だか、切りどころが分からなくていつもより長くなってしまった(´・ω・`)
このくらいの方がいいのかな?