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七人寄れば姦しい  作者: 二番
7/15

情報戦

『――――この時間を持ちまして下校とさせて頂きます。また最終下校時間は17:00となりますので注意してください。尚、上級生は参加しないため既に帰宅しております。教師一同明日の大会を楽しみにしておりますので、それでは励まれますよう―――』


 現在時刻は午後2時、つい先ほど自分史に思い出しくもない一項を追加していた僕は放送を聞き終えると彼等に向き直った。


「影丸達は二手に別れて2つ以上のクラスを調査してくれ、Cクラスを優先してな」


「………了解」


「それと『低木層』『亜高木層』の生徒はB棟内に点在して待機、情報漏洩防止に努めてくれ。他クラス生徒が翠感や暴力を働かないとも限られないから抑止力のために携帯でも何でもいいからカメラで常に録画しながらな」


 あくまでも“確認した場合“のみ出場停止処分が下されるわけだから何の証拠もなく違反されたといってところで認めないだろう。廊下や教室には半球体の監視センサーが有るため翠感や暴力は防げるが、もちろん死角は存在するしトイレ等センサーが無い所も有るため油断してはならない。


「後は逐一教室外の状況を連絡してくれればいい」


 委員長がその綺麗にまとめられたおさげ髪を揺らせながら席から立ち上がった。 


「連絡は携帯電話でも口答でもいいの?」


「どちらでもいい。ただ、委員長は色々聞きたい事が有るから教室待機で、そういうわけだからすぐに移動してくれ」


 そろそろ他のクラスも何かしらの行動を起こしてくるだろう。

 そうして指示を伝えると彼等は、


「それじゃあ行くか」 「私は廊下に要るよ」 「念のため女子は男子の近くに配備することにしよう」 「じゃあ僕は階段付近に」


 口々にそんなやり取りをしながらそれぞれ持ち場につくため教室を離れていった。

 さて、これからだが与えられた情報はCクラスに野球部のレギュラーが六人とキャプテン。D、Eクラスにバレー部員がそれぞれ七人。これだけだ、正直どちらも不戦勝で乗り越えたいところだがそれが出来るかどうかはまだ判断できない。情報が入ってき次第だろう。


 よって今出来ることは経験者に対して如何に唯一のアドバンテージである翠感を使うかシミュレーション及び計画することだ。

 教室に残ったのは春の七草に岡、委員長と僕を含めた10人、そのひとりであるBクラス女子代表生徒の奈瑞菜と目が合った。


「で、マスター。私達はどうするんですか?」

「まずは初戦を不戦勝以外でどう勝ち越すか…これを考える」


 その際、重要なのがやはり翠感である。ここに集めたのはそれが野球に見出だせるかと思った者と単純に翠感の強力な者だ。それに岡と奈瑞菜に関しては代表であるため必ず一人は参加させなければならない。


「岡と珠洲はたぶん野球は得意だよな?」


「うん、得意」

「俺も運動全般自信は有るよ」


 僕の確認に二人は即答する。とすると後は翠感で力不足を補填できる平子とその三鬼を参加させるとして………。


「平子は二種目参加決定な、野球に関しては純粋な戦力として平子と三鬼、僕、珠洲、岡の七人で他はアシストとして入れる」


 野球はこんな感じだな、残りの二人やベンチもこの中もしくは別の生徒から選ぶ予定だ。


「あと御形は怪我の治療のためベンチで待機、それと委員長も細かなルールとか確認のため同じくベンチ」


 ちなみに委員長の翠感はスギ花粉を放出することなのだが今一有効な手立てが見つからない。他の『高木層』である春の七草『芹、撫子、菘、奈瑞菜』も同じく。

 彼女達の翠感を簡単に説明すると、芹はそのまま『セリ』の事であり多重人格な面が有って5月に関する何かを見聞きしてしまうと粗暴な性格となるが状況に応じたとてつもないポテンシャルを発揮する。しかしそれは短時間しか持たず約十分程度。反動も大きく時間が過ぎると約30分の睡眠に陥る。

 菘はいわゆる根菜類である『カブ』の別称。その花言葉『晴れ晴れと』そして冬の季語で有ることから間をとって局地的に雨を降らせる事が出来る。範囲は長径1キロメートル程度で雨量は調節可能。


 撫子は、ハコベ、ハコベラと呼ばれるナデシコ科ハコベ属のことで名前はそのナデシコ科から取っていると前に聞いたことがある。花言葉は『追想』翠感は強制的に記憶を呼び起こしたり昔を思い偲ばせることが可能で翠感を使わなくても相手の顔で大体の感情を読み取る事を得意としている。

 奈瑞菜は特に強力な翠感で、一言で説明すると人を思い通りに操ることができる。ただ二つ制限が有りマスターである僕には効力がなく、1度使用した人には通じない。これもまた『あなたにわたしの全てをささげます』という花言葉から来るものだと思われる。


 芹は野球の場合、代打で出すことは出来るが他は翠感がそもそも運動向きじゃない。それはさておき委員長に聞きたい事が何点か有る。


「委員長、ベンチ入りの上限人数って分かるか?」


 教卓近くの席に座る彼女は少し考えるように間を開け、


「えーと10人だったと思います」


 そう言った。それなら十分だ、流石に運動神経だけを頼りに経験者に勝てるとも思わない。しかし10人もいれば場面によって都合のいいように翠感を使用することも可能だろう。


「なるほど、10人か。それと2試合目のバレーが行われる場所ってのは幾つ有る?」


 これが僕の思惑通りなら不戦敗の確率はずっと下がる事となるわけだが……。野球であればその場所は3つ有るグラウンドの何れか、しかしバレーであれば基本的には屋内、しかしそれだと情報戦の意味が半減してしまうので屋外のコートも有ると考えられる。


「格技場とCグラウンドの2ヶ所ですね」


 これは好条件だな、選択肢が2つしかなく屋内外で別れている。格技場以外の体育館のようなスポーツが行える場所が存在しないかとそれだけが懸念だったのがそれも消えた。


「だったら2試合目が不戦敗という可能性は無くなるな」


 その台詞に一同は驚いたように僕を一斉に凝視する。


「そうなんですの?」

「説明してくれるかい、畦倉くん」


 平子と岡の二人は他七人の疑問を代弁するかのように言った。


「簡単な話だ、バレーについては屋内に1つ、屋外に1つバレーコートが有るわけだろ?」

「はい」


 委員長がその問い掛けに相槌を打つ。


「つまりCグラウンドを直前に使えなくすればいいんだよ、例えばCグラウンドが使われるとして一時間に20~40ミリの大雨が降ってきたら学園側も格技場に場所を変えるだろ。最初から格技場に要ればいいんだ」


 しかし、明日は快晴。だから菘の翠感を知らない岡と委員長は顔を見合わせて僕が何を言ってるのか分からないという様相を呈している。だけども本人を含めた七人は気付いてるわけで――――


「……………私の出番」


 菘がそう呟いた。


「あーなるほど、菘は局地的に雨を降らせられるから。というかもうそれで勝てるんじゃないの? 例えばそのCグラウンドでバレーが行われるとして急に変更されたら試合後十分までには格技場に着くことは出来ないと思うし」


 そんな撫子の質問に奈瑞菜が応える。


「場所が変更される場合、放送が入ってから二十分の猶予が与えられるはずです。つまり、私達は不戦敗する事はなくそのように不戦勝することもまた無いというわけです」


 そう、これはあくまでも不戦敗しない方法。確かに菘の翠感を上手く使えば不戦勝にもっていく事も可能かもしれないがそれにはまだ足りない。



「そういうわけだ。バレーの場合のメンバーもさっきと大体同じだな、平子と珠洲と岡、後は三鬼で六人一組を作る」


 ちなみにハイスペック鬼こと三体の赤鬼はオリンピック強化選手並みの運動能力を保有しているため今大会においてBクラスの重きが置かれる人材(鬼)である。


「それでテニスは勿論代表二人に出てもらう。これが現段階で考えられる計画だな」



 後は諜報部隊から情報が入ってくるのを待つしかない、特に一試合目の野球が難点でこれこそ情報がないと不戦敗になる可能性が高い。バレーと違って4クラスが3つのグラウンドで入り交じるため混乱しやすいことも考えられる。


「テニスは二人に完全に頼ることになるから頑張ってくれ」


 三試合目のAクラスについてはガチンコタッグマッチという事になる。試合での翠感の使用が可能な以上二人に託すのが最善手だろう。


「まかせてください」

「存分に期待してくれ畦倉くん」



 そのはっきりとした返事を聞き入れ、9人を見ていると不満げな表情の少女がひとり、


「あたしだけ役割ないんだけど」


 と愚痴を溢した。そう言われても撫子の『追想』は今のところ役立ちそうにないしな。


「撫子は………アレだ。テニスが終わったら木田にトラウマでも掘り起こしてやれ」


「あ、それいいね」


 どうやらお気に召したらしい。そんなこんなで適材適所にのっとった人材配置を終えた僕は教卓の上に置かれていたBクラス生徒全員の翠感の内容が記された翠感測定の際利用したプリントに目を通す。その中の一枚、ヒカゲノカズラと記入された用紙、『亜高木層』とされる影丸茂樹の情報に僕は注目していた。用紙には翠感名『(かげ)』と書かれている。

 翠感名というのはこれといって決まった基準は無いのだが汎用性の高い『高木層』に付けられる事が多く、大抵の場合は日本翠感協定が2つ名のような物として個人に与える。僕は『管理者』がそうで、あまり知られていないが奈瑞菜は『羊飼いの財布』等々付けられている。


 書類を見る限りだと影丸の翠感はかなり優秀だ、影そのものに溶け込むことも出来ればそれを動かして接触することも出来るらしい。僕が『管理』する植物にもヒカゲノカズラは存在しない、つまり『高木層』なのでは――――――


「畦倉くん!」


 その時、教室の扉が勢いよく開かれた。教室内にいた全ての人間及び精霊が音のした方向に視線を向ける。―――僕はその小柄な少女に見覚えがあった、神宮寺さんだ。彼女は諜報活動を担っている一人でも有る。


「何か情報が?」

「うん、Cクラスの代表だと言う生徒から正々堂々と試合がやりたいとの申し出が有って……」


 正々堂々やれば普通に考えて分が有るのはCクラスだ。そのためその提案に対する不信感はあまり無いのだが………『高木層』が8人も居るクラスと正面からやり合えば接戦になる可能性だって懸念すべきだろう。



「……そうか、話だけでも聞いてみよう。案内してくれ」




***






 神宮寺さんに案内されてやって来たのはC棟1階の図書室。その本棚に囲まれた部屋の一角、そこにはソファーに腰掛ける二人の男女がいた。


「で、君らがCクラス代表生徒か?」


 その場は僕に追従するように後ろから付いてきた芹と撫子を含めたBクラス四人とCクラス生徒二人が対面する構図となっている。


「ああ、俺は野球部キャプテン風間(かざま)颯太(ふうた)。彼女はソフトボール部副部長の東雲(しののめ)真弓(まゆみ)


 肯定すると同時に自己紹介を行うのは頭を丸めた野球少年という言葉がよく似合う自称キャプテンの風間だ。隣の女子生徒も髪が短めに切り揃えられ少しつり上がった目は活発そうな印象を受ける。一年生でキャプテンだとか引っ掛かる点は有るが教師からの情報にも有ったため確かにそうなんだろう。


「そのキャプテン云々の自己紹介とかもそうなんだけど、二人がクラスの代表だときちんと確認出来るか? こっちもホイホイ信じるわけにはいかないんでな」


 これが情報戦の一環なのだとしたらCクラス側のメリットが感じられる事が幾つか存在する。代表生徒と偽ってBクラスと協約を結ぶこと等、そうだった場合Cクラスの不戦勝という結果に繋がる可能性が出てくるわけだ。そんな僕の懸念を察したかのように二人はすぐに生徒手帳を差し出した。


「これを」


 その提示された2つの手帳を受け取る。そこに載っている顔写真は間違いなく二人の物だ。


「えーとCクラスに……野球部所属、隣の彼女も――同じだな」


 しかし足りない。僕が一番欲しているのは彼等がCクラス代表だという確固たる証拠なのだ。


「………代表なら教師から与えられてる情報も知ってるよな?」


 これは単純な問い掛けではなく、彼等が本当に『正々堂々』を求めているので有ればその内容も話せといった意味を包含した尋問である。


「俺は1試合と2試合目で使用するグラウンドを知ってる。勿論、君たちが申し出を受けてくれるのなら話すつもりだ」


 それが本当であればBクラスにとっても都合のいい話だ、対面する青年、少女は真摯な眼差しを僕にぶつけている。ったく、これで嘘だったら人間不信になるぞ………。


「―――撫子、読めるか?」


 僕は今まで隣で静かに佇んでいた撫子にそのジャッジを任せた。



「嘘はついてないと思うよ」


 沈黙をおいて発されたその一言にCクラス女子代表………東雲真弓は目を丸めていた。それもそうだろう、僕もハローワークに行ったと嘘をつく度にそれがバレてたからな。撫子には一目で人の感情が分かるらしくその一隻眼を持ってすれば嘘を見抜くことも容易いらしい。特に男が嘘をつく際には虚勢が顕著に表れるのだとか。


「その話受けさせてもらう、内容は情報の共有って事でいいか?」

「ああ……」


 スムーズに交渉成立した事が余程意外だったのか動揺を隠せないでいるらしい。


「交渉成立だね」


 芹が満足そうにそう頷いた。


「それと1つ聞きたいんだが……この交渉で得られるCクラスの側のメリットというのは?」


 Cクラスが勝つことだけに執着しているならばこの交渉は不利益なものとなる。折角の情報を相手にリークしてる訳だからな。



「『高木層』相手に得意分野でだけは堂々と勝ちたいからよ」


 東雲さんの口から発されたその哀調を帯びたような希望的な台詞はとても分りやすいものだった。彼等はこれを機に乗じて矜持を持って正面から見据えて戦いたいのだろう。Bクラスはもちろん、Aクラスに勝つことを目標として―――。

 一試合目は不戦敗の可能性も考慮していたから試合が出来るだけ前に進んだと言えるだろう。



「―――1試合目はAグラウンド、2試合目はCグラウンドだ」




****



 そして交渉の終えた昼下がり。



「畦倉くん、私そろそろ諜報活動に戻るね」


 図書室を後にするため扉をスライドさせて廊下に出ると女子高生には似つかわしくない台詞が神宮寺さんの口から発された。


「ああ……頑張ってくれ」

「はい、それでは」


 彼女はB棟とは逆方向に小走りで去っていく。おそらくD、E棟に向かったのだろう。そのストイックさは仕事のできるキャリアウーマンを彷彿とさせる………それに比べてこの二人は、


「な、撫子さんっ、あのっどうしてC棟に?」

「んー、連れ添いかな」


 図書室から少し歩いた先で撫子はCクラスの男子生徒数人に囲まれていた。話の内容はたどたどしいもので今にもお日柄がどうのだとか言いそうな雰囲気である。

 そして僕の背後では――


「お姉様、よかったら帰りにケーキ屋さんに行きませんか?」

「それって最近オープンしたところですか? 私も行きたいです、お姉様はどうされますか?」


「そうだね、部活もないしご一緒させてもらおうかな」

「「「本当ですか!?」」」



 といったように芹が黄色い声に包まれていた。優しい笑顔を振り撒き朗らかに話しながらもどことなく怜悧さを感じる芹の所作に女子達は魅了されているらしい。恍惚の表情を浮かべる者も入ればしきりに甲高い声をあげる者もいた。

 そんなお姉様と百合百合なやり取りを繰り広げる様は眼福なのだがチラチラと向けられる視線が痛いのでそそくさと逃げるようにその場から離れる。


 しかし……



「あ、マスター待ってください」

「なに先に戻ろうとしてんのマスター」


 そう言って芹と撫子の二人から行く手を阻まれた。黙って談笑に興じていれば良いものを…。しかし僕のステルス性が損なわれたのだろうか、存在感の無さにだけは一家言持っていたのだが……。


『『『マスター!?』』』



 その場にいたCクラス生徒の驚愕の声が廊下中に木霊する。それからヒソヒソと『管理者』だの「測定の時見たことある」だの話し始めた。



 これはアレだな。―――三十六計逃げるに如かず。





****






 注目の視線に耐えかねた僕はあの場から逃げ出したあと、1-Bを目指すものの広すぎる校舎の中を適当にさ迷っていた。日頃の運動不足から足に乳酸が溜まり歩く度に疲労が増していく、そんな僕が歩を進めていたのは両脇からずっと続く頑丈そうな壁に挟まれた長い渡り廊下だった。

 無論、どこに繋がっているものなのかは分からない。

 周りに人は見当たらず辺りは閑散としていた。そのため道を聞こうにも聞けず必然的にポケットに収まっているスマートフォンを取り出す。電源を入れて電話帳を立ち上げると両親と七人の精霊の連絡先が表示される。奈瑞菜と入力されているアイコンをタップして通話ボタンを押した。ちなみに全登録件数は9件である。


「はい、マスター?」


 2コールしない内に奈瑞菜は電話を取った。僕はその声に安堵を感じながら現状を打破するための情報を彼女に訊ねる。


「ちょっと迷ってな、GPSで位置情報を送るからB棟までの道なりを教えてくれ」


 言いながらSNS経由で奈瑞菜個人に位置情報を送信する。最近の携帯端末には目まぐるしく追加されていく機能が沢山有るがその最たるものがこれではないかとつくづく思う。


「えーと、マスターがいるのはAクラスとBクラスを繋ぐ廊下ですね。一旦中庭に出てもらえばすぐに分かりますよ、近くに掲示板も有りますし」


 そう言えば先程、廊下に入る前に分岐点が有ったな………。あれがそうなのだろうか。とりあえず言ってみよう。


「大体の位置は分かった」 

「そうですか、なら早く戻ってきてください」

「ああ」


 スマートフォンの画面に通話終了の文字が液晶に表れる。僕はソレを再びポケットに収め、踵を返してやって来た方向に足を進めた。

 そのまま少し歩いているとリノリウムの色が少し変わったように感じられた。ここが分岐点だ、中庭に通じているだろうその道を突き進む。ああ、おそらくここだろう。進んでいる内に来賓のために製作されたと思われる案内板やポスターがあちこちに配置されていた。それらを見ても向かっているのが入り口なんだと分かる。

 そして、それを見て初めて気付いた事が幾つか有った―――例えば明日開催される球技大会なのだが、2、3年生の催し物として自分の翠感を使うアトラクションや自分の能力を客観的に見てどんな事が出来るのかと企業がに向けたアピールが目的としか思えない発表会など来賓に向けた催し物がいくつも有ることや、部活動の試合なんかが行われること等。部活動については案内板の隣にお知らせのような紙が貼ってあり部長の一言がそこに添えられていた。それも驚いたことに一年生が多い。



「なんで一年生ばかりが部長なんだ……?」

「2、3年生は就職活動や進学の準備で忙しいからさぁ。すぐ引退しちゃうんだよねぇ」



 ぼそりと漏らしたその独り言を拾ったのは女性と見紛ってしまいそうなほどに腰まで伸びた薄茶色の髪が特徴的な中性的で精巧な造りの容貌を備えた青年だった。女子に見えなくもないがその制服から性別が確認できる。

 彼は僕を正面から覗きこむとふふっと口に手を当てながら強張った笑みを見せた。


「翠感名『管理者』、ただ一人の『召喚形』、そして『高木層』最高位にして唯一無二の【超出木】………そんな人に会えるなんてついてるなぁ」


 それが賞美の言葉なのかそれとも何か皮肉で言っているのか分からないがその口調に違和感を覚える。


「そりゃどうも」


 言いながらその場を後にしようとソイツに背を向ける。


「いや~、でも一瞬で僕のブルグマンシアに気付くとは思わなかったなぁ。おかげで計画もおじゃんだよぉ」


「あ――――なるほど、お前が木田か」


 ブルグマンシアという単語を頭の中で検索した結果、その名前が浮かび上がってきた。奈瑞菜との確執を持つAクラス生徒の名前だ。


「えぇっ、僕のことを知ってるのぉ? 嬉しいなぁ」


 嘘くさい笑顔と悦びの言葉に不快感を感じながらも視線をソイツと合わせた。


「茶番はいい、何か用が有るんだろ?」


 そうでなければあんな含みの有る話のかけ方なんてしない。


「うん、そうなんだぁ。僕ね、奈瑞菜ちゃんの事が大好きなんだよねぇ。能力が似てるから」

「まぁ似てるな」


 話が長引きそうなので適当に相槌を打って話を進める。それに確かに似ている部分も有るのだ。ただ、こいつの場合、奈瑞菜より危険性が強くて悪意に満ちている。


「だよねぇ! いや~分かる人だなぁ畦倉くんわぁ」

「その言い方だとあまり同調は獲られなかったみたいだな」

「そうなんだよぉ、まったくあの糞ども」


 急に低くなる木田の声色。その視線は誰か具体的な人物を思い描いているようだった。


「それはいいとしてぇ、つまり僕は彼女と恋仲になりたいんだよぉ。多分あと一押しなんだよぉ」


 木田は「だから―――」と続ける。


「主である畦倉くんからも言ってくれないかなぁ? それに僕と彼女がそういう関係になるのは国にとってもメリットが有ると思うんだよねぇ」

「ほら、僕と彼女の遺伝子が合わされば僕ら以上の才能が産まれてくるかもしれないだろぉ? もしかしたら畦倉くんさえも越えるかもねぇ」






 ――――癇に障る。


 話し方、態度、言動、性格、思考、全てが癇に障る。




「断る。奈瑞菜は渡さない」




 そして最終下校時間を知らせるチャイムの音が学校中に鳴り響いた。





――――――――――――――――

――――――――――

――――――

――――


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