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七人寄れば姦しい  作者: 二番
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答酬

 正気に戻った審判を努めていた岩山先生がBクラスの勝利だと宣言してすぐ僕は気絶した木田のポケットからクッキーの入った袋を回収して、木田を撫子の方へ放り投げた。


「え、マスター好きにしていいの?」

「かまわん。トラウマでも植え付けてやれ」


 その一言に撫子は爛々と目を輝かせた。彼女の翠感は『追想』……記憶を呼び起こしたり思い出に浸らせたり等を得意としている。短時間であればその書き換えも可能だ。

 周りではBクラスの生徒が鬨の声を上げて大騒ぎしている。その端でひとり佇んでいる奈瑞菜の下へ僕は向かった。


「奈瑞菜。ほら取り返してきたぞ」

「…………割れてますね」


 確かに粉々になっている物も有れば半分になっていたりと袋は粉だらけだった。テニスで激しく動いた事が原因だろう。


「やっぱり………お昼休みに食べてもらえば良かったです。やっと、やっと…綺麗に出来たのにっ……マスターと最後の学園生活なのにっ!」


 涙ながらに震える声で奈瑞菜はそう言った。彼女が何故今日この日にクッキーを焼いてきた意味もなんとなく分かる。

 僕はその思いを受け取ろうと袋のリボンをほどくと仰向けにして全て口に入れた。


「なに………してるんですか?」


 ボリボリと咀嚼していると奈瑞菜が僕の顔を覗き込む。


「前より美味くなったけど。まだまだじゃないか? これ」


 率直な感想だ。


「そう……ですか」

「だからさ。上達するまで食べ続けてやるよ。それに別に最後じゃない」

「え?」


 ああ……言ってしまった。

 これからこの騒がしい学生の中でこれからを過ごしていくと思うと憂鬱になる。だけど、


「本当ですかっ!?」


 この笑顔を見られるのなら別に良いか。学園長の思惑通りに事が運んだのは物凄く癪だが。


「本当だよ」

 

 そう答えた瞬間、グラウンドに立っているスピーカー柱から放送が入った。



『球技大会に参加した皆様お疲れさまでした。閉会式は行いませんので手短に結果発表と終わりの挨拶をしたいと思います。この後もイベントや屋台等も続けておりますのでここまで足を運ばれた方も宜しければお楽しみ下さい。…………今大会の優勝クラスは――――――Bクラス」


 それを聞いた回りの生徒達がどっと沸く。


『ですが、度重なるスポーツマンらしくない行動が目立ったため賞品は有りません。それでは皆さん最終下校時間の20時ですのでご注意下さい。それでは―――――』


 その言葉を最後に放送は途絶えた。まあ何となく予想はしてたが……その報告にクラスメートは荒れに荒れていた。


「ふふ。意外な結果でしたね」


 少し赤くなった目を擦りながら奈瑞菜は笑う。


「そうか? 意外でもないだろう。やりたい放題だったからな」

「違いますよ。その事じゃないです」


 僕が首を傾げると奈瑞菜はですから……と続けた。


「マスターが学園に通い続ける事になったからですよ」


 ………まあそれは自分でも意外だった。


「そ、そうか。じゃあ僕は報酬を学園長に伝えてくるから。」


 早足でその場を去ろうと歩き出す。自分でも分かりやすい反応だと思う。


「ちょっと待ってくださいよ。マスター」


 ニヤニヤしながら奈瑞菜が後ろから駆け寄ってきた。それをあしらっているとその光景を目にした他の六人までもが僕の行動を阻む。奈瑞菜が彼女等に僕がこれからも通学することを伝えると意味ありげな視線を突き刺し、一人ひとりが色々とまくし立て始めた。そんな状況で僕は幾つかの諺を思い出す。

 ――――――女三人寄れば姦しい、女三人寄ると富士の山でも言い崩す、女三人寄れば市をなす、女三人寄れば囲炉裏の灰飛ぶ、女三人寄れば着物の噂するというものが有る。

 “女”の字を三つ合わせるとやかましい意の“姦”の字になるところから女はおしゃべりで、三人集まるとやかましいという意味になるらしい。三人で諺になるほど騒がしいのなら七人ならどうなるのだろうか。

 しかし、彼女達精霊を“女”と一文字で言葉にするのは違和感を感じる。だから―――――――

 もし僕がこれから始まる学園生活を一言で表せと言われたらこう言うだろう。



 七人寄れば姦しい。

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