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『第二柱、日の下を行く者』

 木々が生い茂る森の中、二人の人影が馬を引いて歩いていました。次の町へ向かうには、どうしても森の中を通らなければなりません。足元はぬかるみ、馬から降りることを強いられていました。


「大丈夫か、フィオ」

「大丈夫だ。体の時間を巻き戻して疲労を取り除いている」


 靴に絡みつく泥が二人の行く手を阻みます。ただ歩いているだけで足が引きつりそうになる悪路です。レイヴァンは隣を歩くフィオに気を使って声をかけますが、フィオは鼻で笑って一蹴しました。


「……それは、平気なのか?」

「平気じゃないね。後でツケを払うことになるだろうさ。だが、流石にこんな森で野宿するのは御免でね。日没までに森を抜ける為には休んでいる暇はないしな」

「確かに」


 フィオはため息を吐きながら、真上に位置する太陽を見上げました。レイヴァンは多少不安げにしながらも頷きます。地面がぬかるんだ森で、見張りを立てながら一夜を明かすのは気がめいります。できれば、町で寝泊まりしたいところです。

 その後、二人は黙々と森の中を歩き続けました。しかし、レイヴァンが唐突に足を止めました。


「どうした。レイヴァン」

「いや、何か風を切るような音が聞こえたような……」


 レイヴァンは首を傾げながら辺りの音に耳を傾けます。フィオもつられて耳を澄ませますが、変わった音はないように感じます。しかし、フィオは突然、お腹の辺りに衝撃を受けて地面を転がる事になりました。レイヴァンはすぐさま剣を引き抜きます。


「フィオ様、フィオ様! やっと見つけたッ!」

「スー!? どうしてここにっ!?」


 フィオは抱き着いて頬を擦りつけてくる幼子の存在に驚いた声を上げました。森から飛び出してきたのがフィオの知り合いだと分かると、レイヴァンは剣をすぐ腰に戻します。けれども、足音もなく近づいてきたスーに対して警戒は続けていました。


「スー。その眼はいったい……。それに、どうやってわたし達の居場所を?」


 フィオはスーの瞳が黒ではなく、深紅に染まっていることに気が付きました。スーに化けた偽物が現れたともフィオは考えましたが、匂いや感触、肌の温かみ……。それらの情報が、この幼子は間違いなく、スー本人だとフィオに伝えます。スーは嬉しそうに笑いました。こんな状況でも、フィオはスーの笑顔を見るだけで疲労が消し飛ぶのを感じました。


「えへへ……、お姉さんがフィオ様たちの居場所を教えてくれたんだっ! スーがここに来れたのも、お姉さんのおかげだよ!」


 フィオはレイヴァンと顔を見合わせます。


「お姉さん……? それってメアリじゃないな……? いったい誰に聞いた?」


 今回の任務には緘口令が敷かれています。メアリが喋るはずがありません。だとしたら、いったい誰がスーにフィオの居場所を教えてこの場所まで連れてきたのでしょうか。フィオの頭の中には疑問符がいくつも浮かび上がります。

 けれども、そんな事はスーの温もりに比べれば、些細なことなのです。フィオはぎゅっとスーを抱きしめます。疑問をいったん頭の外に押し出して、スーの温もりを全身で感じるのが先決です。


「んー? そういえば、聞いていない! でもでも、あだ名みたいなのはあったよっ! それよりも、フィオ様フィオ様っ! 一緒に帰ろう? スーはずっとずっと寂しかったの。いっぱい、いっぱいお仕事したじゃないっ! もういいでしょ? それに、このままだとフィオ様が死んじゃうよ……。フィオ様じゃ、お姉さんには敵わないもん……」

「うう……。わたしもそうしたいのは山々なのだがなぁ……。そういう訳にはいかんのだ……」

「どうしてもダメなの……?」

「どうしても……、なのかなぁ?」


 フィオはスーの甘い誘惑に、苦悶の表情で逆らいます。フィオも帰りたい気持ちは同じなのです。『闇の王』の討伐なんて、他の騎士や魔法使いに放りだしてしまいたいのです。それでもフィオは任務を投げ出す訳にはいかなかったのです。

 フィオは瞳を濡らして懇願するスーの上目使いに心を揺さぶらされます。このままではいずれ、押し切られてしまいそうです。そんな中、二人の会話に横やりを入れる存在がありました。知り合い同士の会話だと静観していたレイヴァンです。


「少し待ってくれ……。『お姉さんには敵わない』だと……? まるで、フィオが『お姉さん』とやらと戦うみたいじゃないか……。それに、フィオもだ。まだ任務は終わっていないぞ?」

「あ、あぁ……。そうだな、そうだよな……。すまんな、スー。やはり、わたしはまだ帰ることはできそうにない……。その『お姉さん』について教えてくれないか?」


 レイヴァンはフィオに抗議の声を投げかけます。フィオに勝手に任務を放棄されれば、彼も困るのでした。我に返ったフィオはスーに問いかけます。


「……」


 しかし、スーは黙ったまま何も答えませんでした。珍しいスーの態度にフィオが困惑していると、スーはゆっくりとフィオから離れて振り返り、レイヴァンを凝視しました。


「……っ!?」


 レイヴァンは思わず、腰の剣に手をかけてしまいました。スーの目に気圧されてしまったのです。フィオに向けていた明るい表情はもうありません。無表情、ただの無表情でレイヴァンを見つめます。レイヴァンにはその眼に見覚えがありました。昔に討った、平民を人間とも思っていない貴族が、全く同じ目で民を見下していました。スーはレイヴァンを人間とも見ていなかったのです。


「ねえ……、お兄さん。フィオ様とずっと一緒にお仕事をしていたのって、お兄さん……?」

「ああ、そうだが……」


 スーの目に殺意が宿るのをレイヴァンは肌で感じました。皮膚がピリピリと痛みます。

 レイヴァンは向けられた殺気に対応するために、スーを注視します。そして、気が付きました。ぬかるんだ地面に溜まった水たまり……。そこに、スーの姿が映っていなかったのです。レイヴァンは警戒度を上げ、ゆっくりと剣を引き抜きました。


「レイヴァン……? 何を……」

「フィオ、その子は人間じゃない……。離れてろ」

「……っ! そんなはずないっ! この子は人間だ! わたしの家族だ! スーを侮辱するようなら、いくらお前だろうと許さんぞっ!?」


 フィオは再びスーを抱きしめようとします。けれどもスーは、フィオの腕をすり抜けてレイヴァンと向かい合いました。スーはふわふわと宙に浮いて、怨敵と視線を合わせます。


「スーっ!?」


 フィオは宙に浮くスーを驚愕の表情で見つめました。スーは魔法使いでも何でもありません。ただの人間です。ゆえに、宙に浮く事など出来るわけがないのです。

 レイヴァンはスーの接近に気が付かなかった理由を悟りました。スーは宙を浮いて足音を消していたのです。

 スーは驚くフィオに悪戯っぽく笑いました。誇らしげに小さな胸をそらせて自慢します。


「えへへ……、どう? すごいでしょっ! お姉さんが言うには、スーくらいに強くなれる人はほとんどいないんだってっ! ちょっと待っててね、フィオ様。今からスー達の邪魔する人をやっつけてくるっ!」


 レイヴァンはスーを強敵だと判断しました。その構えに油断はありません。本気で敵と斬り合うものです。スーも唖然とするフィオを置いて、レイヴァンに向き合います。その表情は敵に向けるものです。フィオには決して見せない、濁った瞳をレイヴァンに向けました。


「俺は『赫灼(かくしゃく)の騎士』レイヴァンだ。我が命、剣となりて同胞の王に捧げん」

「んー。こういう時、どう言えばいいんだっけ? お姉さんに教えてもらったんだけど、忘れちゃったっ! メモを見るけど許してねっ。……えーっと、『だいにばしら』『ひのもとをいくもの』スー・ドゥリトルだよっ! お姉さんに頼まれたとかは関係ない! スーとフィオ様の邪魔する悪者は、スーが殺してやるんだからっ!」


 スーはレイヴァンに微笑みかけました。猫がネズミ弄ぶような、そんな愉しげな笑みでした。


 この話を書き始める前は、1話1500文字で、1~3話、4~5話、6~7話と上げて完結させようとしていました。

 書き始めると1話に3000文字かかりました。さらに、ボス戦が始まるこの話は予定の半分ほどしか終わりませんでした。6話が書き終わった時点でラスボス予定だったのに、敵は半分以上残っていました。


 ……何が言いたいのかというと、連投で完結は無理でした()

 別の連載を1週間以上開けるのも嫌なのでペースが落ちます。すぐに終わりそうなこちらを優先しますが。

 とりあえず今日は残り1話で。

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