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冒険者シロ  作者: 世界平和
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「いやー、どうもありがとうございます。困ってたんですよ」


「そりゃそうだ!ミトル村は歩いて行ける距離じゃないぞ!俺が通って良かったな!」


「全くです。感謝しきれません。えーと、名前なんでしたっけ?最初に聞いたような気がするんですが、どうも印象が薄いというか」





山間部を走る馬車に男が二人いた。一人は恰幅のいい中年で、馬車を操っている。馬車の持ち主だろう。もう一人は、髪がボサボサながらも、服装は貴族階級が着るような高級スーツである。頭には白い布を巻いており、血は止まっているのだろうが、その赤く染まった布は、男が頭に怪我をしていたことを表している。首から石のネームプレートをぶら下げており『冒険者シロ』と汚く彫られている。


恰幅のいい中年・商人が、シロを拾ったのは、30分程前だ。国境に向かう悪路を、よろよろと歩くシロを見つけた。追い剥ぎにでも合ったかと思ったが、そういう訳では無いようで、話を聞くとミトルに向かっている途中だと言う。どうせ途中経路なのだからと思い、馬車に乗せたのだ。


馬車でお互い自己紹介をし、商人は最初に、シロの頭の怪我を訪ねたが『最近の道具は、難しいですねえ』と、シロはしみじみと呟くだけであった。


以降も商人は話し掛けるが、どうも回答がズレている事が、しばしばあるので、喋ってると疲れてくる。当然、シロからも喋り掛ける時があるが『いい景色ですねえ』と、針葉樹林しかない方向を見て言うので、反応にも困る。自然と口数も減り、馬車は静かになる。商人は馬車の操作で気を紛らすが、する事のないシロは気まずそうな顔で、荷台の隅っこに座った。


山を二つ超えた所。丁度、峠を越えた地点で、人が5人立っていた。服装はバラツキがあるが、傍目から見えても頑丈そうであり、ツギハギの多いところを見ると、手に入れたものを動きやすい範囲で、追加していったのだろう。5人は些か品の無い笑顔で、馬車を待ち構えていた。商人は男達が目に入った瞬間に、勢い良く走り出した。追い剥ぎが目の前に出てくる場合、後ろに大勢控えていることが多いのだ。あえて、勢いに任せて馬車で、追い剥ぎを正面突破しようと考えたのだ。馬車の余りにも思い切りの良さに、目の前の追い剥ぎは慌てたが、直ぐに冷静になって道の中央に、馬車1台分程度の空間を開ける。


商人は焦る。


馬車が追い剥ぎ達の目の前まで来ると、追い剥ぎ達は持っていた武器を馬と車輪に突き刺した。馬の悲鳴と共に馬車は大きく傾き、倒れる。倒れた馬車から、慌てて飛び出した商人が、馬車を囲っていた追い剥ぎに首を槍で刺され絶命した。追い剥ぎ達は、商人を殺すと反転した馬車をひっくり返す。そこで、荷台部分にシロを見つけた。しかし、追い剥ぎ達は動かなかった。シロの身体には、馬車が横転した際に折れた大きな木片が、シロの胸を突き刺しており、どう見ても即死である。荷物が服に引っかかっているのだろう。馬車が横転しても落ちなかったようだ。


「だっせえなあ。いい服着てるくせによお」


そう言って、追い剥ぎの一人がシロに近寄り、服を奪おうとする。


取れない。


死後硬直しているわけでもないのに、シロの身体は動かないのだ。当然、服を脱がせる事は出来ない。追い剥ぎは舌打ちすると、シロの右腕に標準を合わせて、槍を構える。身体を切って服を取ろうと考えたのだろう。


追い剥ぎが構える槍に手が添えられた。


シロの手だ。


余りにも自然な動きで、手が伸びて追い剥ぎの手に重ねられる。


追い剥ぎは固まっている。


シロの手に力が込められたのだろう。追い剥ぎの右手が千切れた。手首から先が、槍を握りしめたままになっている。尋常の力では無い。


その時になり、ようやく追い剥ぎは動けた。まず、叫んだ。


「こいつうう!生きてやがった!」


同時に槍を思いっきりシロに叩きつける。槍はシロの頭に食い込む。しかし、シロは動いた。槍が頭に食い込み、押さえつけられているにも関わらず、そのまま、左手を伸ばし、追い剥ぎの叫び声と共に顔を掴んだ。


ベキッ


追い剥ぎの顔が強制的に歪む。意識は既に無くなっているようだ。そのまま、ベキベキと卵のように頭が握り潰された。


その間、他の追い剥ぎによる攻撃でシロの頭には6つの槍が突き刺さっていた。高級な服を敢えて避けたのだろうか。不思議な程服は綺麗であったシロは追い剥ぎの攻撃を無視し、立ち上がると側にあった荷物を手に取り、近くの追い剥ぎに投げつける。


追い剥ぎの胸から上が吹き飛んだ。後から遅れて『パン』と弾ける音がした。


荷物は音速の壁を越え、その衝撃は荷物と追い剥ぎの上半身、両方を消し飛ばしたようだ。


他の追い剥ぎは唖然とし、漸くおおよその想像がついたのだろう。一人が逃げ出す。直ぐに他もそれを追った。


シロは離れて森に入っていく追い剥ぎを見つめると、馬車の荷物を手に取る。手に取ったのは、大きな樽である。水だろうか。樽の中から水音が聞こえる。そのまま、片手を振りかぶり樽を投げる。茶色の閃光が森を駆け抜けて、一番最初に逃げ出した追い剥ぎに当たる。

樽が弾け飛ぶ。大量の透明な赤色が見えた。樽の中はワインだったのだろうか。しかし、中には少し柔らかい肉塊や鉄が混じっている。樽は水で、追い剥ぎの血が色付けしたのだろう。


シロは次々と手近な荷物を投げていく。それらは全て、逃げ出した追い剥ぎに的中する。


馬車の木片を投げる。


追い剥ぎの上半身と下半身が分かれた。


死んでいる商人を投げた。


追い剥ぎの身体と商人の身体、両方がバラバラのパズルになる。


まだ息のある馬を持ち上げ、投げつける。


余りの風速に飛んでいる馬の脚が『ボキャ』と反対向きになる。馬の進路は少し追い剥ぎとズレている。振り返った追い剥ぎが、僅かにズレている事に気付き、微かな安堵の表情になる。


投げられた馬の胴体は、追い剥ぎに当たる事はなかった。かわりに、馬の尻尾が追い剥ぎの頭を弾き飛ばした。


安堵の表情が見える追い剥ぎの顔が、空高く舞い上がった。

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